銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

将来予測は人口関連統計に基づくもの以外は信用しないのが鉄則~世帯数推計~

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読者の皆さんは、年末から年始にかけて2018年の様々な予測をマスコミ等でご覧になったのではないでしょうか。

有名なエコノミスト等が「今年の日経平均株価は○○円になる」「ドル円は○○円になる」等々と予測をしています。

もちろん金融機関も、年末年始といわず様々な局面で予測をします。

朝のテレビ番組で「本日の金融市場の予測」を出してみたり(ただし、金融機関の従業員個人としての予測となっていますが)、資産運用会社が運用商品の説明・運用報告の中でマーケットの予測を行っています。

これは筆者の感覚でしかないのかもしれませんが、エコノミストだろうと金融機関だろうと、とにかく将来予測は当たらない可能性の方が高いのが現状です。

例を挙げればキリがありません。

「マーケットのプロ」の中で、ビットコインをはじめとした仮想通貨が2017年にあれほど上昇すると年始に予想した人はどれぐらい存在したでしょうか。

原油価格の上昇幅をきちんと予想できた人はどうでしょうか。

もちろん日経平均株価を当てた人はどれだけいたでしょうか。

そしてさらに悪いことに、エコノミスト等はマーケットでの価格を元に「後付け」でもっともらしい解釈を述べます。

そもそも昨日は「政府の政策への期待が材料となり株価が上昇した」と解説した翌日に、「今日のマーケットでは内閣の支持基盤の弱さが株価の下げにつなかった」というような解説(あくまで一例です)が、平気でなされるのです。

エコノミストだろうとアナリストだろうと予想を外しても誰も投資家等へ責任をとりません。給料も減らないでしょう。

金融機関をはじめとした「予想屋」は、金融マーケット等で起こっていることを、(それが正しくなくとも)分かりやすく、納得感がある、それらしいストーリーで語ることが仕事であり、結果責任を負うわけではないのです。

もちろんマーケット等将来を予測できるのであれば、他者に示すのではなく自分が投資して大儲けするでしょうから、当たらないのは当たり前といえるかもしれません。

以上の経験則から筆者は特に金融機関の「予想」「予測」等をほとんど信頼していません。大多数の人がその予測に基づいて行動するかもしれないと参考にする程度です。

そんな筆者が唯一信頼しているのが人口関連の推計です。

人口に関連する推計だけはもっとも裏切られる可能性の少ない予測です。

当然、戦争・疫病・震災等が起これば推計も外すことがありますが、医学が発達し、病院で治療を受けられる人が増加した現在では、人口の推移はほとんど外れることがありません。

そのため、筆者は企業分析、マーケット分析等では人口推計に基づいたものをもっともあり得る将来像として、可能な限り用いる、もしくは自身で作成することにしています(読者が筆者を「偉そう」に感じたならば申し訳ありません)。

例を出すと以下のようなものが該当します。

  • ○○年時点で65歳以上の人口が○割となるから、食料消費は○%落ち込む
  • ○○年時点で子育て世帯が○割となるから、ファミリータイプの自動車の販売台数は現在よりも○%増加する
  • ○○年時点で域内人口が○○人となるため、鉄道収入は○%減少する
  • ○○年時点で単身世帯が○割となるため、シングルタイプの賃貸マンションの需要はまだ拡大する余地がある

以上が分かりやすい事例でしょう。

投資家の方や融資等を行う銀行員は、この経験則を是非とも認識しておいた方が良いのではないかと思います。

今回の記事ではこのような人口関連の推計の一つである「日本の世帯数の将来推計」が発表されましたので、その内容について確認していくことにします。

出典 http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2018/t-page.asp

日本の世帯数の将来推計の概要

国立社会保障・人口問題研究所は5年毎に世帯数の将来推計を公表しています。直近では2018年1月12日に、2018年推計の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」が公表されました。

この推計は5年ごとに実施されており、家族類型別(「単独」「夫婦のみ」「夫婦と子」「ひとり親と子」「その他」の5類型)にみた将来の世帯数を求めることが目的とされています。

