銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地銀の統合・再編に関する公取委の方針とマスコミとの質疑応答

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地銀の業績苦戦が伝えられており、金融庁の金融行政方針や日銀幹部の講演等でも地銀の統合・再編の必要性について述べられています。

その中で、近時批判を浴びるようになったのが公正取引委員会です。

公正取引委員会(以下公取委)が再編を認めないとして問題となっているのです。

今回は、この公取委の発表、会見の内容を確認し、公取委の考え方について焦点をあてます。

独占禁止懇話会

まず、公取委の直近の動きについてみていきます。

2017年11月22日に独占禁止懇話会の会合が開催されました。

この独占禁止懇話会とは以下の会合をいいます。

独占禁止懇話会とは「我が国経済の著しい変化に即応して競争政策を有効かつ適切に推進するため,公正取引委員会が広く各界の有識者と意見を交換し,併せて競争政策の一層の理解を求めることを目的として,昭和43年11月以降開催しているものです。
 独占禁止懇話会は,答申を求める審議会ではなく,公正取引委員会が有識者の意見を求め,意見交換を行う場であり,行政運営上の懇談会にあたります。
 会員は,学識経験者,産業界,消費者団体,中小企業団体等の各分野における有識者で構成されています。」

独占禁止懇話会:公正取引委員会

2017年11月22日の独占禁止懇話会では以下のやりとりがなされています。まずは、この内容を確認しておきましょう。

※最初が会員(有識者)からの発言、「→」は公取委の応答

 
現在審査中の事案である地方銀行の企業結合など、過剰供給状態にある分野については事業再編を進めるべきではないか。例えば、地方銀行が企業結合により寡占状態になり、貸出金利を引き上げた場合には、メガバンク等が低い貸出金利で参入するはずである。この点において、借り手側への調査などを公正取引委員会が行っていると思われるが、この調査の客観性についてはどのように考えているのか。

→例えば、金融機関の事業再編においては、融資を受ける需要者側にアンケート調査やヒアリングを行うほか、競争業者の金融機関からもヒアリングを行うなどして多角的に企業結合審査の客観性を確保している。

企業が事業を継続するためには、事業再編以外の選択肢がない場合、公正取引委員会はその企業が淘汰された方がよいと考えているのか。

公正取引委員会としては、事業再編自体を否定しているわけではなく、数ある事業再編の方法のうち需要者の選択肢を著しく狭めるような再編は好ましくないと考えている。


個別案件については答えられないかとは思うが、可能な範囲で、長崎県の銀行の統合について現在の審査の状況を教えていただきたい。統合の無期延期により地域は疲弊している。貸出の県内シェアのみにこだわるのではなく、地域の利益についても考慮すべきではないか。

→審査に必要な報告等の要請を行い、現在、当事会社からの報告等を待っている状況である。当事会社から報告があれば90日以内に審査を行うこととなるが、当事会社が報告等を行っていないため、時計の針が進んでいないものであり、公正取引委員会が審査を止めているものではない。
公正取引委員会としては、県内シェアを絶対的な指針としているものではなく、実態を見た上で、競争が行われている範囲を判断している。

 

金融業界においては、フィンテック等、テクノロジーの技術革新が行われている。企業結合審査を行うに当たっては、貸出金のシェアのみをもって判断するのではなく、金融サービスに係る事業を整理した上で、多角的に判断する必要があるのではないか。ただし、その際にも、競争法の目的である需要者の保護をないがしろにしてはならないと思われる。

(この項目は会員の意見のみ)

(平成29年12月6日)独占禁止懇話会第208回会合議事概要について:公正取引委員会

 

