退職給付会計や年金制度は銀行員にはあまりなじみのないものです。
しかし、退職給付会計は実質的には従業員からの借入といえます。企業の財務内容を今後評価していくならば退職給付会計面も勘案しなければなりません。
今回は、用語が似ていることもあり混乱しがちな退職給付会計と年金財政決算との違いについて記載します。
退職給付会計とは
退職給付会計については別途記事を記載していますので、そちらの記事にて退職給付会計については解説します。
www.financepensionrealestate.work
退職給付会計の目的は、退職給付制度(退職一時金もしくは確定給付企業年金)に関する当期の負担や将来給付に関する債務等について、企業の財務諸表に適切に表示することです。そして、退職給付制度の種類、退職給付制度の財政状況、将来の財務負担構造等を企業間で比較できるように表示し、投資家に開示することが会計制度が導入された理由です。
年金財政決算とは
年金財政決算とは以下の検証をいいます。
年金財政の健全な運営を図るため、年度間の財政状況の推移の把握・評価と当該年度末における給付債務と年金資産の把握を行い、年金財政が健全に推移しているか否か検証することをいう。決算期日は、厚生年金基金では3月末であるが、確定給付企業年金では任意に設定できる。
三菱UFJ信託銀行HPより引用
つまり年金制度の健全性を検証するために年金財政決算は実施されます。
退職給付会計は投資家への開示を前提としており、企業間の異なる退職給付制度を比較することに目的が置かれています。一方で、年金財政決算は、企業年金制度の受給者(従業員)の受給権保護を目的に行われます。
受給権の保護・将来の給付を確実にするためには、積立計画と運用計画を立て、この計画がうまくいっているかチェックを適宜していく必要があります。
年金の受給権保護が目的となりますから「想定される年金支払見込額=掛金の総額+払い込まれた掛金運用の収益額」となれば問題がありません。
年金財政決算はわかりにくいといわれますが、簡単にいえば上記の検証をするために実施しているだけなのです。
退職給付会計と年金財政決算の比較
企業は年金制度(確定給付制度)を維持するために、掛金を拠出します。企業が支払う資金はこれだけです。ただし、掛金というキャッシュの支払額がそのまま退職給付会計で退職給付費用として認められるわけではありません。退職給付費用は、企業間の比較を可能とするために様々な遅延認識等を行うためです。
退職給付会計も年金財政決算も、同じ年金制度について、企業会計と年金財政では異なった方法で債務を算出し、掛金及び費用を算出しています。異なった方法で費用を算出しているのは上述の通り、両者の目的が異なるからです。そのため、退職給付会計も年金財政決算も全く異なるもののように感じるものと思います。
ところが、同じ年金制度を、異なる目的で見ているにすぎませんので、最終的には掛金と退職給付費用各々の合計額は一致することになります。
この理由は簡単です。これも上述の通りですが、年金制度の開始から終了までに企業が年金制度に対して負担するのは給付額から運用収益を差し引いた額、すなわち掛金以外にはないからです。退職給付会計だろうと、企業が最終的に負担した掛金以上の額を費用として計上するのはむしろ企業の実態を表していないことになります。
退職給付会計と年金財政決算では将来に及ぶ企業の資金負担(キャッシュフロー)を各期に割り当てる作業方法が異なるだけなのです。
退職給付会計と年金財政決算を理解する上で重要なのは上記の考え方のみです。
そのうえで、退職給付会計と年金財政決算の比較を簡単にすると以下になります。
退職給付会計
- 目的:企業評価
- 費用:退職給付に対して当期に発生しているコストを算定
- 債務:過去分の退職給付支払義務分の現在価値
年金財政決算
- 目的:年金受給を維持するための資金繰りを検証
- 費用:今後の年金給付を行うために会社が拠出する掛金を算定
- 債務:数理債務のことであり、本来の年金積立目標額
以上、退職給付会計と年金財政決算についての根本的な違いがお分かりになったでしょうか。年金関連の制度は非常にわかりづらいイメージがありますが、根本の概念さえ押さえれば銀行員にとっては十分でしょう。皆さんもぜひ今回のポイントを押さえて取引先の年金制度について考えてみてほしいと思います。