銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ブラック職場を改善する処方箋の一つ~雇用の流動化という策~

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政府は同一労働同一賃金等、働き方改革を政策の目玉の一つにしています。

しかし、残業代を削減する法案である等、野党や労組が反対しており、様々な問題を抱えています。

この働き方改革は、複雑な利害がからみ本質が非常に分かりにくいのが現状ではないでしょうか。

残業代がゼロとなる法案は、企業に勤める従業員なら誰だって反対したいでしょう。

また労働時間の上限を厳しくするとしても、720時間という残業時間は長時間労働であることに変わりはありませんし、その上限一杯まで働かされるのも、従業員としては問題です。そもそも、なぜ長時間労働が起きるのでしょうか。過労死が起きるのは家族にとって痛ましいことですが、これは日本にとっても当然に損失ではないでしょうか。

また、非正規雇用者にとってみれば、同一労働同一賃金も良いですが、なかなか正社員として採用されないことの方が問題なのではないでしょうか。

一方で正社員として長時間労働を行い、非正規雇用者と比べれば重い責任を背負わされている従業員にとってみれば、同一労働同一賃金はお題目としては理解できるが、現実は異なると、総論賛成、各論反対のような心境ではないでしょうか。

加えて、神戸製鋼、東芝等様々な不祥事はなぜ起こるのでしょうか。企業の従業員が悪いのでしょうか。

このような日本の「雇用」における問題に完全な解決策はありません。

しかし、解決していく方策の一つは、間違いなく「雇用の流動化」です。

これは企業側が解雇しやすくするというものではなく、従業員側が転職(正確には転社でしょう)を行いやすくすることによって問題の解決が実現されるものです。

今回の記事は、金融や銀行とは直接関係がないように感じるかもしれませんが、金融が果たすことのできる役割もあります(これは別途記事にします)。

働き方を改善し日本を活性化させる雇用の流動化について今回は考察していくことに致しましょう。

政府の推し進める働き方改革 

まず政府が推し進める働き方改革について簡単に確認しておきましょう。

政府が推進する働き方改革法案は以下の考え方に基づいています。

働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。
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出典 首相官邸ホームページ 働き方改革の実現

http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html

関連情報 厚労省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html

すなわち、政府は、格差の固定に繋がるような「不合理な処遇差の解消」、ワークライフバランス・生産性向上に資するような「長時間労働の削減」、働く女性等にも様々なキャリアを開く「多様な働き方の実現」を目指しています。 

そして、今回政府が可決しようとしている法案は、同一労働同一賃金、残業の上限規制、脱時間給制度の創設等です。

この法案は、無いよりはマシというレベルかもしれませんが、現在の働き方に関する諸問題を解決するには力不足といえるでしょう。

特に長時間労働対策については経済界に配慮しており、規制が緩いと思われます。

ところが日本の働き方に関する問題のほとんどの原因は長時間労働にあるのです。

長時間労働解消のメリットと抜本的な解決策について以下で述べます。

長時間労働の解消効果とその抜本策

長時間労働を解決することは、日本の問題をかなり解決することになります。

働く時間が短ければ、子育てを行うことは、今より容易になります。

長時間労働を禁止すれば男性も育児に参加できる可能性が高まります。

長時間労働を無くす、減らすということは、既存の仕事量を見直すか、新たに従業員を雇う必要が出てきます。そうすれば正社員の募集が増え、同一労働同一賃金の実現に近くなるかもしれません。

長時間労働を減らせば、業務の見直しのみならず残業代の減少を通じ、企業の生産性が向上する可能性があります(ただし、従業員側は賃金減)。

自由時間が増えれば、副業や勉強を通じて、新たな事業のアイディアが育つかもしれません。それは日本に活力を与えるでしょう。

如何でしょうか。

長時間労働の解消はこれからの日本において真に必要なものではないでしょうか。

上記のような長時間労働を削減する一つの方策は、筆者の経験則も加味すると「インターバル規制」を強制的に導入することです。

ヨーロッパ等で導入されているインターバル規制ですが、例えば「会社から帰ってから、次の日に出勤するまでに11時間のインターバルを必ず設ける=出勤禁止」という形で運用します。

