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みずほは韓国向けの貸出が少し過大かもしれない~邦銀の韓国向け与信動向~

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邦銀の国際与信残高が過去2番目の水準まで戻ったと報道されています。

国内の低金利環境を背景に海外での貸出や証券投資に力を入れる邦銀が増えていることは事実です。

その中で、隣国である韓国向けの邦銀の貸出はどのようになっているのでしょうか。経済面では不調が続いており、何よりも我が国との関係は戦後最悪とされています。

そのような隣国に対して邦銀はどの程度の貸出を行っているのでしょう。

今回は2019年9月末基準における邦銀およびメガバンクの韓国向け与信について確認していきたいと思います。

 

邦銀の国際与信残高

邦銀の国際与信(貸出のみならず債券・株式投資等も含む)の動向については以下の通りとなっています。 

邦銀の国際与信残高、過去2位の高水準
2019/12/20 日経新聞

 日銀が20日に発表した国際決済銀行(BIS)の国際与信統計によると、9月末時点の邦銀の国際与信残高は4兆3718億ドル(約470兆円)だった。6月末から約750億ドル増加した。過去最高だった3月末(4兆3845億ドル)には及ばなかったが、歴代2番目の高水準となった。国内の低金利環境を背景に海外での貸し出しや証券投資に力を入れる邦銀が増えている。
 国別では高利回りの国債への投資が増えている米国向けや、経済成長が続くインドネシア向けの与信が増えた。国際与信は海外顧客への融資のほか、債券や株式など海外への証券投資を含む。

(以下略)

この日本銀行が発表するBIS国際与信統計の日本分集計結果には各国別の数値も集計されています。この数値の中から韓国向けについて焦点を当てましょう。

 

BIS国際与信統計

韓国向けに邦銀がどの程度の与信(リスクを供与)しているかを確認します。

以下の数値は「BIS国際与信統計の日本分集計結果」として日本銀行が集計したものです。2019年9月基準となります。

  • なお、「BIS国際与信統計」は、国際決済銀行(Bank for International Settlements、以下、BIS)が、世界の主要31か国・地域に本店を持つ銀行の国際的な与信状況をグローバル・ベースで取りまとめた四半期統計です。
 
<BIS国際与信統計(所在地ベース)>
  • 韓国向け 28,423百万米ドル(2019年3月末比▲1,444百万米ドル)
  • 全世界向け 3,531,553百万米ドル(同▲15,073百万米ドル)
韓国向け与信は全体の0.8%であり、邦銀の全世界向け与信に比較して韓国向けの割合は小さいと言えます。また全世界向けのわずか0.8%しかない韓国向け与信ですが、この半年間で大きく縮小していることが分かります。

「所在地ベース」とは、与信先の所在地により一律に国・地域別の分類をするものです。例えば、米国所在の日系企業に対する与信も、米国所在の米国企業に対する与信も全て「米国向け」とみなす考え方です。
対象とする取引の範囲には、(a)クロスボーダー与信(邦銀の国境を越える取引から生じる債権)、(b)海外における非現地通貨建て現地向け債権が含まれます。(日銀Website)

 <BIS国際与信統計(最終リスクベース)>

  • 韓国向け 53,986百万米ドル(2019年3月末比▲3,235百万米ドル)
  • 韓国向けのうち、クロスボーダー 31,289百万米ドル(同▲2,443百万米ドル)
  • 全世界向け 4,371,755百万米ドル(同▲12,719百万米ドル)

最終リスクベースでも、韓国向け与信は全体の1.2%であり、邦銀の全世界向け与信に比較して韓国向けの割合は小さいと言えます。また、全世界向けの減少割合を上回り、韓国向けの与信が半年間で大きく縮小したことが見て取れます。

「最終リスクベース」とは、与信先の所在地ではなく、「与信の最終的なリスクがどこに所在するのか」を基準に、国・地域別の分類を行います。具体的には、他行の海外店に対する与信は同行の本店が所在する国への与信とみなすほか、保証やクレジット・デリバティブ、担保等による信用リスクの移転を勘案します。この結果、例えば、英国金融機関のニューヨーク支店に対する与信は、「米国向け」ではなく「英国向け」と捉えます。また、米国所在の米国企業に対する与信に英国金融機関の保証が付されている場合は、「米国向け」ではなく、「英国向け」と捉えます。最終リスクベースの分類を行うことで、与信先の所在地に関わらず、実質的にみて、どの国にどれだけの与信を行っているのかを把握することができます。
対象とする取引の範囲には、上記「所在地ベース」で示した(a)、(b)の債権に加え、(c)の債権も含まれます。(日銀Website)

