銀行員のための教科書

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レオパレス21は視聴者の敵となって「終了」するのか

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(写真と本文は関係ありません)

2017年12月26日放送のガイアの夜明けにおいてレオパレス21 (以下レオパレス)が取り上げられました。

この番組ではレオパレスのアパートオーナーに対する強引な営業や対応が放送されています。

内容としては、アパート経営のトラブル例として、レオパレス側が家賃保証を打ち切り、契約解除に至ったケースについて取材されています。オーナー側からはレオパレスから強引に迫られ家賃保証の減額に合意した等の発言がありました。

このレオパレスの対応については、視聴者等からかなりの批判が巻き起こり、一部からはレオパレスは「会社として存在しなくなる」「レオパレス終了」との声もネット上では挙がっています。

今回は、レオパレスの現状について確認するとともに、レオパレスの存続可能性について考察します。

ガイアの夜明けの放送内容

ガイアの夜明け(テレビ東京)の放送の内容は以下リンクにある記事が詳しいと思われます。
http://netgeek.biz/archives/109233

 

内容としては下記がポイントでしょう。

  • 一括借り上げシステムをうたい30年間、空室があったとしても家賃を保証するようなセールスをしていた
  • 急に30%の減額を提案してきたり、契約が打ち切られたオーナーも存在
  • 悪質な事例のなかには、1キロ四方のエリアにおよそ40棟ものアパートを乱立させたことも
  • レオパレスを信じて借金をしてアパートを建てたオーナーの中には借金の返済見込みがたたない人も存在
  • この背景としては、リーマンショック後に経営が苦しくなったため、レオパレスは会社ぐるみで、強引に、契約解除も辞さず、アパートオーナーへ家賃の減額交渉を実施
  • その証拠の社内のメールが残っており、取材班が入手し、社長に提示
  • メールには、「終了プロジェクト」という戦略名で、契約から10年を越えたアパートは解約、10年未満は家賃収入を大幅減額を求めるように強気な交渉をするようにとの指示が明記
  • これに対する社長からの明確なコメントは無し

当該番組を観るとレオパレスはとんでもない詐欺企業だと思ってしまう視聴者もいるでしょう。

そのため、レオパレス側は以下のリンクの通り、抗議文を自社ホームページに掲載しています。

レオパレス21のプレスリリース
http://www.leopalace21.co.jp/news/2017/1227_2282.html

この番組内容は一部としては事実なのでしょう。

レオパレスの経営が苦しくなり、会社存続のために家賃保証の「口約束」を反故にした事例はあったということです。

テレビの影響力は絶大です。

視聴者はこのような詐欺まがいのことをするレオパレスは早晩、存続できなくなるだろう、もしくは潰れるべきだ、と考える方もいるでしょう。

そこで、当該記事では、レオパレスが潰れてしまうのか、それとも存続するのか、数字をもとに、あえて検証してみたいと思います。

レオパレスのビジネスモデル

まずは、レオパレスのビジネスモデルがどのようなものか、基本的な事項を把握しましょう。

以下はレオパレスのホームページに掲載されている文章を筆者が加筆・修正したものです。

<レオパレスのビジネスモデル>

  • 保有地の有効な活用方法を求める土地オーナーに対し、賃貸アパート等の建築および建築後の一括借上げを提案するのが基本
  • 一括借上げとは、賃貸住宅の建築から管理運営まで、オーナーのアパート経営を総合的に支援するシステムで、具体的には入居者募集、オーナーに対する賃料支払いや管理・修繕など、本来オーナーが行うべき業務を同社がアウトソーサーとして代行してオーナーの負担を軽減し、かつ安定収入の確保に貢献するもの
  • レオパレスとオーナーとの契約期間は最長30年で、空室の有無に限らず一定期間は固定家賃をオーナーに支払い
  • 当初の固定家賃期間終了後は、原則として2年毎に周辺の家賃相場実勢をベースに契約を更改していく契約
  • 「賃貸事業」におけるレオパレスの売上は、入居者からの家賃収入となり、オーナーへの支払家賃が売上原価
  • なお、アパートの「建築請負事業」も収益源

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  • 固定家賃期間に想定以上の空室が発生した場合、「逆ザヤ」が発生することとなり、これがレオパレスにとっての事業リスク
  • 空室発生の抑制(入居率の向上)と適正家賃の獲得が同社の収益向上のための最重要ポイント
  • 「新規オーナーの開拓による賃貸アパート建設の供給増加と、入居者の安定的な獲得による家賃収入増大」がビジネスモデルにおける収益拡大ストーリーであったが、2008年のリーマンショックを受けた企業収益の急速な悪化から各企業における人員削減が増加
  • レオパレスでは、法人契約物件を中心に退去が増加したため「逆ザヤ」となり、賃貸事業の収益が悪化
  • また金融機関のローン審査が厳格化したことでアパートの新規供給も急減し、建築請負事業も大きな影響を受け、収益は低迷
  • こうした状況を受け、一括借上げの基本的な枠組みは維持しつつも、安定収益獲得のためのストックビジネスへの転換を進めている状況