今回の内容は、2015年の国勢調査を基に、2015~40 年の 25 年間について将来推計が行われています。

この推計は投資家や銀行員にとって、企業の業績予想に非常に役に立ちます。

まずは、この推計の内容についてみていくことにしましょう。以下は基本的に当該推計からポイントを引用致します。

世帯総数等

  • 一般世帯人員は2015 年の1 億2,430 万人から毎年減少し,2040 年の一般世帯人員は1 億570 万人と,2015 年に比べ1,860 万人少ない。
  • これに対し一般世帯総数は,2015 年の5,333 万世帯から2023 年まで増加を続け,5,419 万世帯でピークを迎える。その後は減少に転じ,2040 年の一般世帯総数は5,076 万世帯と,2015 年に比べ257 万世帯少ない。
  • 人口減少局面に入っても世帯数が増加を続けることは,世帯規模の縮小が続くことを意味する。一般世帯の平均世帯人員は,2015 年の 2.33 人から 2040 年の 2.08 人まで減少を続ける。

家族類型別一般世帯数および割合等

  • 「夫婦と子から成る世帯」「その他の一般世帯」は既に減少を開始しており,今後も減少し続ける。
  • 他の家族類型は増加を続けてきたが,2025 年以降は「夫婦のみの世帯」が減少に転じ,2030 年代には「単独世帯」「ひとり親と子から成る世帯」も減少を開始すると予想される。
  • 「単独世帯」は2015 年の1,842 万世帯から増加を続け,一般世帯総数が減少に転じる2023 年以降も増加し,2032 年以後ようやく減少に転じる。この結果,2040 年には 2015 年より 153 万世帯多い1,994 万世帯となり,一般世帯総数に占める割合も 2015 年の34.5%から 2040 年の39.3%へ4.8 ポイント上昇する。
  • 「夫婦のみの世帯」は当面増加するが,「単独世帯」ほど急速ではなく,また 2025 年以降は減少に転じる。すなわち,2015 年の1,076 万世帯から2025 年の1,120 万世帯まで増加した後,2040年には1,071 万世帯まで減少する。ただし一般世帯総数に占める割合は2015 年の20.2%から2025年には20.7%,2040 年には21.1%と増加を続ける。
  • 「夫婦と子から成る世帯」は,1985 年をピークに既に減少局面に入っているが,今後それが加速し,2015 年の1,434 万世帯から2040 年には1,182 万世帯まで減少する。この「夫婦と子から成る世帯」は,かつて一般世帯総数の40%以上を占める主要な類型であったが,2015 年時点で26.9%と割合をかなり低下させており,2040 年にはさらに23.3%まで低下すると見込まれる。
  • 「ひとり親と子から成る世帯」は 2015 年の 477 万世帯から 2029 年の 515 万世帯まで増加し,その後減少して2040 年には492 万世帯となる.一般世帯総数に占める割合は,2015 年の8.9%から2030 年には9.6%,2040 年には9.7%に増加する。
  • 「その他の一般世帯」の大部分は,核家族世帯に直系尊属か直系卑属が加わったいわゆる直系家族だが,この類型は「夫婦と子から成る世帯」同様,1980 年代後半には減少に転じている。減少は今後も続き,2015 年の 504 万世帯から 2040 年には 335 万世帯となる。一般世帯総数に占める割合も,2015 年の9.5%から2040 年には6.6%まで低下する。この結果,「その他の一般世帯」は世帯数・割合とも「ひとり親と子から成る世帯」を下回り,最小となる。

