銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

オルタナティブ投資はCAT債(キャットボンド)を選択肢にすべき

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世界全体で金融緩和環境、すなわち金余りが起きています。

この環境下、資産運用における利回り確保のため、オルタナティブ(代替)投資が拡大してきました。

インフラ投資、バンクローン等への投資も拡大していますが、やはり不動産への資金流入は大きなものになってきました。

オルタナティブ投資の魅力・意義は、伝統的な資産(株式、債券)との相関が低いことにあります。

ところが世界的な金余りの環境では、オルタナティブ投資の対象となる資産にも資金が流れ込んでおり、伝統的な資産との相関が高まってきているのが実情でしょう。

今回は、現時点で伝統的な資産との相関が低く、本来的な意味でオルタナティブ投資といえるCAT債について考察します。

CAT債とは

CAT債のCATとはCatastrophe=カタストロフィの略です。すなわち、災害に関する債券となります。

CAT債は、定められた要件を満たす災害(台風・洪水・地震等)が発生した場合に保険会社等の発行会社が資金を受け取る、もしくは投資家の償還元本が減少する仕組みの債券をいいます。

イメージとしては以下の図が参考になります。

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出典 T&DアセットマネジメントHP 

債券の期間は3~5年が通常です。この債券の投資家は定期的に利払いを受け取ることができますし、債券の償還期限までに要件を充足する災害が発生しなければ、償還期限に元利金も受け取ることができます。

CAT債のような商品に投資することを保険リンク戦略と呼びます。保険リンク戦略は、保険業界が保有する保険金支払いリスクを市場に移転する仕組みに投資する戦略です。

投資家にとってみれば、保険料収入というリターンの源泉は災害等の発生リスクへの対価ですので、世界のマーケット・金融政策、すなわち伝統的な投資資産と相関性が低いことが特長となります。

自然災害の状況

実は、CAT債の足元の運用状況は低迷しています。

ご記憶の方も多いでしょうが、2017年8月以降、大型のハリケーン等が発生し保険金支払いが発生する見込みであるためです。

特に既存のCAT債は北米の自然災害リスクを引き受けていることが多いことから、大きな影響が出ているのです。

2017年8~9月には以下の自然災害が発生しています。

<ハリケーン・ハービー>

  • 2017年8月25~31日
  • カテゴリー4
  • 米国テキサス・ルイジアナ州
  • 想定損失額は65~350億ドル程度(予測値)

<ハリケーン・イルマ>

  • 2017年9月6~11日
  • カテゴリー4(米国上陸時)
  • フロリダ・ジョージア・ノースカロライナ州等、カリブ諸国
  • 想定損失額は225~550億ドル程度(予測値)

<メキシコ地震(9月7日分)>

  • 9月7日
  • マグニチュード8.2
  • 想定損失額は最大10億ドル程度

<メキシコ地震(9月19日分)>

  • 9月19日
  • マグニチュード7.1
  • 想定損失額は最大50億ドル程度(予測値)

<ハリケーン・マリア>

  • 9月20日
  • カテゴリー5
  • プエルトリコ、ヴァージン諸島
  • 想定損失額は150~850億ドル(予測値)

以上の通り、2017年8~9月にはメジャーハリケーン(ハリケーンの勢力を最大風速により5段階に分類したカテゴリーのうち3以上を指す。なお、カテゴリーは5段階)が12年ぶりに米本土に上陸しました。

そのため2017年の保険業界の保険金支払額=損失額は近年では最大となる可能性があります。

当然ながら自然災害のリスクを引き受け、保険料収入を収益の源泉としているCAT債も大きな影響を受けています。

なお、メジャーハリケーンが米本土に上陸したのは2005年が最後でした。

過去の災害による保険業界の損失額

過去の災害による保険業界の損失額で最大のものはハリケーン・カトリーナ(2005年)です。

ハリケーン・カトリーナの保険損失額は820億ドルといわれています。

なお、東日本大震災の保険損失額は380億ドルです。

本年8~9月に起きたハリケーン等の災害は非常に大きいものではありますが、ハリケーン・カトリーナは超えないと予想されています。

現在のCAT債の状況

上記の災害発生により、全体的にみれば時価が大きく下落している状況にあります。

特に被災地域が対象となるCAT債は多く、その対象銘柄の時価はかなり下落し、2017年9月中にはSwiss Re Cat Bond Price Indexが一時的に▲15%程度下落していました。

CAT債の価格は大規模災害の発生後に、一旦大きく下落し、その後に保険業界等の発表する損失予測値や、実際の損失確定額が発表されるに伴い価格が上下していくことが一般的です。

よって、足元では損失額の予想値が発表される度に価格が動く可能性があり、不安定な環境にはあります。

なお、足元の状況については個人向けのCAT債を組み入れたファンドを組成しているT&Dアセットマネジメントの運用報告が詳しいので以下引用します。

10月は、8~9月にかけて発生した一連のハリケーンによる推定損失額の修正が行われました。

この修正により債券価格は、各債券の保険金支払の契機となるトリガーの違いによりまちまちな動きとなっています。

一方で、10月初旬からカリフォルニア州北部で山火事が相次いで発生しました。今回の山火事は月末まで消火活動が続き、同州において史上最悪の規模となり、建物やワイン畑などに広範な被害が生じました。住宅14,000棟以上と商業施設700以上が被害を受けたことで、カリフォルニア州保険局は山火事による保険損失推定額を30億米ドルと発表しましたが、各保険会社による損失額から業界損失額を想定すると30億米ドルから大きく拡大する見込みです。Property Claim Services(PCS、保険業界の統計機関)は3件の山火事をまとめて保険損失額を算出する予定ですが、金額はいまだ発表されておりません。多くのCATボンド、特に累積損失額をトリガーとする債券が今回の山火事リスクを参照していますが、一連の山火事は10月のパフォーマンスに反映されておりません。PCSからの発表を受け11月以降のパフォーマンスに反映されていくものと思われます。
http://www.tdasset.co.jp/fund/LEQ/

※このリンク先にCAT債に投資するファンドの基準価格がチャートで掲載されています。

CAT債の強み

今まで述べてきたように、CAT債のリターンの源泉はリスク引き受けによる保険料収入です。

当然、災害発生による保険金支払発生がリスクとなります。

このCAT債は過去の実績からすると、安定的な保険料を積み上げていくことになります。

そもそも大手の損害保険会社がかなりの利益を計上してきたのですから、保険は儲かる分野であることは間違いありません。
また、経験則上ということになるのかもしれませんが、大規模災害後は保険料が上昇することが常です。保険会社も収益を確保する必要があるからです。そのため、次回の再保険の契約更改では再保険料が上昇する可能性が出てきています。これは運用改善に当然貢献するでしょう。

そして、CAT債の魅力は各国の経済状況や景気動向には大きく左右されていないことです。伝統的な資産との相関がほとんどなく、金融市場が荒れた時期でも、マーケット動向に左右されず安定的にリターンを確保できることも魅力でしょう。

このようなCAT債は、運用商品として長期の運用を行う年金基金、機関投資家等にとって選択肢として非常に有用だと筆者は考えています。

是非、運用担当者は検討すべきですし、運用商品を販売する銀行員も提案する選択肢にすべきでしょう。

(ご参考)個人で投資可能な商品

なお、個人でもCAT債への投資は可能です。
T&Dアセットマネジメントが運用する「リビング・アース戦略ファンド」がその商品です。

筆者はT&Dアセットマネジメントとは何ら関係ありませんので、以下リンク先のみ掲載しておきます。
http://www.tdasset.co.jp/fund/LEQ/