以上がレオパレスの現状のビジネスモデルの概要です。

では、レオパレスの足元の業績はどのようになっているのでしょうか。

レオパレスの業績状況

まずは、2017年9月中間期の業績を確認してみましょう。

 

<レオパレス業績(中間期)>
売上高 258,740百万円(前期比+1.4%)
営業利益 13,987百万円(前期比+23.4%
経常利益 13,827百万円(前期比+28.7%
純利益 9,488百万円(前期比△2.1%)

(売上高)

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(営業利益)

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出展 レオパレスホームページ

 

これだけみると業績は好調といえるでしょう。

入居率が改善し好調に推移しており、平均入居率は90.2%と前年同期比+1.84ポイント改善しています。

レオパレスは足元の業績をみるとリーマンショック時の業績悪化から脱しているようにみえます。

しかしながら、今回の報道等でアパートオーナーがレオパレスを敬遠したらどうなるのでしょうか。パートナーであるはずのアパートオーナーを獲得できなくなったらレオパレスはどうなるのでしょうか。

以下、もう少し詳しくみていきましょう。

レオパレスの決算のポイント

レオパレスの決算をもう少し詳しくみていきます。

レオパレスの事業は主に二つに分けられます。

一つは賃貸事業です。

これはレオパレスのアパートの賃貸事業です。

アパートオーナーから一括借上げを行い、自社で賃借人を見つけてくるという事業です。

実際に賃借人から収受する受取賃料とアパートオーナーに約束した支払賃料との差額がレオパレスの儲けとなります。

もう一つの主力事業が建築請負事業です。

これはアパートの建築を請け負う事業です。

不動産の有効活用をしたい個人に働きかけ、アパートを建ててもらうのです。

この事業はアパートを建てて終わりではなく、完成後に一括借上げがスタートしますので、将来の「飯のタネ」を作る事業ともいえるでしょう。

この二つの事業は現在以下の通りとなっています。数値はいずれも2017年3月期のものであり、レオパレスのア二ュアルレポートの数値です。

 

<賃貸事業>
売上高 4,166億円
営業利益 225億円
<建築請負事業>
売上高 746億円
営業利益 51億円

 

これをみて分かる通り、レオパレスは建築請負が主力事業ではありません。

既存の賃貸物件の賃貸・管理が売上の大半を占めている不動産賃貸業なのです。

以下ポイントとなる数字だけ簡単に押さえておきましょう。

 

<賃貸事業の数値>
管理戸数 568,739戸
一戸あたりの年間受取賃料 73万円程度
一戸あたりの月間受取賃料 6万円程度
一戸あたりの年間営業利益 4万円程度
一戸あたりの年間営業利益 3,300円程度
※管理戸数以外は筆者が試算

 

これを見て分かる通り、レオパレスは一戸(一室)あたりで毎月6万円程度の賃料を収受し、一室あたりで3,300円程度の儲け(=営業利益)を出しています。

これは受取賃料の約5%です。

イメージとしては賃借人から受け取った賃料の90%をオーナーに返し、残り10%を自社の粗利益とし、自社の経費5%を差し引いた残り5%が儲けというところでしょう。

この賃貸事業の利益がレオパレスの事業利益のほとんどを占めており、建築請負はあまり存在感がありません。

よって、レオパレスの事業は(現時点では)賃貸事業の動向が企業存続の可否を握ります。

これがレオパレスの数値面からみたビジネスです。

(参考情報)大東建託の場合

なお、同業者である大東建託の業績についても参考までにみておきましょう。

ここでは大東建託の通期業績見通しを挙げておきます。

 

<大東建託 2018年3月通期の見通し>
建設事業売上高 6,520億円
建設事業営業利益 1,128億円
不動産事業売上高 8,697億円
不動産事業営業利益 324億円

 

この建設事業はレオパレスでいうところの建築請負事業、不動産事業がレオパレスの賃貸事業と考えて概ね合致します。

大東建託は、建築請負事業に力を入れており、建築請負で利益を出している企業です。

その代わり賃貸事業ではあまり利益が出ていません。

かなりラフな計算になりますが、大東建託の賃貸事業は以下の数値となります。

 

<大東建託 賃貸事業の数値(2018年3月期計画値)>
管理戸数 1,075,000戸
一戸あたり年間受取賃料 81万円程度
一戸あたり月間受取賃料 7万円弱
一戸あたりの年間営業利益 3万円程度
一戸あたりの月間営業利益 2,500円程度

 

この数値とレオパレスの数値を比べるとどのようなことが言えるでしょうか。

ポイントは以下です。

  • 大東建託はレオパレスよりも賃貸アパートの管理戸数は多いが、一戸あたりの収益は低い
  • 一戸あたりの営業利益ではレオパレスの方が3割も高い(=儲けている)
  • すなわち、大東建託は建築請負で前倒しで利益を計上するモデル
  • レオパレスは賃貸・管理で利益を計上するモデル