世帯主が 65 歳以上および 75 歳以上の世帯の見通し

  • 世帯主年齢が65 歳以上の一般世帯の総数は,2015 年の1,918 万世帯から2040年の2,242万世帯へと324万世帯増加することになる。
  • 世帯主年齢が75歳以上の世帯は,2015年の888 万世帯から2040 年の1,217 万世帯へ,329 万世帯増加する。
  • 世帯主が65 歳以上の世帯数は一般世帯総数よりも増加率が高く,総世帯数に占める世帯主が65歳以上の一般世帯数の割合は,2015 年の36.0%から2040 年の44.2%へと大幅に上昇する。また,世帯主が65 歳以上の世帯に占める世帯主が75 歳以上の世帯の割合も,2015 年の46.3%から2040年には54.3%へと増大し,世帯の高齢化は一層進む。
  • 世帯主が65 歳以上の世帯数について家族類型別に2015 年と2040 年の値を比較すると,顕著に増加するのは「単独世帯」の1.43 倍(625 万世帯→896 万世帯)と,「ひとり親と子から成る世帯」の 1.19 倍(166 万世帯→198 万世帯)である。「夫婦のみの世帯」は 1.09 倍(628 万世帯→687万世帯),「夫婦と子から成る世帯」は1.02 倍(286 万世帯→291 万世帯)と緩やかな増加にとどまり,「その他の一般世帯」は0.80 倍(213 万世帯→171 万世帯)と減少する。
  • 世帯主が75 歳以上の世帯については,いずれの家族類型も世帯主が65 歳以上の世帯に比して伸びが大きく,「単独世帯」は1.52 倍(337 万世帯→512 万世帯),「ひとり親と子から成る世帯」は1.40 倍(87 万世帯→122 万世帯),「夫婦のみの世帯」は1.33 倍(274 万世帯→363 万世帯),「夫婦と子から成る世帯」は1.34 倍(97 万世帯→130 万世帯)である。65 歳以上全体では期間全体で減少する「その他の一般世帯」も,一時増加した後の減少となり,2015 年に対する2040 年の比も0.95 倍(94 万世帯→90 万世帯)と65 歳以上の場合より減少幅が小さい。
  • 世帯主が 65 歳以上の世帯について,2015 年から 2040 年の家族類型別割合の変化をみると,一貫して上昇するのは「単独世帯」で,32.6%から40.0%へと上昇する。「ひとり親と子から成る世帯」は,2015 年の 8.7%から 2030 年に 9.2%まで上昇後再び低下し,2040 年には 8.8%となる。それ以外の家族類型の割合は一貫して低下し,「夫婦のみの世帯」は32.7%から30.6%,「夫婦と子から成る世帯」は14.9%から13.0%,「その他の一般世帯」は11.1%から7.6%への低下となる。
  • 世帯主が75 歳以上の世帯でも,一貫して割合が上昇するのは「単独世帯」で37.9%から42.1%となる。一方,一貫して低下するのは「その他の一般世帯」で 10.6%から 7.4%へ低下する。「夫婦のみの世帯」「夫婦と子から成る世帯」の割合は,一旦上昇した後低下に転じる。「ひとり親と子から成る世帯」の割合は,10%前後で上下動する。

未婚率の動向

  • 今後 50 歳未満の未婚率の上昇幅は小さく,場合によっては未婚率が低下する年齢層もある。しかし過去数十年間進行した未婚化によって,高齢者の未婚率は大幅な上昇が見込まれる。これは現在の高齢者が未婚が比較的稀だった 1970 年代までに結婚適齢期を終えたのに対し,今後は未婚が珍しくなくなった世代が高齢期に入ることによる。
  • このため 65 歳以上の未婚率は,2015 年には男性5.9%,女性4.5%であるのに対し,2040 年には男性14.9%,女性9.9%まで大幅に上昇する。75 歳以上も2015 年の男性2.6%,女性3.9%から,2040 年には男性10.2%,女性6.5%まで上昇すると見込まれる。

独居率の動向

  • 独居率の動向は未婚率に強く影響される。若年層では未婚率が今後あまり上昇しないため,独居率の上昇も 1~2 ポイントにとどまる年齢層が多い。
  • 一方高年齢層では独居率の上昇が著しく,65歳以上の男性では 2015 年の14.0%から 2040 年の 20.8%へ,75 歳以上では 12.8%から 18.4%への上昇が見込まれる。女性も65 歳以上では2015 年の21.8%から2040 年の24.5%まで上昇が見込まれるが,75 歳以上に限定すると独居率はほとんど上昇しない。これは75 歳以上女性の未婚率の上昇が小幅にとどまり,また未婚化の影響は夫の死亡率低下に伴う有配偶率の上昇によって相殺されるためだろう。

自身で予想を

以上、日本の世帯数の将来推計についてのポイントを挙げました。

この数値からは、世帯数の増減等様々なことが分かります。

この数値を基に、投資先企業、貸出先企業の将来性を判定すること、業績をある程度予想することも可能です。

第三者のマーケット予想を見るぐらいなら、ご自身で人口関連統計を基に、これから起こる様々な事象を予想してみることを強くお勧めします。