銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

今がクーポンスワップを取り組む時期では?

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近時、日米の金利差が徐々に拡大傾向にあり、ドル円も円安となることを想定している人も多いことから本日はクーポンスワップについて記載します。

クーポンスワップとは

 

クーポンスワップとは、クーポン=金利、スワップ=交換であり、異なる通貨の金利交換取引のことをいいます。

なお、スワップとはキャッシュフローの現在価値が等しいものの交換を表します。

円安が良いのか、円高が良いのか

日本は輸出企業が多いから、円安になった方が良いと考える人は多く存在します。マスコミも円安については肯定的に、円高については否定的に報道することが多いと感じます。

ただし、冷静に考えてみれば私たちの周りには輸入商品があふれています。服、スマホ、テレビ、ワイン、野菜・・・すべてがメード・イン・ジャパンではないはずです。私がこのブログを書くのに使っているスマホもBluetoothのキーボードも外国製です。

われわれにとってみれば円安は利用する消費財の価格を押し上げる可能性が高く、一消費者としては輸入されてくるモノの価格が安くなる円高の方が良い訳です。

一般社団法人 日本貿易会の「日本貿易の現状 2017」によると2016年の日本の輸出は70兆円、輸入は66兆円です。輸入は非常に大きな金額であることが分かります。

もちろん円安効果というものは企業が海外で製造販売して稼ぐ利益が円ベースで増加するというように他にもメリットは挙げられますが、それでも輸入額がこれだけ多いと単純に円安が良いとはいえないでしょう。

輸入企業にとっての為替

国内で営業している銀行員であれば輸入を業とする企業とお付き合いをすることは多々あります。

輸入企業にとっては円安は問題です。

日本の消費者はそう簡単にデフレマインドからは脱却していません。政府や日銀が何を言おうと消費者にとっては知ったことではないのです。

ですから輸入企業は少しでも有利な為替水準で貿易をしようとします。

為替を固定するために用いるのは為替予約が一般的ですが、クーポンスワップは現状よりも大きく円高水準で為替を固定できるために利用している企業も多いのです。

長期的な為替予約を行い、安いハンバーガーを提供したことで有名なのは日本マクドナルドです。

なお、クーポンスワップについては上場企業はほとんど利用していません。

理由は時価評価をしなければならないためです。

上場企業は為替、金利等で時価が上下し、それが決算に影響を与えるデリバティブ取引のようなものを避ける傾向にあります。この点には留意が必要です。

それではクーポンスワップとはどのような仕組みなのか以下でみていきます。

クーポンスワップの仕組み

クーポンスワップは概念さえ理解してしまえば分かりやすい商品です。

例をあげた方が分かりやすいので、以下事例を考えてみます。

 

<事例>
A社に1年50万ドル、2年間で合計100万ドルの輸入代金支払いがあるため、A社がB銀行から支払金額と同額のドルを調達したい場合

 

<前提>
金利 日本円1%、ドル5%
為替 1ドル100円

 

<クーポンスワップ組成例>

ドルの現在価値算出

1年後の50万ドルの現在価値=476,190ドル(※1)=47,619,048円

※1 現在価値の計算方法=50万ドル÷(1+0.05)
2年後の50万ドルの現在価値=453,515ドル(※2)=45,351,474円
※2 現在価値の計算方法=50万ドル÷{(1+0.05)×(1+0.05)}
2年で支払う100万ドルは現在価値に直すと929,705ドル=92,970,522円となることが分かります。

 

円の現在価値算出

上記1で算出した2年で支払う100万ドルの現在価値92,970,522円と同等になるような円払額は年間47,183,700円となります。
(以下は分かりやすいように円ベースの支払額をすでに計算したところから始めています)

<1年間で47,183,700円ずつ2年間支払う場合>
1年後の47,183,700円の現在価値=46,716,535円(※3)
※3 現在価値の計算方法=47,183,700円÷(1+0.01)
2年後の47,183,700円の現在価値=46,253,995円(※4)
※4 現在価値の計算方法=47,183,700円÷{(1+0.01)×(1+0.01)}

上記現在価値の合計額は92,970,529円となり、2年間で94,367,400円(=47,183,700円×2)支払った額の現在価値となっています。

 

調達レート

上記にあるように2年で支払う100万ドルの現在価値は92,970,522円であり、2年で支払う94,367,400円の現在価値も92,970,522円でした。
つまり100万ドルと94,367,400円は価値が等しいことになります。
クーポンスワップとは、この価値の等しいものを交換することです。この事例でいくと現在は1ドル100円の為替水準でありながら、1ドル約94円で2年間ドルが調達できることになります。
なお、上記説明は仕組みをかなり単純化したものですので、現実には銀行の手数料等を勘案する必要があります。

現在の環境

もう一度、現在価値の計算式を以下に記載します。

現在価値=将来価値÷{(1+金利R1)(1+金利R2)(1+金利R3)・・・}

この計算式から分かるように金利が高ければ高いほど現在価値は低く算出されます。

スワップは現在価値が等しいものの交換ですので、金利が高いものと低いものとを交換する場合、金利の低いものは現在価値が高く、金利の高いものは現在価値が低く算出されます。

日米の金利差が開いている現状では円高水準でのスワップ取引が可能となるということです。

法人の営業をなさっている銀行員にとってはお客様と為替水準の見通しやクーポンスワップについて会話する良い機会かもしれません。