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ヤフーによるジャパンネット銀行の連結子会社化は良い戦略

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ヤフーによるジャパンネット銀行の連結子会社化が2017年8月1日に発表されました。
今回はこの動きについて考察します。

発表内容

ヤフー株式会社が株式会社ジャパンネット銀行を連結子会社化すると発表しました。
ヤフーによるジャパンネット銀行の連結子会社化について|ジャパンネット銀行

ジャパンネット銀行はヤフーの持分法適用会社(出資比率41.16%)ですが、他主要株主である三井住友銀行の合意を得て、取締役の過半数を派遣することにより連結子会社化するとしています。

連結子会社化の目的

プレスリリースによると「ヤフーがジャパンネット銀行を連結子会社化することにより、Yahoo! JAPANが有する顧客基盤やビッグデータ他、メディア・コマース事業等の多様なリソースを活用することが可能となり、ジャパンネット銀行が持つ独自性や優位性をより際立たせ、更なる企業価値向上に資するとの結論に至ったもの」としています。

ジャパンネット銀行とは

ジャパンネット銀行は日本初のインターネット専業銀行として2000年に設立されました。主に決済サービスを提供してきた経緯があります。

現在の主な財務状況は以下の通りです。
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特徴としては、集まった預金を貸出だけでは運用できないため国債・社債等の有価証券で運用していることです。

ジャパンネット銀行の課題

同行の課題は集まった預金を主に有価証券で運用していることです。日銀のマイナス金利政策もあり有価証券運用は非常に難しい局面にあります。同行が収益安定化・向上を目指すためには、手数料収益を拡大すること、および貸出増加による金利収入の拡大が不可欠でしょう。

ジャパンネット銀行の戦略

同行では(課題と思われる)預金と貸出とのギャップを埋めるためにビジネスローンにも力を入れてきました。

2016年10月にはクラウド会計サービスのfreeeと提携し、日本初のクラウド会計ソフトデータを活用した融資を開始しています。
ビジネスローン(freee会員専用)|ビジネスでのご利用|ジャパンネット銀行

これはフィンテックの一つの形態でいわゆるバランスシート・レンディングといわれているものです。

クラウド会計のデータをジャパンネット銀行がfreeeより提供を受け、いつでも借入人の業況を把握できるようにすることで借入人の状況を把握することが可能です。

以前、メガバンク等が展開したスコアリング融資とはかなり異なります。スコアリング融資は決算書の提出を受け、定量化したスコアで融資審査を行いましたが、過去の経営成績でしかない決算書のデータのみでは上手くいかず不良債権の山を築くことになりました(決算書改竄等様々な他要因もあったとは思いますが)。

一方で、このクラウド会計サービスデータを活用した融資は、モノが実際にどの程度現状で売れているのか、資金の流れはどのようになっているのか等をリアルタイムに近い形で把握できるでしょう。データの質が旧来のスコアリング融資とはかなり異なるのです。

なお、本来はメガバンクや地銀もこのようなクラウド会計サービスと連携した融資には積極的に取り組むべきではないかと筆者は考えています。通常のバランスシート・レンディングはAmazonのようなECサイト運営会社が、自社サイトでの販売力等を分析し出店者の支援サービスの一貫として実施していることが多い状況です。既存の銀行がクラウド会計サービスを利用するのであれば、借入人の業況に関する情報格差をECサイト事業者との比較でもかなり埋めることができます。

ジャパンネット銀行にとってのヤフーの連結子会社入り

上記のようなクラウド会計サービスと連携したビジネスローン等にも力を入れてきたジャパンネット銀行ですが、もう一段の成長を図る上では三井住友銀行の傘下にいるメリットは少なくなってきているのが現状でしょう。

開業から年数も経ち三井住友銀行の信用力を後ろ楯とする必要も乏しくなってきたでしょうし、銀行システム開発等の協力も実際問題としては不要でしょう。三井住友銀行との協力では「前向きな事業拡大」が想定しづらい状況にあります。両行は資本関係にはありますが、業務はバッティングしているからです。

そのため、ジャパンネット銀行にとってみれば、ビジネスの拡大のためにはヤフーの連結子会社となった方が事業規模の拡大が狙えます。

ジャパンネット銀行とヤフーの最も相乗効果が狙える事業

ジャパンネット銀行とヤフーが狙える事業領域の最も有望な分野は、Yahoo!ショッピング等Yahooサービスを利用する事業者へのバランスシート・レンディングです。

現在もYahooへの出店者向けのビジネスローンをジャパンネット銀行は提供していますが、連結子会社でない場合には、ヤフー側もジャパンネット銀行に利用者のすべての情報を提供するのは難しいでしょう。

連結子会社とすれば、この問題がかなりクリアになり、さらに借入人の分析が行えるようになって対象者が拡大することが見込まれます。

競合との関係においては、ヤフーもAmazonレンディングに本格的に対抗していくといったところでしょう。

なお、Amazonレンディングについては以下の記事をご参照ください。

 

ヤフーにとってもジャパンネット銀行にとってもバランスシート・レンディング(ビジネスローン)の拡大は望ましい展開です。

出店者に金融面でもサポートを提供し他のECサイトとの差別化を図りたいヤフーと、運用難の環境下で貸出を拡大し業績の安定・拡大を図りたいジャパンネット銀行は、完全に利害が一致するのです。

まとめ

ヤフーによるジャパンネット銀行の連結子会社化は非常に相乗効果のある事業戦略です。

既存の銀行にとっても、今まではECサイト出店企業の代表者が個人でカードローン等で調達していた借入が、ジャパンネット銀行に取られる可能性はあります。

ただし、ヤフーのサイトに出店している企業は、基本的にかなり小規模な資金ニーズしかないものと想定されます。

ヤフー+ジャパンネット銀行のサービス拡大に向けた動きを今後も見守りたいとは思いますが、この協力関係だけでは既存銀行のビジネス領域を大きく侵食するまでは至らないのではないかと筆者は想定しています。

むしろfreeeとジャパンネット銀行との協業関係の方がかなりの将来性を秘めている(freeeを利用したまま企業規模を拡大する企業が現れていくと想定しているため)と考えていますので、既存の銀行は是非とも挑戦するべきではないでしょうか。