フォーブズのニュースサイトにAmazonの事業者向けローンが米英日で総額3,000億円超となっているとの記事がでていました。
アマゾンの事業者向けローン、米英日で総額3千億円超を融資 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
出典 フォーブズホームページ
今回はネット事業者の事業者向けローン(バランスシートレンディング)について考察します。
アマゾンレンディングとは
Amazonは日本では2014年から法人の販売事業者向けの融資サービスを展開しています。
<サービス概要>
Amazonマーケットプレイスに参加している法人事業者が対象
融資額は最大5,000万円
利率は8.9%~13.9%(年率)
期間は最大6ヶ月
ローン入金は初回が最短5営業日、2回目以降は最短3営業日
このローンの特長は販売事業者の売上が決済されるAmazonのアカウントから元利金が毎月自動引き落しされることです。これによりAmazonは返済を受けられないリスクをかなり排除できます。
昨年、Amazonは米英日で合計10億ドル以上を融資しています。これまでに貸し付けを行った事業者は合計2万社を超え、融資総額は30億ドル以上となっているようです。
上述の日本におけるサービスのように、借入金利もクレジットカード並みとなり、Amazonマーケットプレイスの事業者にとっては非常に使い勝手の良いサービスといえます。
バランスシート・レンディングとは
バランスシート・レンディングとは事業者が自らの資金で貸し付けを行うことです。
米国等ではマーケットプレイス・レンディングという個人等の資金運用ニーズと他者の借入ニーズをインターネットで結びつける(したがって事業者はリスクを負わない)サービスも拡大傾向にあります。このマーケットプレイス・レンディングと対比してバランスシート・レンディングと呼ばれています。
上述のAmazonレンディングもバランスシート・レンディングです。
バランスシート・レンディングの特徴
銀行等既存金融機関の融資サービスとバランスシート・レンディングを比較した場合の違いは、ITを活用し受付、審査、貸出実行までのプロセスを自動化することにより低コスト・短期間で融資を行う点です。
米国におけるバランスシート・レンディングの大手には OnDeckやKabbageがありますが、ビッグデータを活用し審査を行っています。今まで借りることが難しかった中小企業も借入ができる場合があります。
審査方法のイメージとしては、例えば、借り手がAmazonなどのECサイトで販売しているなら、そのサイトの取引状況をチェックしています。これは完全に取引を把握されるようなものです。銀行口座での資金異動をチェックするよりも借り手の実態把握が可能でしょう。
さらに中小企業はクラウド会計を使っていることが多いため、クラウド会計サービスを提供する企業とも提携し、借り手の様々なデータを入手し審査しています。
これは、以前、日本の銀行が取り組んで失敗した決算書だけをみて貸出を実行するスコアリング融資とは比べ物になりません。
バランスシート・レンディングの市場は拡大するか
バランスシート・レンディング市場自体はさらに拡大することは間違いありません。上記の通りビッグデータを活用すれば起業間もないような銀行が通常貸出をしない企業でも、ノンバンクからの借入条件よりも有利な融資を受けられる可能性がありますし、現時点では既存の銀行は手を出していない領域だからです。
特に大手銀行はカードローン等小口金融については個人に注力する一方で、中小企業向けの小口融資は審査にかかるコストが効率的ではない等、費用対効果の面から積極的に取り組んでいません。
よって、バランスシート・レンディングはある程度の市場規模拡大を図ることは可能でしょう。
ただし、日本においてはバランスシート・レンディングの専業者が既存の銀行を脅かすまでの規模になることはないでしょう。
理由は簡単です。日本では貸金業法によって上限金利が15~20%となっているからです。融資を狙える企業の貸し倒れリスクに比し、金利が確保できないのです。本当に優良な借り手は金利の安い既存の銀行から借入を受けてしまいます。既存の銀行がリスクを取れない、もしくは(時間的・コスト的制約により)事業を理解できない企業しか、バランスシート・レンディングを利用しないのです。
一方、先述の米国のバランスシート・レンディング企業の貸出金利は30%以上となっているようです。これだけ金利が確保できていれば貸し倒れリスクはカバーできているのでしょう。
日本におけるバランスシート・レンディングの今後
日本では貸出金利が低すぎてバランスシート・レンディング拡大の制約になることをのべました。
日本で拡大していくバランスシート・レンディングは、AmazonレンディングのようにECサイトの運営者が自社サイトの出店者に提供するサービスのひとつとして普及していく可能性が高いでしょう。この貸出ではそこまで収益を上げなくても良いのです。
Amazon以外にも、楽天が同様の取り組みをしています。このような取り組みはECサイトでの取引が拡大していく現状下、ある程度拡大するものと考えます。
ただし、上述のように金利に上限が設定されている現状では既存の銀行の脅威になるほどにはバランスシート・レンディングは拡大しないものと考えます。