前回までの記事でメガバンクのリストラについて考察してきました。
その中で繰り返し触れましたが、日本では正社員は簡単には解雇されません。
今回は、この「解雇」について法的な位置付けを考察します。
これは、正社員(銀行員含む)自身にとっても重要な話です。また、銀行員にとってはお客様の業績が悪化した時にリストラを迫ることもゼロとは言えません。このリストラの中でも、「人的リストラ」の難しさについて認識しておく意味でも、解雇について整理しておくことは重要です。
それではみていきましょう。
法律の条項
労働契約法16条は、解雇は客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠く場合には、権利を濫用したものとして無効とする、と規定しています。
この規定は、判例法理(簡単に言えば裁判の事例)の形で存在していた解雇権濫用法理と呼ばれる解雇制限法理が明文化されたものです。
解雇権濫用の判断枠組み
前述した通り、労働契約法16条の下で解雇が有効になるためには、解雇について「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」の存在が必要になります。
労働契約法16条は、それまで判例法理の形で存在していた解雇権濫用法理をそのまま条文化したものであるため、これらの文言の解釈に当たっては、解雇権濫用法理に関する従前の判例法理が先例としての意義を有し続けています。
法律の条文だけでは具体性がありませんので、次に判例によって積み重ねられた先例を確認していきます。
解雇の「客観的合理的理由」
では、解雇が認められる「客観的合理的理由」とはどのようなものでしょうか。
判例で成立してきた客観的合理的理由は以下の通りとなります。
①労働者の労務提供の不能による解雇(簡単に言えば、怪我や病気により働けないこと)
②能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如による解雇(ただし、会社側は繰り返し改善のための指導等を行う必要あり)
③職場規律違反、職務懈怠による解雇(一気に解雇ではなく、降格のように段階を経るべき等の観点もあり)
④経営上の必要性による解雇(後述)
⑤ユニオンショップ協定による解雇(労働組合からの脱退、ただし、制限あり)
これだけでも、会社が解雇するのは難しいことが分かるでしょう。
解雇の「社会通念上の相当性」
さらに、解雇には「社会通念上の相当性」が必要となります。この判断においては、当該事実関係の下で労働者を解雇することが過酷に過ぎないか等の点が考慮されます。
解雇という処分をする事案の内容・程度が厳し過ぎないか、他の一般的な事案や処分と比較しても、充分な妥当性があるか、ということも判断に入るということです。
ここまでみてきた通り、解雇を行うのは相当なハードルがあることが分かるのではないでしょうか。
以下ではさらに上記④の経営上の必要性による解雇、すなわち整理解雇についてもみていきます。
整理解雇の四要件
銀行が業績不振に陥った場合等のように、人員のリストラがどうしても必要になる場合もあるでしょうが、このような整理解雇でも4つの要件が必要とされており、安易な解雇は厳しく規制されています。
①人員整理の必要性(特定の事業部門の閉鎖の必要性等)
②解雇回避努力義務の履行(希望退職者の募集、役員報酬のカット、出向、配置転換、一時帰休の実施など、解雇を回避するためにあらゆる努力を尽くしていること等)
③被解雇者選定の合理性(選定が客観的・合理的であること等)
④手続の妥当性(労使協議があること等)
この四要件をみると、整理解雇を行うには、会社存続の危機がある等の相当な理由があり、加えて、様々な方策を行った後でなければ認められないことになります。
解雇に関するまとめと銀行員の今後
以上のように、日本の正社員については、たとえAIが普及し現在の仕事が代替されるといっても簡単に解雇される訳ではないのです。
これは銀行も同じであり、簡単に従業員をリストラすることはできません。
では、AI等が普及し業務が代替されていくと、どのようなことが想定されるのでしょうか。
それは、個々の銀行員にとって、今までの業務とは異なる新しい業務を習得していかなければ、銀行内で解雇されないにしても相応の処遇を得ることができなくなる可能性が高いということです。
事務ではなく営業、データの入力ではなくデータ分析もしくは分析プログラムの作成、提案資料作成よりも顧客との人間関係の構築等、今までとは異なったキャリア、スキルを開発することが必要になってくるのです。
AIが導入されたり、廃店があったとしても、銀行員は解雇されるかもと「心配しすぎることなく」、ただし、現状に安住せず常に世の中の流れによって「変わり続け」、銀行に必要とされるスキルを身に付けるように意識して働いていくことが生き残り策となるのです。
解雇される心配はありませんが、必要とされるように努力は続けなければならないということです。