以上が独占禁止懇話会の議事内容です。

この議事で明らかなのは当該懇話会の会員からは、公取委の姿勢(ふくおかFGと十八銀行との統合問題)について否定的な意見が目立つということです。

この懇話会の内容を説明した公取委事務総長の会見が次のポイントになります。

公取委事務総長の会見内容

2017年12月6日に上記独占禁止懇話会の議事内容について公取委の事務総長が定例会見で説明をしています。

この会見では日経新聞でも報道された通り、異例の対応がなされました。

まず、企業結合審査の考え方と題する資料が配布され、「需要者が十分な選択肢を確保できるか」「競争を実質的に制限するか」等の観点から統合審査を進めるとしています。

「公取委は審査中の事案について公の場でコメントすることすらまれ(日経新聞2017年12月7日朝刊記事より引用)」であるため、非常に異例の会見となりました。

この会見内容について以下確認をしていきます。

事務総長の説明概要 

以下、公取委の事務総長の説明概要について抜粋し、引用します。

日本でございますけれども,地方銀行の統合案件については,平成2年及び平成3年に,店舗譲渡を条件に統合が認められた案件がそれぞれ1件ございましたが,それは禁止されたというわけではなく,その他の全ての案件におきましては無条件で,独占禁止法上,問題はないという判断がされてきております。
 先ほどの参考資料7頁目は,最近10年間の地方銀行の統合案件の一覧でございます。14件ありますが,いずれも第一次審査で店舗等の譲渡を条件とせずに,独占禁止法上,問題ないと判断されております。その中には,2番目にありますように,同一県内の地方銀行であります第三銀行および三重銀行の統合案件も含まれております。
 また,同じ参考資料の3頁を御覧ください。件数を載せております。最近の届出の状況をまとめてここに記載しておりますけれども,平成28年度に届出があった319件のうち,詳細な審査が必要として第2次審査に移行したものは3件,すなわち1%未満であり,ほとんどの案件は30日間の第1次審査で終了いたしております。
 1枚紙の資料の最後のところに,なお書きを付しております。地方銀行は,事業活動を行う地域が本店が所在する県などに限定されているわけではなく,実際に県域を越えて事業活動を行っている地方銀行や,他県の地方銀行との連携や統合を行う地方銀行は多数存在しています。また,金融庁が11月に公表しました「平成29年事務年度金融行政方針」においても指摘されていますように,地方銀行の競争手段は多様であるというふうにいえると考えております。

平成29年12月6日付 事務総長定例会見記録:公正取引委員会

企業結合審査の考え方
(平成29 年12 月6日 事務総長定例記者会見配布資料)

http://www.jftc.go.jp/houdou/teirei/h29/oct_dec/kaikenkiroku171206.files/171206.pdf

http://www.jftc.go.jp/houdou/teirei/h29/oct_dec/kaikenkiroku171206.files/171206_s.pdf

ここで公取委の事務総長が発言しているのは、以下がポイントです。

  • 今まで銀行の統合案件について認めなかった案件は無い
  • 公取の審査は非常にスピーディーである
  • 地銀の競争手段は再編・統合だけではなく、金融庁もそのように言っている 

公取委の事務総長は各方面から批判を受けているのでしょう。

ここまで資料を準備し会見を開いたのは、本当に驚きです。

では、次に、公取委の事務総長とマスコミとの質疑応答をみていきましょう。

マスコミとの質疑応答

以下、公取委事務総長とマスコミとの質疑応答です。

このやり取りは非常に興味深いものがあります。

<会見の目的>

(問) この考え方をこのタイミングでお示しになられた理由というのを教えていただけますか。
(事務総長) 今,私の発言の中でも幾つか触れておりますけれども,最近,地方銀行の統合案件について,種々の報道等がなされております。その点についてかなり関心が集まっている,また,先ほど申し上げました独占禁止懇話会においても,その問題に関して御質問等がございましたので,この際,公正取引委員会の考え方をお示しして,従来から採っている考え方ではありますけれども,そのことをきちんと御説明しておいた方が良いのかなと考えたものであります。

<ふくおかFGと十八銀との統合審査>

(問) もう1点なんですが,この1枚紙のなお書き,一番最後の5点目のところなんですけれども,地銀は県に限定しているわけじゃなくて,県域を越えて事業活動を行っている銀行は多数存在とありますけれども,今回,二つ,地銀の統合ケースがあるんですけれども,九州の場合はこのケースに当たるかと思うんですけれども,その審査が,今現在は長崎県内に限ってのシェアなりというのを審査されているやに伺っておるんですけれども,そのお考えを変える,あるいは九州全体に市場を広げて審査をされるというお考えはないでしょうか。
(事務総長) 先ほど申し上げましたように,今の御質問は,取引分野のうち,主に地理的な範囲に関わる話だと思います。冒頭の御説明の中,参考資料の中にもありますけれども,その取引分野を認定するに当たっては,どういった具体的な事業活動が行われていて,それが需要家サイドから見て,どの範囲で取引,それぞれの商品・サービスを購入することが可能なのかということで判断していくことになります。ですので,それは個別のケースごとに詳細,多くの場合には先ほど申し上げた第1次審査で済んでいますから,それほど詳細には行っていませんけれども,何らかの問題があるのではないかという場合については,その点を詳しく検討して,どの範囲までが,例えば地理的範囲であれば,どの地域までが競争が行われている場として考えるべきなのかというのを見ていくことになります。
 個別のケースに関してでございますので,今,お尋ねのあったケースについて,現在,どういうふうな取引分野で考えているのかというのは,今の段階では差し控えさせていただきたいと思いますけれども,第2次審査に行った案件でございますので,公正取引委員会の結論を出した場合には,当然,その内容については公表させていただきますので,その中においては,どういう考え方を採ったのかというのは明らかにさせていただくことになります。
(問) 長崎の案件に関しては,県内だけでなく,県外も含めても一つの選択肢として審査をされていると,そういう認識でよろしいんでしょうか。
(事務総長) そのことをお答えすること自身が,個別案件についてお答えにすることになるのでですね,考え方は先ほど申し上げたようなことですので,そうした観点から,どういう取引分野と考えるのが適切なのかということを基準に置いて,審査を行っているということです。
(問) じゃあ,飽くまでも県だけに限った話ではないということですか。そういうことでいいんですか。
(事務総長) それは,実際にどのような取引が行われているかに依存するということになります。