以上で分かる通り、邦銀全体では韓国向けの与信は日本円ベースで6兆円弱となります。全世界ベースでみれば割合は大きくはありません。なお、この半年で与信残高が大きく減少していることは注意すべきポイントかもしれません。

 

各行の貸出残高

次に国際展開が進んでいるメガバンクの韓国向け「貸出残高」を確認しましょう。いずれも2019年9月末時点となります。

  • MUFG 3,831億円(2019年3月末比▲424億円)
  • 海外貸出全体 418,639億円(米国持株会社、タイ・インドネシア現地銀行含む)の0.9%
  • 三井住友 2,288億円(同▲42億円)
  • 海外貸出全体 228,932億円の1.0%
  • みずほ6,322億円(同▲874億円)
  • 海外貸出全体262,178億円の2.4%
なお、上記は純粋な貸出残高です。
MUFGとSMFG(三井住友)は韓国経済が崩れても大きな影響は受けない水準と思われます。また、前述の「BIS国際与信統計の日本分集計結果」とのズレもありません。
一方、みずほは韓国向け貸出の残高が多く、貸出全体に対する比率も多いことから、他行よりは影響が多いというところが特徴でしょう。日本との関係が悪化していることに加え、韓国経済自体が変調を来していることから、この半年間で急激に韓国向けの貸出を回収している可能性はあります。
但し、みずほの純資産は2019年9月末時点でも91,940億円あり、韓国向け貸出が全て棄損したとしても致命的なことにはなりません(赤字にはなると思いますが)。 
尚、上記の数値は銀行としての貸出残高です。みずほは決算資料を分析していくと銀行以外の業態でも韓国向けに貸出を行っている可能性があることが分かります。その数値は以下になります(2019年9月末時点)。
  • みずほFGの韓国向け貸出残高 82.1億米ドル(8,867億円/1ドル108円換算)
  • 海外貸出全体 2,532億米ドル(273,456億円/1ドル108円換算)の3%

みずほの上記韓国向け貸出残高=約8,867億円は「2019年度中間期決算 会社説明会

https://www.mizuho-fg.co.jp/investors/ir/briefing/pdf/20191119_1.pdf」のP26の数値を使用しています。この貸出残高は海外現地法人を含むとなっています。

よって、みずほは銀行としての貸出残高を半年間で大幅に減少させてきましたが、グループとしてはまだまだ大きなリスクを取っていることになります。

 

韓国は世界のどの国から与信を受けているのか

邦銀の韓国に対する与信および貸出残高は大きすぎるほどではないということが分かりました。

では、世界でどの国が韓国に与信を供与しているのでしょうか。

こちらもBISのデータから確認しましょう。2019年6月末基準です。

(データ元 Consolidated positions on counterparties resident in Korea https://stats.bis.org/statx/srs/table/B4?c=KR&p=&f=pdf

  • 韓国全体での与信受け入れ  331,759百万ドル
  • 米国 83,167百万ドル、全体の25%
  • 英国 78,067百万ドル、全体の24%
  • 日本 44,357百万ドル、全体の13%

以上は韓国側が公表しているデータであり、日本銀行の集計結果とは少し異なりますが、韓国への与信は米国と英国が1位と2位となっており、日本は3位です。全体の13%であることから、韓国は日本に金融面で依存しているとまでは言えないでしょう。

 

まとめ

以上、見てきたように邦銀は韓国に対して大きな与信を行っているとまでは言えません。

また、メガバンクに限定すると、MUFGと三井住友は韓国向けに大きなリスクを取っているとは言えませんが、みずほが比較的大きなリスクを取っています。

現時点で把握できる数字を前提とすると、韓国の経済が何らかの形で混乱する、もしくは日本政府の方針で韓国向けの与信・貸出を回収する等の対応を迫られたとしても、邦銀へ致命的なダメージを与えることにはならないでしょう。

なお、足元では日韓関係の報道も少し落ち着いていますが、徴用工の問題等で日韓関係が再度悪化するならば、韓国に与信を行っていること自体がネット等で「国賊」と非難される可能性も銀行にはあるのではないでしょうか。

ことさらに「評判」「風評」を気にして経営を行う必要はありませんが、銀行はサービス業です。日本の報道は過熱しやすく、銀行は叩かれやすいことも勘案すれば、韓国向けの貸出・与信については慎重なコントロールが銀行経営者には求められるかもしれません。