近時、中国人の不動産投資家が日本の不動産を売り始めているというようなニュースがなされています。
中国人を含めた海外の不動産投資家は本当に日本の不動産を売却しているのでしょうか。
今回は外国人不動産投資家の動向について考察します。
中国人の日本における不動産投資に関する記事
最近、中国人の東京湾岸タワーマンションの大量売却が話題となり、中国人の日本国内の不動産の売却が始まったとのニュースが報道されています。
東京の不動産爆買いから5年・・・なぜ中国人投資家たちは「売却」に転じ始めたのか=中国報道- 記事詳細|Infoseekニュース
中国人が爆買いしたタワーマンション、来年一斉に売却し始める…バブル崩壊が日本を襲う | ビジネスジャーナル
上に挙げた報道の内容としては、中国人の不動産「爆買い」が始まったのは2012年ごろであり、日本では5年以上所有した不動産を売却すると「長期譲渡所得」として税率が低くなる(売却益の35%→21%)。不動産の爆買いから5年が経過したことで、中国人たちは不動産の売却に転じているようだ、というものです。
この局地的な動き自体は事実なのでしょう。
中国人オーナーで占められている東京湾岸のタワーマンションが次々と売りにだされているという報道は一部では事実と思われます。
しかし、局地的な出来事を日本全体に当てはめることができるのでしょうか。
不動産会社による調査
日本全体の動きについては、ジョーンズ ラング ラサール(以下JLL)が発表した2017年上半期(1~6月)の取引状況が参考になります。
同社の調査によると、日本の不動産マーケットに対する海外投資家による投資額は4,030億円となり、前年同期比で76%の増加となっています。
4~6月にはグリーンオークがGINZA SIXのオフィスフロアの一部を200億円超で取得、韓国のNH投資証券が品川シーサイドTSタワーを300億円超で取得するなど、1~3月に引き続き海外投資家による大型取引が見られています。
日本の不動産マーケットにおける海外不動産投資家の比率は上昇に転じているのです。
また、JLLによれば、2017年の上半期では、世界都市別に投資額をみると、ロンドンが3年ぶりに1位となり、東京の投資額は74億ドルで世界第5位となっています。東京は2017年第1四半期では世界3位となっていましたが、東京都心で投資機会が限定的な状況が続いていることから、上半期では順位を下げています。しかし、世界の都市では投資額5位であり、第1四半期のように投資機会があれば更に上の順位を目指せる可能性があります。
日本国内投資家の資金も合わせてということにはなりますが、東京は世界的にみても資金を集めているのです。
どの国の海外投資家が日本の不動産を購入しているのか
日本の不動産を購入しているのはどの国の投資家であるのかという統計的なものは恐らくないでしょう。
しかし、不動産私募ファンドの投資家における海外投資家の地域別比率は調査されているものがあります。
三井住友トラスト基礎研究所の私募ファンド運営会社へのアンケート調査によると私募ファンドに投資している投資家の割合は以下の通りです。
- 北米投資家 20%(2017年7月時点) < 27%(2012年1月時点)
- 欧州投資家 24%(2017年7月時点) = 24%(2012年1月時点)
- 中国(香港含む)投資家 17%(2017年7月時点) > 12%(2012年1月時点)
- 中国・中東以外のアジア投資家 28%(2017年7月時点) > 17%(2012年1月時点)
この調査で分かるように日本の不動産を購入しているのは中国、香港、中国・中東以外(=台湾・韓国等)の投資家と想定されるのです。むしろ北米投資家の割合の方が現象しています。
この調査はあくまで不動産私募ファンドの調査ではありますが、客観的なデータとして考慮には値するでしょう。
海外不動産投資家の動き(まとめ)
2017年上半期の調査で見る限り、海外投資家は日本から逃げ出している訳ではありません。
もちろん一概には言えませんが、投資機会があれば買ってくる可能性もあるのです。
日本の不動産の人気の理由は、市場の規模やリスクフリーレート(国債の利回り)と比較した不動産の収益性という観点もありますが、政治・経済の安定性もあるのです。
上述の三井住友トラスト基礎研究所が公表している不動産私募ファンド調査では、海外投資家が日本の不動産を購入する理由として、まさに政治・経済的安定性を挙げています。
グローバルなマーケットの中では、投資の利回りを確保することに苦戦している投資家は多く存在します。その投資家の中には、日本の不動産をまだ買う対象と考えているプレーヤーも多いのです。
海外不動産投資家の動きについては、一面の事象だけをとらえず、全体をみること、そして数字を重視することが重要な事例の一つなのかもしれません。