今回は簡単にロイターの記事をご紹介します。
記事の内容としては、日銀の黒田総裁の表情をAIが読み取り、その表情と金融政策の変更との間に相関関係を発見したと東京大学出身の研究者ら(一人は野村證券金融経済研究所のエコノミスト)が発表したというものです。
これはすなわち、次回会合(=将来)での日銀政策変更の予測に利用できるかもしれないということです。
現在は、喜び、中立、怒り、驚き、嫌悪感、軽蔑、悲しみ、恐怖の8つに感情を分類し、黒田総裁の会見の映像を基に計測を行い、これをバックデータとして金融政策の変更との相関性をみているようです。
筆者としてはこれは完全にビジネスになると考えます。
金融政策の変更が事前に予測できれば、特に債権マーケットで勝つ確率を格段に高めることができます。
運用会社からの問い合わせもあるということですが当然です。
AI運用の世界ではすでに文書を読み込んで企業業績の傾向を予測するものもありますし、文書を用いて中央銀行の政策について予測する研究はすでになされています(日本でも発表されています)。
これに表情による分析を加えられるのであれば、より精度が高まるということです。
AIによる表情分析は、当初は金融マーケットに最も影響のある中央銀行総裁等の分析でスタートしていくでしょう。
しかし、将来的には各企業のCFOの分析までなされていく可能性は十分すぎるほどあるのです。
企業は表情を読むAIへの対応も今後考えていかなければならないということです。
企業経営者には表情を読み取られない訓練が必須となる時代が来るかもしれません。
なお、関連記事としてAIに企業のIRが対応すべきであることを以下の記事で書いています。併せてご参照下さい。
ロイター記事
2017年 10月 20日 5:47 PM JST
焦点:世界初、AIで日銀総裁の表情解析 政策予想に応用も[東京 20日 ロイター] - 東京大学出身の研究者らが、日本銀行の金融政策決定会合後に開催される黒田東彦総裁の記者会見の映像を人工知能(AI)モデルを使って分析し、その表情と金融政策の変更との間に相関関係を確認したと発表した。世界初の試みとされ、将来的に、日銀が次の会合で金融政策を変更するかどうかの予測に応用できる可能性がある。
<人が分析できない「感情」をスコア化>
研究を行ったのは、ともに東大大学院の新領域創成科学研究科で学んだ水門善之氏(野村證券金融経済研究所)と勇大地氏(米マイクロソフト)。論文の主執筆者である水門氏が14日、東京大学で開催された人工知能学会(JSAI)の金融情報学研究会で発表した。
同研究では、インターネット上に公開されている日銀金融政策決定会合後の総裁記者会見の映像を、0.5秒ごとにスクリーンショット撮影して作成した画像データを分析対象とした。
それを米マイクロソフト(MSFT.O)が開発した感情認識アルゴリズム「エモーションAPI」を用いて、喜び、中立、怒り、驚き、嫌悪感、軽蔑、悲しみ、恐怖の8つに分類される感情のスコアを計測。人間では正確に計測できないような細かい変化をスコア化した。
今回の研究では、会見中の黒田総裁の感情スコアの総合計に占める各感情スコアの割合を算出し、結果を解析。全体的には「中立」の感情が大部分を占めたが、日銀が金融政策変更を発表した会合の1つ前と直後の記者会見で、「怒り」、「嫌悪」、「悲しみ」の感情スコアに特徴的な変化が確認できたと言う。
<政策変更前は「怒り」と「嫌悪」が上昇、変更後は「悲しみ」が低下>
解析対象となった期間中(2015年10月─17年1月)、主な金融政策変更は2回。昨年1月のマイナス金利政策、そして同年9月のいわゆるイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の導入だ。
このうち、それぞれその1回前の決定会合終了後に行われた記者会見では、「怒り」と「嫌悪」の感情スコアが顕著に上昇した。
一方、それらの政策変更を決定した会合終了後の会見では、「悲しみ」のスコアが目に見えて低下したと言う。
これについて、水門氏は「政策変更を行う前の回の会見では、黒田総裁自身の中で既存の金融政策に対する問題意識がすでに高まっており、それが怒りや嫌悪感にカテゴライズされたネガティブな感情のスコア上昇という形で表れたと考えるのが合理的だ。一方、政策を実際に変更した後の会見では、そういった問題が緩和されたことによる安堵が悲しみの感情スコアの低下につながったのではないか」と考察する。
<世界初、ビジネス化も>
研究会の代表を務める東京大学大学院工学系研究科の和泉潔教授(システム創成学専攻)は、「かつては我々が扱うデータはマクロ指標くらいだったが、AIの進歩によって、今では文字、画像、音声など分析に使えるデータの種類が爆発的に増えつつある。そういう意味ではいかにもAIらしい、非常に面白い研究だと思う」と評価した。
同教授によると、世界的にも経済・金融分野の要人の画像から表情スコアを計測する先行研究については聞いたことがなく、少なくともペーパー(学術論文)になったのは見た記憶がないと言う。
その上で、海外では各国中銀の会見のテキスト(文字)資料を基にAIを用いて指標化するビジネスも既に存在しており、今回の研究についてもビジネス化できる可能性は大いにある、との見方を示した。
<「文学」の読解から「感情」の解読へ>
今回の共同研究は、大学院で研究室仲間だった水門氏と勇氏が、ともに勤務先とは独立して取り組んだものだが、水門氏の本職は、野村證券金融経済研究所のエコノミストだ。
「われわれエコノミスト、アナリストはこれまで、時に『日銀文学』とも呼ばれる、難解で独特な表現をどう読み解くかに奔走してきた。それがAIの進歩で感情を数値化できるようになり、表情から感情を読み取ろうという新たな段階を迎えた」と意義を語る。
水門氏は今後の展望について、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長や欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁についても解析してみたいと語る。既に運用会社から問い合わせが寄せられているという。
一方、日銀広報課は「個別の研究結果にコメントは行なっておらず、答える立場にない」と話している。