家具販売大手の大塚家具の業績が低迷しています。
大塚家具は、父娘間での経営権の争いで話題となりました。
現社長が実権を握りビジネスモデル改革をしてきているものの現段階では結果が出るどころが、業績が悪化しているという報道を目にした方もいらっしゃるでしょう。
今回の記事では、この大塚家具に今後何が起きるのかについて、企業分析の事例の一環として考察していきたいと思います。
投資家の皆さん、銀行員の皆さんにとっても役に立つ内容になれば幸いです。
大塚家具の業績
まずは簡単に業績の推移をみていきましょう。
以下は直近5年間の業績推移です。
この業績推移におけるポイントは以下の通りです。
- 売上が急激に落ち込み、利益が赤字転落
- 売上総利益の売上比はあまり低下しておらず、利益を犠牲にした安値販売をしている訳ではない
- 運賃・広告費は減少
- 従業員は減少させており人件費は減少している
- 賃借料(店舗)は横ばい=簡単にコスト削減できず
- 営業利益以下多額の赤字転落となったが、安値販売はしておらず、コスト削減も相応に実施しているため、最大の赤字要因は「販売不振」
- 財務の安全性を見る指標である自己資本比率は70%弱と高い水準を維持するも低下傾向
- 売場面積・店舗数が増加しているのは新たなビジネスモデルを探っており新規出店等を進めているため
- 設備投資は店舗関連であり多額ではない
まず、これが大塚家具の2016年までの業績動向です。
足下の業績動向
次に2017年に入ってからの業績動向をみていきましょう。
以下は中間決算(2017年6月末)の実績です。
ポイントとなるのは、以下の通りです。
- 売上高の減少が止まっていないこと
- 売上総利益の売上比(売上総利益率)が低下しており、安値・値引販売を行っている可能性が高いこと
- コストも削減しているものの、減収の影響が大きすぎて営業利益以下の赤字が拡大していること
- 四半期純利益(当期利益)で赤字幅が拡大しているのは事業構造改革に備えた引当金を計上したためであり、特段の問題は無し(後述)
また、以下の図表では前年同月比の売上推移を示しています。2017年は10~12月も厳しい売り上げが続いています。
このような業績が続くと大塚家具は企業として存続できるのでしょうか。
大塚家具が実行していること
今回の記事では大塚家具のビジネスモデルの変革については言及しません。
リユースに進出したり、新規出店をしてみたりと、様々な手を打っているようですが、家具販売業界におけるビジネスモデルの優劣等について筆者は語れるほどの知見を持ち合わせていないためです。
また大塚家具が様々な施策を実行していたとしても、少なくとも数字の面では成果が表れていないため、考慮する必要はないと考えているためでもあります。
むしろビジネスモデルの変革云々といっている余裕はなく、大塚家具は企業存亡の危機に瀕しているといった方が良いのです。
企業の倒産=資金繰り破綻です。
以下の図表をみてください。
これは大塚家具の 現預金と投資有価証券の推移を示したものです。
投資有価証券も併せて記載しているのは、この投資有価証券が主に持ち合い株式であり売却しようとすれば売れる(=現金化可能)ものだからです。
この図表をみれば一目瞭然です。
2015年12月末までは現預金と有価証券の合計は180億円超ありました。
それが2016年12月末には100億円を下回り、2017年に入ってからは3か月ごとに低下しています。
大塚家具は現預金を確保し資金繰り倒産を免れるために投資有価証券を売却しながら対応をしてきていますが、すさまじい勢いで現預金が減少しているのです。
これが大塚家具の現状です。
そしてこの要因は単純です。
商品が売れていないのです。
本質的には商品を売るしか現金を稼ぐ手段はないのです。
では、商品が売れるようになるまで、すなわちビジネスモデルの変革のために打った様々な施策の効果が発現(筆者には効果が発揮されるか否かは分かりませんが)するまで、大塚家具としてできることはあるのでしょうか。
大塚家具に残された選択肢、これから何が起きるのか
2017年11月大塚家具は株式会社ティーケーピー(貸し会議室運営等)と資本業務提携を締結しました。
http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-29/h29-11-6_2.pdf
この資本業務提携では約10億円の現預金を獲得することができました。
筆者は両社の業務面での相乗効果は低いと考えていますが、この資本提携のように、とにかく現金確保に大塚家具が走っていることは間違いありません。
では、今後、大塚家具にできることは何でしょうか。
まず、バランスシートをみてみましょう。
