AIというワードを新聞やマスコミ等で見かけない日はありません。
この大きな波は金融の現場にも及んでいます。これから続々と普及するであろうAI運用です。
本日はこのAI運用について軽く触れるともに、投資される側の企業にとって意識すべきこと、このAI運用をきっかけとした金融機関にとっての新ビジネスについて考えます。
AI運用とは
AI運用とは、コンピューターが深層学習(ディープラーニング)等で自ら学び答えを導き出すAIを活用した運用手法です。
従来から行われていたクオンツ(計量)運用が運用モデルを人間が作っていたことにたいして、AI自らがモデル構築まで行うようになってきています。ただし、筆者からみると、ポイントなる指標を設定して投資判断を決めていく以上、クオンツ運用とAI運用の明確な差は無いようにも思います。
AI運用について企業担当者が気にしなければならないポイント
AI運用というカテゴリーで企業の担当者(特にIR)が注意すべきは、AI運用はビッグデータ技術を活用していることでしょう。
インターネット回線の高速化、システム処理能力の向上によって大量のデータを解析できる環境がコンピューターにとって整いました。これにより、単独の企業を取り巻く、ありとあらゆるデータも解析の対象になってきています。
ニュース、有価証券報告書、ネットの書き込みなど、大量のデータから特定の銘柄を点数化し、点数が高い銘柄の購入を行うという形でAI運用では投資先企業が選定されるのです。
海外のヘッジファンドでは四半期決算発表の電話会議の音声も分析対象としています。経営者がアナリストからの質問に対して自信の無いような受け答えをすると、微妙な声の揺らぎでもAIが収集し定量化(分析)してしまうこともありえます。その瞬間にヘッジファンドがその企業の株を売り始めているかもしれないのです。
従来のIRは運用会社のファンドマネージャー等を訪問する等して自社の株式を買ってくれるようにIR担当者が売り込んでいました。
これは今後も有効でしょう。運用会社で投資判断を行うファンドマネージャーは今後も(しばらくは)存在し続ける可能性が高いと筆者は想定しています。
AI運用の商品は企業年金基金等のプロ投資家が購入するにはハードルがあります。「誰が」「なぜ」「この株式を」買ったのかをAI商品を作った運用会社も説明できない可能性が高いからです。
そうなるとプロ投資家側も商品の優劣について判断ができません。結果として、日本ではしばらくの間はプロ投資家のAI運用商品購入は行われないでしょう。もちろん、人間よりもAIの方が運用パフォーマンスが優れていることが示されれば中期的にはAI運用の投資商品をプロ投資家も購入する可能性はあります。
一方、個人分野等ではAI運用はパフォーマンスさえ良ければ拡大する可能性があります。ゴールドマンサックスがディーラーをコンピューターに置き換えたように機関投資家自身がAI運用を行う可能性はある訳です。
そうすると、従来のIRのやり方では、IR担当者は投資家のどの部署、どの人物に、訪問しアピールすれば良いか分かりません。AIの開発者に訪問したところで自分で学習しているAIには何の影響も及ぼすことができません。
これがAI運用が普及してきた際に、IRのやり方が変わると想定される問題です。
IRもAI運用に対処する時代が来る
上記にのべてきたように従来型のIRはAI運用には有効ではありません。未だ正解はありませんが例えば以下の観点が必要となってくる可能性があります。
- Yahooファイナンスのような掲示板への書き込み対策(場合によってはロボ・AI等を活用し自社に有利なように書き込みをさせる)
- 決算発表資料についてAIが好むような記載内容にする(他社開示資料等をビッグデータ分析し仮説を立てた上で対応等)
- 決算発表の電話会議での発言を一度コンピューター処理し、発言者の緊張等が伝わらなくする(そのような技術があるかは不明ですが)
- マスコミ等に流すニュースのタイミング・内容をAI好みのタイミング・ニュース内容(ネガティブとポジティブを混ぜる等)に変える
金融機関にとってのAI運用における新ビジネス
上記のようなAI対応のIRを一企業で対応することは至難の業です。
AI運用の開発側であり知見のある金融機関であれば、逆にAI運用に対処するIR対応サービスが提供できる可能性があります。
当然、AI運用のファンドの購入者との利益相反問題はありますが、適切にウォールを引けば、IRコンサルも立派な商品となるのではないでしょうか。
日本の金融機関が新たなチャレンジをするのか、筆者としては期待しているところです。