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【余話】銀行は「前株」か「後株」かという、どうでもいい話

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(画像出典 レッツエンジョイ東京 大手銀行です / 豊洲駅 / レッツエンジョイ東京)

今回の記事では、銀行業界の小ネタとして、銀行の商号における「前株(まえかぶ)」「後株(あとかぶ)」について記載します。

銀行という商号を使う際の法規制

銀行という名前(商号)を我々は普通に聞きますし、違和感を持つこともないでしょう。

しかし、銀行は、なぜ「銀行」という用語を会社の名前に使っているのでしょうか。

例えば、みずほ銀行ではなく「みずほバンク」でも良いのではないでしょうか。 

まずは、銀行の名前に関する法規制について確認しましょう。

筆者が認識している限り、銀行の商号(名前)に関係する法律は以下の通りです。

 

①会社法

(商号)

第六条 会社は、その名称を商号とする。

2 会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない。
3 会社は、その商号中に、他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)
第七条 会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
第八条 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。

 

②銀行法

(銀行の機関)

第四条の二 銀行は、株式会社であつて次に掲げる機関を置くものでなければならない。(以下略)

(商号)
第六条 銀行は、その商号中に銀行という文字を使用しなければならない。
2 銀行でない者は、その名称又は商号中に銀行であることを示す文字を使用してはならない。
 
銀行というのは特殊な業界です。
会社の名前(商号)すら、規制されているのです。
例えば、「みずほバンク」では許されず、みずほ銀行と名乗らなければならないのです。

銀行は「前株」が一般的

銀行が「前株」か「後株」かを気にする方は少ないでしょう。
しかし銀行と付き合いのある経理部・財務部・総務部(秘書関連含む)で働く方にとってみれば気になることもあるかもしれません。
なお、「前株(まえかぶ)」とは株式会社〇〇〇〇という商号のことであり、「後株(あとかぶ)」とは〇〇〇〇株式会社のことを指します。
 
まず一般的に言って、銀行は「前株」です。
企業で付き合いがある銀行は、ほぼ「前株」で間違いありません。
株式会社三菱東京UFJ銀行、株式会社三井住友銀行、株式会社みずほ銀行、株式会社りそな銀行・・・です。
銀行で注意すべきは「信託銀行」でしょう。
本当に間違いやすいのですが、信託銀行は歴史的な慣習で「後株」となっているところがほとんどです。おそらく、信託銀行は銀行ではなく信託会社が発祥だからでしょう。
三井住友信託銀行株式会社、三菱UFJ信託銀行株式会社、みずほ信託銀行株式会社・・・です。
銀行は前株、信託銀行は後株と覚えておけば、ほぼ間違いはありません。
銀行は、株式会社の付け方まで、横並びなのかもしれません。
なお、前述の通り、銀行の商号については前株、後株という点では法規制はありません。

銀行商号における例外事例

銀行が前株、信託銀行が後株というのが一般的ですが、異なる例もあります。
まず、設立のスタートが信託銀行であった銀行は基本的に後株になっています。
例えば、オリックス銀行は後株(オリックス銀行株式会社)です。 
誰も覚えていないような気がしますが、オリックス銀行は、山一信託銀行株式会社が前身です。その後、オリックス信託銀行から商号変更を行いオリックス銀行となっています。
また、変わったところではSMBC信託銀行の事例があります。
設立時はケミカル信託銀行株式会社でした(※ケミカル・バンクは、現在のJPモルガンになっていった米銀の一つです)。そして、三井住友FGに買収される際にはソシエテジェネラル信託銀行株式会社となっていました。
このSMBC信託銀行は珍しく、三井住友FGに買収された際に商号の変更を行い後株から「前株」に変更しています。
また、ソニー銀行は設立当初からソニー銀行株式会社です。親会社であるソニーが後株なので、それに合わせたものと思われます。
イーバンク銀行株式会社が前身の楽天銀行も後株です。住信SBIネット銀行も当初から後株です。
ネット専業銀行や外資系銀行という事例以外では、スルガ銀行が他行とは異なる商号となっています。
スルガ銀行は後株です。
駿河銀行からスルガ銀行に商号変更した際に前株から後株に変更しました。
これはかなり異例で、SMBC信託銀行とスルガ銀行しか事例としてはないのではないかと思います。
なお、日本における銀行一覧は以下のリンク先にあります。
 
前株、後株というのは大した話ではありません。
しかし、少なくとも銀行と信託銀行の違いで前株と後株が違う等、歴史によって異なる部分が表れるのです。
筆者にとっては銀行の歴史を感じる一事例なのです。