現預金を確保するためには売れるモノを売っていくしかないからです。
資産の売却可能性
<2017年9月末時点>
現預金 2,036百万円
売掛金・受取手形 2,261百万円
商品 13,223百万円
有形固定資産 2,968百万円
投資有価証券 2,683百万円
差入保証金 5,404百万円
総資産 29,921百万円
上記を確認すればわかりますが、大塚家具に売ることが可能なモノはほとんどありません。商品を売るしかないのです。
全国に展開している店舗は賃借であり、売却することはできません。
金融の観点からできることは、売掛金・受取手形の外部売却(証券化・流動化)、 差入保証金の外部売却(証券化・流動化)ぐらいでしょう。
しかし、差入保証金の証券化・流動化は実現可能性は低いのが現実です。差入保証金とは建物の所有者に対して敷金等の意味合いで差入を行うものであり、建物所有者がこの差入保証金を外部に売却することを通常は許しません。また、許したとしても店舗を退去する際には、先に賃料等が差し引かれて戻ってきますので、差入保証金がいくらの現金になるかは最後まで分かりません。このような債権を買う投資家はいないのが現実です。
また、売掛金・受取手形も売却しても一時しのぎにしかなりませんし、数か月先に入ってくるはずだった現金を少しの期間前倒しで手に入れただけでしかないのです。
以上より、大塚家具では売却できるモノはほとんどないことが分かります(投資有価証券は除きますが、現実に次々と売却しています)。
銀行借入
大塚家具の資産で売れるものが少ないならば、現金を獲得するためには、銀行から借り入れを行うという選択肢があります。
大塚家具は現在無借金です。
また自己資本比率は60%(2017年9月末時点)あり、財務体質は良好です。
2016年12月末時点では30億円のコミットメントライン契約を銀行との間で締結していることが公表されています。
コミットメントラインは企業が借入の申し込みをすれば、銀行は必ず貸出を行わなければならない契約であるため、30億円の現預金は確保されていると考えて良いでしょう(ただし、契約期限に際して契約が打ち切られてしまう可能性もあります)。
しかしながら、銀行からの借入は、現時点の業績では、このレベルで限界でしょう。担保もない中では、業績が急激に落ち込んでいる企業に銀行が貸出をするとは思えません。
商品の外部売却
一つの観点としては、大塚家具が保有する商品在庫の一部を外部にまとめて売却するという対応も考えられます。
例えば、家具のレンタル会社、動産処分を専門にする業者等で若干のニーズはあるかもしれません(いわゆる法人向け)。
しかし、そもそも、大塚家具は商品が売れないので経営危機に陥っているのです。そして、家具は基本的には個人が自宅で使用するものです。大塚家具が抱えている在庫も個人向けです。
よって、国内で大塚家具の保有する商品在庫を売却して現金を獲得するのはかなり難しいと考えた方が良いでしょう。
(海外企業にまとめて安値で売却するという選択肢はゼロではないでしょうが・・・)
残された選択肢
以上、大塚家具が取り得る複数の選択肢をみてきました。
しかしながら、どれも根本的な解決とはなりませんし、実行できたとしても若干の延命にしかなりません。
大塚家具に必要なのは商品を売る力をどのようにつけるかだけなのです。
そのための選択肢は、もうM&Aしかありません。
ただし、大塚家具には現預金がありませんので、企業を買収することは難しいでしょう。
そうすると、現在の売上状況が続くならば、ティーケーピーと資本提携したように、外部からの出資を仰ぐか、完全に買収されるかしか、生き残る手はないでしょう。
大塚家具の販管費だけをみても月に20億円程度は資金が必要です。
2017年9月末時点で現預金と有価証券合わせて40億円程度しか手元に残されていない大塚家具にとっては(コミットメントラインがあるとはいえ)、残された時間はほとんどなくなっている可能性があります。
よって、大塚家具は必死になって資金を提供してくれる企業を探している可能性が高いと考えます。
大塚家具の「売り」は、高い自己資本比率ぐらいです。
PBRは1倍をはるかに下回る0.5倍程度ですから、大塚家具を買収すると「負ののれん」が発生します。大塚家具の赤字を完全に止めることに成功すれば会計上の利益(負ののれん)を出せるのです。
負ののれんで見かけの業績を拡大してきたRIZAPあたりが、もしかしたら大塚家具を狙っているかもしれません。
www.financepensionrealestate.work
いずれにしろ、大塚家具は早晩、何らかの資本提携を発表することになるのではないかと筆者は考えています。
2017年通期決算については以下の記事をご参照ください。当該記事の続きです。