<地銀の統合にかかる全体質疑>

(問) 全体的な話になるんですけども,結局,この2件の審査が続いていて,なかなか統合できないというですね,一部批判めいたような意見もあるんですが,改めて公正取引委員会の立場,考え方を教えていただきたいのと,あと,このなお書きに書かれている地方銀行の競争手段は多様であるということは,言い換えれば,統合以外の手段を考えるべきだということを御主張されているのか,その辺りをお聞かせください。
(事務総長) まず,最初の点につきましては,私どもとしては,先ほど申し上げた競争を制限するような統合であれば,それは認められないということになりますし,個別案件においては,それがそういうものなのかどうかというのは,実態に即して判断していくということになります。また,公正取引委員会の企業結合審査全般に関して,それから特定の案件に関して,いろいろと御批判や御意見等が出ているのは承知しておりますけれども,その一つひとつに何か反論していくというのは必ずしも適当ではないと思っておりますので,今回もそうですし,時をとらまえて,私どもの企業結合審査の考え方がどういうふうになっているのかというのを御理解していただくということが大事なのかなと思っています。
 なお書きのところの記載でございますが,先ほど,最近10年間でも地方銀行の統合がそこそこありますということを申し上げましたように,統合自身を頭から否定するというものではありません。ただ,今後,その統合によって利用者に大きな不便なり,不利益を生じさせるというものがあるのであれば,それはほかの手段も考慮していただいた方がいいのではないかという趣旨です。

(問) 地銀の統合を判断するときにですね,競争的な要素ももちろん重要だとは思うんですけれども,一方で結合することによって金融機関の体力が増して,より安定的に金融機関システムが運営されるといったような観点は考えられるんでしょうか。
(事務総長) 企業結合審査においては,基本的には競争を実質的に制限することとなるかどうか,それは先ほど申し上げたような形で考えていくことになります。
 ただ,その一方で,当該統合によってプラスの要素が生じるということも当然あります。それは,そのプラスの要素が具体的にどういうものであって,それがきちんと利用者に還元されるものであり,また,その統合を行うことによってでないとそうした効果が得られないかどうかということが企業結合審査においても判断する一つの要素になってまいります。ただ,それが少しでもそういうことがあればいいんだ,ということにはならないというふうには思います。
(問) 例えば,ただ銀行が生き残るためだけの統合であれば,それは検討に値しないというところですか。
(事務総長) 誰のための統合かということだと思います。

(問) もう1点,ちょっと全体的な話になりますが,今回,独占禁止法施行70周年のところにも意見として書かれていますが,いわゆる歴史の古さは良いことばかりじゃないと,過去を振り返るのも重要だけど,未来志向で競争政策に取り組むことも重要であると書かれています。最近,寄せられる批判の中に,いわゆる独占禁止法というものが,今の競争政策というものが過去の右肩上がりの時代,企業がどんどん増えている中で,あるいは経済が良くなっている中での独占禁止を志向しているのであって,最近の右肩下がりの市場の中で,下手したらどちらかが倒れてしまうというような状況もあり得る中での競争政策は,過去のものを引きずっている,公正取引委員会のやり方は古いんじゃないかと,もっと右肩下がりの,地銀もそうですけど,そういう統合しようとするのを,考えるべきじゃないかという意見があるんですけど,それについてはいかがでしょう。
(事務総長) 独占禁止法が施行されて70年になります。今,右肩上がりの経済とおっしゃいましたけれども,それは70年間のうちでも,その一部の時期だろうと思います。その70年間の中には経済が成長した時期もあれば,停滞,低成長といわれた時期もありますし,また,成長率がどんどん下がっていったというような時代もあったかと思います。独占禁止法は,生きた経済を見て,それに対して判断を加えていくものでございますので,そうした経済の現状認識というのは我々が法律を運用したり,様々な意見を述べていく上での前提となるというふうに考えております。
 ですので,そうした経済に対する認識というものはきちんと持っているつもりでありますし,また,それはきちんと,我々自身も勉強して持たなければいけないものだというふうに思っておりますので,今おっしゃられたようなことというのは当たらないんじゃないかと考えています。
(問) 御指摘の金融行政方針の中でですね,競争政策について,金融庁としてもですね,ふさわしいものというのを検討していくというようなくだりがあるんですが,競争政策について,金融当局がですね,そういうことを言うことについて,どのように受け止めておりますでしょうか。
(事務総長) 各省庁がそれぞれの所管行政を適切に運営するに当たって,様々な事項を検討されるということはあることだと思います。ですので,金融庁の方が,御自身の行政を運営するに当たって,そうしたことに対する研究が必要だというのであれば,それをなさること自体は否定するものではないというふうに思います。
 ただ,飽くまで私どもは競争政策,競争法を実施する官庁でございますので,私どもは私どもとしてきちんとした考え方を持っているということでございます。

