銀行員のための教科書

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収益不動産購入による相続対策~借入金そのものには節税効果なし~

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賃貸アパートの乱立、銀行のアパートローンの抑制等を報道等で目にします。

賃貸アパート建築、購入が相続税対策になるということはほとんどの方が認識されているでしょう。

しかし、具体的にはどのような効果があるのかをご存じの方は以外と少ないのではないでしょうか。

今回は相続対策を目的とした収益不動産購入についてみていきます。

収益不動産購入による相続対策とは

収益不動産購入による相続対策は、一言でいえば不動産の取引価格(時価)と相続税評価との違いに着目した対策のことです。

相続税は相続税評価額を基に計算されます。
現預金や有価証券(株式等)は時価で相続税の評価をされてしまいます。

しかしながら不動産の相続税評価額は国税庁の定める路線価(一般的には時価=公示価格の80%程度とされています)等により算定され、一般的に取引価格(時価)よりも低くなります。

また、不動産を他人に賃貸するとさらに相続税評価額が減額となります。

ちなみに目安ではありますが、賃貸不動産の場合は、土地の相続税評価額は時価の58~72%、建物の相続税評価額は時価の35~42%程度に減額されます。

タワーマンションによる節税

相続対策では時価と相続税評価額の差が大きいほど相続税評価額の圧縮効果が出ます。

よく言われていることですが、タワーマンションは上の階に行くほど売買金額が上昇します。ところが相続税評価額は高層階と低層階とは以前は変わりませんでしたし、これからもそこまでは変わりません。

よって、時価と相続税評価額の差がもっとも大きく出るだけでなく、売却しようとしたときに(人気があるため)買い手が付きやすいタワーマンションを節税に使うことが流行したのです。

このタワーマンション節税手法は、国税庁も問題視しており手当てがなされました。

しかしながら効果が少々薄れたとはいえ今でも有効です。

加えて、改定前に建設されたタワーマンションには効果が及びませんので、過去のタワーマンションは節税策として有効なままです。

(タワーマンション減税の記事)

http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLZO08745040U6A021C1EE8000/

相続税評価額の算出式

相続税評価額の算出式は以下となります。

土地の相続税評価額

土地の相続税評価額=路線価 × 補正率 × (1-借地権割合 × 借地家割合)

この(1-借地権割合 × 借地家割合)は不動産を賃貸することによる減価です。

上記計算式により概ね時価の58~72%以下に減額されるのです。

なお、この借地権割合は国税庁が概ね同一と認められる地域ごとに定めており、路線価図および評価倍率表の各路線または地域ごとに記載されています。

借地家割合は国税局長が定める割合とされています。

建物の相続税評価額

建物の相続税評価額=固定資産税評価額 × (1-借家割合)

固定資産税評価額は時価=公示価格の50~60%程度となります。

そのため建物は時価の35~42%以下に減額されるのです。

具体的な計算(シミュレーション)

2億円の不動産を購入する場合を例にとってみます。
<前提>
土地=時価1億2,000万円、建物=時価8,000万円を購入

土地を自分で使用している場合の相続税評価額は時価の80%と仮定

建物の固定資産税評価額は時価の60%と仮定

借地権割合=60%、借家権割合=30%、賃貸割合=100%

<相続税評価額シミュレーション>

1.現金で持っていた場合 
相続税評価額=2億円

2.土地建物購入後
土地(貸家建付地評価)=7,872万円
建物(貸家評価)=3,360万円
合計=11,232万円

1と2の差額=8,768万円の相続税評価額減となります。

<相続税シミュレーション>

手元資金(相続税評価額)が2億円のままだった場合は、2億円 × 40%-1,700万円=6,300万円となります。

これが、収益不動産を購入し11,232万円の相続税評価額まで減額されると、11,232万円 × 30%-700万円=2,670万円となり約3,500万円の減額となります。

現預金で持っているよりも相続税支払額は半額以下になるのです。

(国税庁ホームページ)

https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4155.htm

相続対策における借入金の効果

なお、相続税対策に収益不動産を購入する際に借金をすると減税効果があるの認識している方もいますが、手元の資金で収益不動産を購入しても、借金で不動産を購入しても相続税評価の圧縮効果は同じです。

借入金を活用して優位であるのは、借入金を使うことにより一定の手元資金を確保しておき、納税資金等に相続人が充当しやすくすること、および手元資金に加えて借入金を用いてより大きな物件を購入することで幅広い選択肢で物件を購入することができるためです。繰り返しになりますが、借入をしたからといって相続税は減額されません。

 

以上が簡単な収益不動産を使った相続対策の簡単な事例です。