2017年9月8日の日経新聞には「銀行ATM 今やお荷物」という記事が掲載されました。
内容としては、コンビニや駅ナカなどに新規参入ATMが急増してきたことから、コスト削減のために自前のATM網を無くしたり縮小したりする銀行が増えていると伝えています。
果たして銀行のATMは本当にお荷物になっているのでしょうか。
今回は、銀行のATMについて考察します。
銀行のATMの状況
まずは銀行のATMの状況について全体像を把握します。
全国銀行協会が公表している決済統計年報から数字をみていきます。
この年報で確認できるのはオンライン提携(他行)取引のみであり自行のATM取引は記載されていませんが、ある程度の傾向はつかめます。
平成13年度
ATM設置台数=117,658台
ATM支払件数=404,574千件
ATM支払金額=90,084億円
平成28年度
ATM設置台数=109,445台
ATM支払件数=250,851千件
ATM支払金額=53,832億円
※上記数値はゆうちょ銀行は除く
出所=全国銀行協会HP
https://www.zenginkyo.or.jp/stats/year1-01/
ここで把握できるように銀行のATMを使った支払はかなり減少してきています。
これはセブン銀行(2001年=平成13年営業開始)をはじめコンビニ等ATMの普及に伴い個人が銀行ではなくコンビニでATMを利用するようになってきたためと想定されます。
ATMで手数料を徴収するのは時間外利用と振込です。支払件数が減少してきたということは銀行ATMの収益も減少しているものと推定されます。
なお、コンビニのATMの台数は約5万5千台となっています。すなわち日本全体ではATM は増加しています。
銀行の足元の動き
日経新聞の先ほどの記事によれば支店や周辺にセブン銀行のATMを置く地方銀行は約20行となっています。
訪日外国人が使う外国銀行カードの対応を求められるがATMのシステムを変えるのは費用がかさむため、外国銀行に対応しているセブン銀行のATMを置いている事例もあるようです。
また新生銀行は2017年6月下旬に大手銀行で初めて自前のATMをゼロにし、全てをセブン銀行のATMに置き換えました。
なお、メガバンクとりそなグループのATM台数は15年間で約10%、地銀は5%減少しています。
今後の銀行ATM
近年、キャッシュレスがキーワードとして出てきています。クレジットカードや電子マネー、フィンテック等の普及で現金が必要なくなっていくという予想がなされているのです。
筆者もキャッシュレス化の流れは続くと考えています。
しかし、足元の数字は冷静に見なければなりません。
以下の図は日本の金融資産を図表にしたものです。
出所=ガーべージニュース
http://www.garbagenews.net/archives/2067203.html
日本国内ではまだまだ現預金が幅をきかせているのです。現預金は増加傾向が続いています。
日銀は2008年に「タンス預金」など使わないまま滞留する一万円札が2007年平均で30兆円に上ると推計しています(日経新聞記事)。http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLASDZ21HGM_R20C17A2000000/
銀行はATMでの収益確保が難しくなってきた場合にはコストを削減したいところでしょう。一方で、日本はまだまだ現金主義の国であることは間違いありません。
そもそも、銀行業への参入障壁の一つは、現金を処理できる仕組み構築ではないでしょうか。
現金を預けたり、引き出したりするために物理的な拠点が必要だから顧客は銀行を利用するのです。そのために駅前の立地の良い銀行の店舗が必要であり、ATMも同様なのです。
特に地方銀行等地域金融機関が成り立つ要件は、この現金処理にあるのではないでしょうか。
もしキャッシュレス社会が完全に到来してしまうと一部の銀行のみがほとんどの預金を集める事態にもなってしまいかねません。
amazonが巨大化しているのに似ています。
そして、その巨大銀行は日本の金融機関でなくとも良い訳ですし、既存金融機関ではなく例えばECサイトを運営する会社の銀行の方がポイント還元等が可能な分、預金者にとってサービスは良いでしょう。
すなわち、銀行がATMを削減していくのは自分の首を絞めていることになるのではないかと考えます。完全なキャッシュレス時代が到来しないように(もしくは遅れるように)、ATM網をむしろ充実させておくのも一つの戦略かもしれません。
目先のコスト削減を狙いすぎると銀行にとっての参入障壁だったATMという強みを自ら捨ててしまうことになるということです。
目先のコスト削減はATMよりもむしろ店舗そのものの方ではないでしょうか。今後の銀行の戦略に注目しています。