(問) さっきのアンケートのお話と関連するんですが,金融庁が地銀に対して,顧客の理解を求めなさいということを常々言っているんですが,顧客が独占でもいいと,それでもいいから統合をお願いしますと言った場合,顧客の意見というものは,公取の審査においてポイントとなるんでしょうか。
(事務総長) 先ほど申し上げたような意味での企業統合による競争の実質的な制限が起こるかどうかということを判断する際の一つの要素にはなりますけれども,顧客が皆いいと言っているから大丈夫なんだということでは必ずしもないと思います。

(問) 2点お伺いしたいんですけれど,まず1点目ですけれども,本日の公表資料を拝見させていただくと,まず独占禁止法に関する懇話会のところでは,長崎の案件を指していると思うんですけれども,統合が無期延期になって,地方が疲弊しているんだという指摘が出て,それに対して公正取引委員会サイドとしては,これは公正取引委員会の問題ではなくて,向こう側で報告をしてこないので,時計が今止まっているんですということで,そういうお話があったり,あるいは,こちらのパワーポイントの資料等を拝見させていただくと,要するに,長崎や新潟それぞれの当事行に対して,再度統合の枠組みを考え直して,県内にこだわるんではなくて,県外のいずれかの金融機関との統合等を検討してはどうかとか,世間的には公正取引委員会が阻止しているように受け止められているけれども,当事行が公正取引委員会ときちんと対話に乗ってきていないのではないかとか,そういう問題意識を感じるんですけれども,その点はいかがでしょうか。
(事務総長) まず,御質問の前半に関わる点としましては,参考資料2頁のところに企業結合審査のフローチャートがございます。話題になっていますので,具体的に名前を出してしまいますけれども,長崎や新潟の案件というのは,この真ん中にあります「審査に必要な報告等の要請」が行われて,その下にあります「報告等の受理」がまだ行われていないという状態になります。
 公正取引委員会が最終的に判断するのは,この報告が提出されてから90日以内ということになりますので,そういう意味で,まだ時計が動いていないという状況でございます。
 資料をどの程度のタイミングで出すのかと,私の方で何か申し上げることはできない話でありますので,懇話会における御説明でもそういった趣旨で申し上げたところです。
 今,御質問いただいた,ほかのやり方を考えてみてはどうかということについてですが,これはやはり当事会社がまずどういうふうに考えるのかという問題でございますので,私どもの方から,ああした方がいいんじゃないか,こうした方がいいんじゃないかというふうに申し上げるのは適当でないと考えております。
 ただ,当事会社とは,これまでもコミュニケーションはとってきており,私どもの考え方,それから,どういったところが問題になりそうなのかということは,当事会社に対しては伝えておりますので,その上で,こういうやり方はどうか,こういう問題解消措置ではどうかということも御提示があれば,それに対しては,それでいいのかどうかというコミュニケーションをとることになっていますし,本件についてもそういったやりとりは現在でも続いていると考えています。
(問) そうすると,報告がまだ来ていないということは,決定打になるような問題解消措置というのが当事行から上がってきてないので,当事行としても時計の針を進めるわけにいかないのでという,そういう理解でいいんでしょうか。
(事務総長) その辺も当事会社側の御判断だと思います。
(問) 今回の統合についての審査の考え方を丁寧に御説明いただいたんですけれども,これはおそらくいかなる産業についても,こういう考え方でお進めになっていると思うんですけれども,銀行側の論理として,金融というのは,ある意味,公共性といいますか,金融機関の健全性も重要ですし,それは第一義的にはその金融機関のためなんですけれども,健全性を維持することは,ひいては地域の利用者のためになるんだと,あるいはコスト削減にもなるんだということで,銀行としては統合というのも一つ選択肢に挙げているということだと思うんですけれども,企業結合審査に当たって,金融業の,銀行業の特殊性といったものは,どういうふうに考えられるんでしょうか。
(事務総長) 特殊性ということを言い出すと切りがなくて,どの産業でも特殊性というのは存在するので,それはもう程度問題なんだろうと思います。
 ただ,それを全く考慮しないというわけではありませんので,先ほど申し上げましたように,そういうことも含めた需要者の利益がどうやって図られるのか,そのためには企業統合しかないのか,そういった点はコミュニケーションの中で出てくる話だと思います。