このように数値の面では整理できるでしょう。

なお、レオパレスは当初から賃貸管理で利益を計上するモデルではなかったと思われます。2008年3月期では、賃貸事業の売上高は3,027億円、営業利益はわずか30億円です。

レオパレスのビジネスモデルは、以前は大東建託と同じビジネスモデルだったが、会社が傾いた時に、建築請負を捨て、賃貸ではオーナーへの保証家賃を引き下げたから、一戸あたりの管理収益が大東建託よりも高い、ということでしょう。

レオパレスの過去の業績

今までレオパレスについて様々な角度から直近の業績内容等をみてきました。

ここでレオパレスの過去の業績についても簡単に触れておくことにします。

 

<2010年3月期>
売上高 6,204億円(前期比▲15%
営業利益 ▲297億円(同▲799億円、赤字転落)
当期利益 ▲791億円(同▲890億円、赤字転落)
<2011年3月期>
売上高 4,835億円(前期比▲22%
営業利益 ▲245億円(同+52億円)
当期利益 ▲417億円(同+373億円)

 

レオパレスにもこのような業績の苦しい時期がありました。

特筆すべきはこの時期は将来の「飯のタネ」を作るために建築請負にも注力していたことです。

2009年3月期の建築請負の売上高は3,592億円です。これが2010年3月期には2,371億円の売上高、2011年3月期には1,078億円となりましたが、建築請負がレオパレスの半分近くを占めていた時期もあったのです。

しかし、リーマンショック以降、同社の業績が悪化する中で、建築請負を取るよりも賃貸事業に力を入れるようになったということです。

これからのレオパレスはどうなるのか

では報道等で逆風のレオパレスの今後はどうなるのでしょうか。

顧客離れによって会社として存続が難しくなるのでしょうか。

ここでも印象ではなく数字を押さえましょう。

 

<押さえるべき数値(2017年9月時点)>
(負債)
短期借入金 13億円
一年内償還予定の社債 40億円
リース債務(短期) 57億円
長期借入金 127億円
社債 141億円
リース債務(長期)125億円
以上合計 503億円
(資産)
現預金 969億円
投資有価証券 130億円
以上合計 1,099億円

 

企業が倒産する時というのは資金繰りがつかなくなった時です。

特に、銀行等の金融機関から見放されてしまうと(借金を返せと迫られると)資金繰りに異常をきたすことになってしまいます。

では、レオパレスが金融機関から借金の返済を迫られたらどのようになるでしょうか。

上記に記載の通り、レオパレスは多額の現預金(すぐに売却できると想定される有価証券含む)を保有しており、この金額は借入金(リース債務含む)を遥かに上回ります。

すなわちレオパレスは強引な営業手法が批判され、金融機関から資金を調達出来なくなっても、借金を返せと迫られても、少なくとも短期では潰れることはありません。

これが、第一におさえておくべきポイントです。

これはレオパレスの株価をみても分かります。株式市場はレオパレスが破綻することを想定していません。

では、レオパレスには何ら問題がなく、今後も企業として存続するのでしょうか。

これについては筆者は分かりません。

しかし、以下の点は指摘することが出来ます。

  • ガイアの夜明けのような批判がある以上、新規の建築請負獲得は困難
  • 建築請負が伸びない以上、一括借上げする管理物件数は将来的に減少していく可能性が高い
  • レオパレスの賃貸アパートは軽量鉄骨がほとんどであるため、耐用年数は30年程度(ただし、レオパレスの30年借上げ保証が示すように、実際には30年超も通常は使用可能)
  • すなわち、30年経つ物件からレオパレスの管理物件ではなくなっていくため、「ゆっくりと」業績が悪化していくというのが最も想定されるシナリオ
  • ただし、レオパレスが破綻まで追い込まれるとするならば、それはレオパレスの印象が悪化し、賃借人、すなわち入居者が集まらなくなり、既存の入居者も退去してしまうこと(空室率の上昇)
  • よって、レオパレスが「潰れる」としたら、マスコミによるネガティブキャンペーンおよび何らかの法令違反により、空室率が一気に悪化した時というのが想定されうるシナリオ
  • レオパレスの入居者は法人契約(企業の独身寮として使われているイメージ)が2017年3月末時点で56%を占める状況
  • よって、レオパレスがコンプライアンス(法令遵守)で大きな違反を犯せば、法人が契約を打ち切る可能性あり
  • 現時点ではアパートオーナーから家賃減額等についての集団訴訟が複数起こされており、この動向には留意要
  • ただし、訴訟での請求金額を見る限りはレオパレスが敗訴しても払いきれない額ではない模様(筆者がネットで調査した限りでは)
  • なお、レオパレスはかなりのテレビCMを流しており、マスコミは追及しにくい現実あり 

以上がポイントとなるものと想定します。

筆者の所見では、レオパレスは簡単には潰れないというのが、最も説得力のあるシナリオだと考えています。

 

なお、本件に関連し、皆様からのコメントにもありましたので、銀行の貸し手責任についても記事を作成しました。

併せてご参照ください。

www.financepensionrealestate.work