リクルートグループがフィンテックを活用した中小企業向け融資に参入しました。
まずは「じゃらん」に参画している宿泊関連企業が対象とのことです。
今回はリクルートの融資業務参入について考察します。
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リクルートの融資業務参入とは
始めにリクルートグループの融資業務参入とは何かを確認するために、以下説明記事を引用します。
リクルートグループは8月末、フィンテックを活用した中小企業向け融資を開始する。貸金業への本格参入の検討に向け動きだしたのだ。
貸金業を行うのは昨夏に設立した子会社のリクルートファイナンスパートナーズ。まずはリクルートが運営する旅行予約サービス「じゃらんnet」に参画している宿泊施設運営企業の一部が貸し出し対象となる。最大の特徴は融資申し込みから審査、入金までがオンラインで完結することだ。リクルートでは、じゃらんを通じて各宿泊施設の予約状況などを把握している。こうした商取引データを持つ強みとフィンテックなどを活用することで、迅速な融資実行を目指す。
従来、中小企業は金融機関からの融資を受けにくく、融資実行までに時間がかかるケースが少なくない。宿泊施設のように繁忙期と閑散期の需要に波がある業界の場合、特に閑散期の資金繰りに問題を抱えやすい。
それ故、リクルートでは「銀行のような長期融資ではなく、少額で日々の資金ニーズを解決する融資を想定している」(リクルートホールディングス)という。
(週刊ダイヤモンドより記事引用)http://diamond.jp/articles/-/136882
リクルートの強み
宿泊サイト「じゃらん」を持つリクルートの強みは融資対象の宿泊施設における予約状況を確認できることとされています。
たしかにこれは強みでしょう。
銀行の場合は、資金管理を自行口座で独占できていればお金の流れは分かります。
一方でリクルートの場合は、事前に予約を把握することによって将来の時点でどの程度の資金が獲得されるのかが分かります。
銀行の口座情報は「キャッシュベース」「事後」、リクルートのネット予約状況は「キャッシュ予測」「事前」が特徴でしょう。
よってリクルートの持つ融資先の情報は銀行よりも時間軸が早いという点で優位性がある可能性があります。
リクルートの銀行に対する情報優位性は有用か
上記までのところではリクルートの銀行に対する優位性が感じられたでしょう。
ところが、ここで冷静になって考えておかなければならない問題があります。
今回のリクルートの融資業務の対象先は宿泊関連企業ということです。
宿泊施設はほとんど日銭商売といえます。
宿泊者からは少なくともチェックアウト時には代金の回収が出来るのです。
運転資金として必要なのは宿泊者がチェックインしてからチェックアウトまでの間に発生する飲食代、人件費等ぐらいでしょう。
通常、宿泊施設で相応の資金が必要なのは設備投資資金だけです。
上記の運転資金ぐらいも手元にないのであれば、当該宿泊施設はそもそも経営が苦しいというだけです。
今回のリクルートの融資業務は宿泊施設に繁閑の差があり、そこの資金需要を狙っていくということのようです。
ただし、このような資金ニーズはただの運転資金ニーズにすぎません。閑散期に運転資金ニーズが多額に発生するのであれば閑散期はコストを押さえるしかないのです。閑散期に運転資金ニーズがかなり発生するような宿泊関連企業は、そもそも融資の対象としては慎重に見る必要があります。
このような資金ニーズであればリクルートの銀行に対する個別企業についての情報優位性はかなり薄れます。事前に知ることができる優位な情報は「いつ運転資金が返ってきそうか」ぐらいでしょう。
よって、今回のリクルートの宿泊関連企業宛融資業務参入については、影響は限定的と考えます。
リクルートが優位性を持つ可能性
以上はリクルートの宿泊関連企業に対する運転資金融資について考察してきました。
おそらくリクルートの融資業務参入はこの業務限定であれば影響度は少ないでしょう。
しかしながらリクルートには銀行にはない情報があります。
その強みを最大に活かすのは個別企業を分析するのではなく、「じゃらん」の宿泊予約・単価情報を使った地域毎、セグメント毎の業界分析・予測です。
例えば、どの地域で宿泊客が伸び始めているのか、その宿泊施設のセグメントはどのようなものかが分かれば、その地域に新たなホテル誘致を行うこともできます。情報提供料を獲得した上で、開業時の融資を行うことも可能でしょう。また、同様の情報を踏まえて既存の宿泊施設に設備増強の提案・融資も可能になるでしょう。
銀行の情報は個社との取引がベースになっており、その地域全部をカバーするのみならず、全国との対比までができているかというとまだまだ未整備な面が多いと思います。
リクルートの保有する情報の強みは銀行よりも「地域全体かつ全国対比可能」「事前」「時系列での単価」情報です。これを十二分に活かせれば銀行にとってはある程度の脅威となる可能性があります。
銀行にとっては心配しすぎる必要は全くありませんが、油断することもしてはならないでしょう。