国際会計基準(IFRS)における新リース会計基準が公表されています。
この基準の導入により不動産の「賃借」が「保有」と比べて、あまり変わらなくなります。
これは不動産市場に対しては大きな影響を与える可能性があります。
今回はIFRSの新リース会計基準について考察していきます。
IFRSにおける新リース会計基準
新リース会計基準では、短期もしくは少額資産のリースを除き借り手は全てのリース取引をオンバランスさせることになります。貸し手については大きな変更はありません。
新基準のリースには、一般的に言われるリース取引はもちろんのこと、オフィス機器や不動産の賃借契約も含まれます。
この影響は大きく、オフィスを賃借している企業は、賃借しているオフィスを使用権資産として、賃借料をリース負債として、資産もしくは負債勘定に計上する必要がでてきます。毎年度の決算では使用権資産については減価償却費を、リース負債については支払利息を計上し、取り崩しをはかっていくことになります。
ポイントとなるのは、B/Sが膨らむこと、P/Lでは賃借料の一部が支払利息として営業外費用の扱いとなることから、いわゆる営業利益が改善する点です。
企業への影響
まず、IFRSを適用している企業にとっては、新リース会計基準の導入により、これまでは当然にオフバランスだった賃借オフィス等の不動産が使用権資産とリース負債という形でオンバランスされることになり、自己資本比率、ROA等の指標が悪化します。
また、リース会計基準では、いままで支払賃料として処理していた単純な費用支払が、使用権資産計上および減価償却、リース負債計上およびリース料支払・支払利息計上等、複雑な会計処理が求められることになるため、不動産を賃借するインセンティブが薄れることになります。
加えて、使用権資産については減損会計も適用されることになり、赤字企業にとっては突然巨額の減損損失を迫られることになりかねません。
以上のことから、企業によっては不動産を「持たざる経営」から「保有する経営」へ切り替えるところも出てくる可能性があります。
新リース会計基準導入の影響が想定される範囲
上述の通り、資金力、財務体力のある企業は不動産の賃借から保有に切り替える可能性があります。これに伴い、IFRS適用会社をテナントに持つビルでは、テナントの退去が起こる可能性もあります。
今回の新リース会計基準は、あくまでIFRSでの導入です。ただし、会計基準のコンバージェンスの流れの中では、日本基準についても同様のリース会計基準が導入される可能性は否定できません。
この場合には、例えば、業績拡大中でオフィスの拡大が必要な企業、賃借で他店舗展開を行う小売業・飲食業は軒並み財務指標が悪化します。
賃借で拠点を展開していることが比較的多い卸売業、運送業も同様です。
企業を対象とした不動産賃貸企業、J-REIT、私募REIT・ファンド等は企業のオフバランスニーズを捉えて規模を拡大してきましたが、賃借人に賃借メリットがなくなるのであればスポンサーからの物件供給が途切れる、もしくはテナントが退去する等の影響を受ける可能性があります。
また、不動産についてはリース会計基準など関係のない個人が賃借する住宅物件や上場企業が賃借などしない小型の物件が優位とされることになる可能性もあります。
いずれにしろ、IFRSでの新リース会計基準導入だけでは影響は少ないですが、日本基準で同様の会計基準が導入されたときの影響は甚大なものになります。
企業も(融資を行う)銀行も、J-REIT 等の投資家も今後の動向については留意が必要です。