(問) 地銀の統合に関して,例えば店舗譲渡とかのような競争環境になるような措置ではなくて,独占とか,多少寡占の,競争が制限される状態にはなるけども,それによる弊害が出てこないように,例えば銀行でいえば金利が上がらないように誰かが監視するとか,そういう別の措置によって弊害が出ないようにするというのは,考え方としてあり得るんでしょうか。
(事務総長) 今おっしゃられた措置が適当かどうかはともかくとしてですね,構造的措置以外の措置によって統合を認めているケースも,ほかの産業ですけれども,ございます。ですから,構造措置でなければならないということは一概にはいえないと思いますけれども,それがきちんと競争が機能する状態に持っていけるような措置でないと意味がないということだと思います。

(問) 配布資料の「5」のなお書きのところでですね,企業結合どうこうではなくて,ほかにも方法があるんじゃないかと書いてありますが,これは企業結合審査をする立場からしたら,やや脱線というか,踏み込み過ぎな気がしたのですが,この点はいかがですか。
(事務総長) 先ほど,その統合自身が頭から悪いものだというふうに決めつけてるわけではないと申し上げましたけれども,逆に統合ありきということもないだろうと。企業結合審査という意味であれば,企業結合が行われるということがまずあって,それに対して審査を行うという順番になりますけれども,競争政策全般,競争をより促進していくという立場からすれば,できるだけ競争制限的にならないやり方で事業なり業界の発展をしていただくというのがベターだと思いますので,おっしゃるとおり企業結合審査という枠からはちょっとはみ出しているかもしれませんけれども,いろんなやり方があるんじゃないですかということは申し上げておきたいというふうに思ったものです。

(問) ちなみに金融は特区とか作れないんですよね。エリアが限定されないわけですから。市場の範囲というときに,インターネット融資とか,そういうことも考慮はされているものなんでしょうか。
(事務総長)先ほど地理的範囲のことを言いましたけれども,まず考え方の順番としては,理論的にですけれども,ごく狭い地域で供給者が1社しかいないという状態で,他の供給者に乗り換えられるか。他の供給者に乗り換えられるのであれば,その供給者がいるところまで含めて一つの市場とし,今度,その市場の中に供給者が1社しかいなくなったとして,その外側まで行けるのかどうかという,今,場所の話をしていますけれども,そういった考え方になります。その中には,物理的にそこに存在していなくても,需要者の側がアクセスすることができるというのであれば,それは考慮の対象にはなります。一般論としてはです。ただ,それが有効な供給先として機能するものかどうかというのが前提にはなりますけど。

 

以上が公取委事務総長とマスコミとのやり取りとして公表されているものです。

公取委の方向性

以上記載してきました質疑応答のポイントは下記の通りとなります。

  • 銀行が生き残るための統合という観点のみで統合を認めることはないこと
  • すなわち、銀行以外の借入人や預金者が銀行の統合によって利益を得られるか、利益を制限されないか、がポイントであること
  • 地銀の統合については、県内シェアだけを見ているのではなく実質的な競争環境(県をまたいだ競合等)を勘案していること
  • 銀行という産業の特殊性を勘案して統合を認めることはないこと
  • 他の官庁が何を主張しようと、公取委としては、競争が制限されるか否かが判断のポイントになること
  • 現時点では、インターネットを介したファイナンス、フィンテック等は地銀と競合しているとまではいえないと公取委は判断している可能性が高いこと

以上のように、同じ県内を地盤とし、競争が制限されうるような地銀の統合、再編は簡単には公取委が認めないでしょう。

地銀は生き残りをかけて統合、再編を模索していますが、統合、再編にあたっては広域連合を組み、間接部門(本部、システム、事務等)を削減していく方が現時点では現実的な選択肢となりそうです。