これであれば確実に労働時間は減少させることができます。

上記のインターバル規制があれば、緊急の仕事がある場合は深夜まで働くこともあるかもしれませんが、その代わり翌日は遅くにしか出勤できません。労働時間の長さのメリハリではなく、労働する時間帯のメリハリをつけるのです。

しかし、日本では様々な理由(決算時期等多忙な時期は緩和すべき等)をつけて導入されてはいません。企業の理屈が通る日本では強制導入はまだ先かもしれません。

もう一つ、労働時間を削減する方策としては三六協定の破棄による残業の絶対禁止という方策もあります。これは現行法制度でも可能ですが、実現は無理でしょう。

以上の方策は非常に効果がありますが、現状では日本に導入されるのは難しいのではないでしょうか。

そこで、長時間労働のみならず、様々な問題を解決する、すなわちブラックな職場の問題を解決する他の方策を筆者としては推奨します。

それは雇用の流動化です。 

雇用の流動化のメリット

雇用の流動化は間違いなく従業員側にメリットがあります。

一般的に雇用の流動化と聞くと、企業側が従業員を解雇しやすくなるというイメージが強いでしょう。

しかし、従業員側からだって企業を選ぶことはできます。

今回の記事で述べる雇用の流動化は「企業に雇用されている従業員が転職(転社)しやすくなり、転職してもデメリットが少ない状況」を指すものとします。

雇用の流動化=転職の容易化が、従業員側の観点から実現された場合のメリットを以下挙げます。

ブラックな職場の問題はほとんど解決される可能性があります。

長時間労働の是正

長時間労働が続く、いわゆるブラックな職場は転職が容易になると激減する可能性があります。

身体を壊すぐらいだったら従業員は他社に移るからです。

もちろん過労死の防止にもなります。

同一労働同一賃金

同一労働同一賃金も転職が容易ならば解消される可能性があります。

給料が低ければ他社に転職すれば良いからです。

これは非正規雇用の従業員のみならず正社員側にとっても当てはまります。

正社員が給料に見合わない多大な業務量・責任を(非正規社員に比べて)抱えているのであれば、これは実質的には同一労働同一賃金とはいえません。正社員側が差別されている可能性だってあるのです。

賃金の上昇

転職が容易であれば条件の良いところに従業員は簡単に移る可能性があります。

これは人手不足が想定される日本においては、企業間の競争を通じて従業員の給料の上昇に繋がる可能性があります。

パワハラ・セクハラの減少

パワハラ・セクハラされてまでブラックな職場に従業員が残るのは、転職が容易ではない、もしくは転職が経済的に不利になるからです。

転職が簡単であり、不利益が少ないのであれば、我慢をする従業員はどれだけ存在するでしょうか。

生産性の向上

転職が容易になるということは、従業員にとって無駄と感じる仕事(=過剰品質、内向き仕事等)は減る可能性があります。

上司に忖度することを強要されるような仕事や、お客様に「儲からないかもしれない投資商品を無理矢理売らなければならない」ような仕事は誰もが避けるようになるでしょう。

上司は部下に、論理的に、業務の必要性を説かなければならなくなります。

そうしなければ部下は簡単に転職してしまうかもしれないからです。

これは必然的に無駄な仕事を減少させ、企業にとっても、従業員一人当たりにとっても生産性の向上がなされる可能性があります。

新産業の育成 

転職が容易になり、転職が従業員にとって不利にならないのであれば、面白さや一攫千金を求めてベンチャー企業に転職する人も増えるでしょう。

それは構造不況業種から新しい産業へ人材の移転を促し、産業の新陳代謝に繋がります。

結果として、日本における新産業の育成に繋がることになります。

ブラック職場を改善する雇用の流動化を果たすためには 

これからの日本は少子高齢化に伴い労働者は貴重な存在となります。企業と労働者のパワーバランスが変わる可能性があるのです。

その環境下において、雇用の流動化=転職の容易化が果たされるのであれば、日本の雇用の問題はかなり解決されるのではないでしょうか。

ではこの雇用の流動化はどのようにすれば果たされるのでしょうか。

これは非常に難しい問題です。

恐らく抜本的な策はありません。

また雇用の流動化を実現しようとすると企業側にも利用され、人員削減のための方策とされてしまうかもしれません。

しかし、徐々にでも解決する方策は存在します。

次回の記事では、雇用の流動化を阻害する要因について金融の観点から考察することとします。