銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

シェアハウス融資問題でスルガ銀行にこれから起きる法律のこと

f:id:naoto0211:20180528224318j:plain

スルガ銀行のシェアハウス向け貸出の問題は、連日のように報道がなされ、未だに納まっていません。

そして、直近では、スルガ銀行の行員が業者からキックバックをもらっていたことが報道されています。

このような一連の報道等を受け、スルガ銀行は破綻すると主張する方もインターネット上では現れています。

しかし、スルガ銀行が破たんするとしても、どのような要因で行き詰るのでしょうか。法律で裁かれるのでしょうか。

今回は、一連の問題がスルガ銀行もしくはスルガ銀行の行員に与える法的影響についてみていくことにしましょう。

 

行員の退職(検査忌避)

では、具体的にスルガ銀行にどのようなことが起こっていく可能性があるのか、法律の観点でみていきましょう。

まずは以下の記事をご確認ください。

金融庁がスルガ銀警告、経緯知る役職員解雇は検査忌避の可能性―日経

2018年5月12日 Bloomberg

シェアハウス融資問題を巡り、金融庁がスルガ銀行(本店・静岡県沼津市)に警告したと、12日付の日経新聞が報じた。問題の経緯を知る役職員の恣意的な解雇、退職が検査忌避になり得ると伝え、実態解明への協力を求めた。

日経によると金融庁の検査対象は現役職員が対象になるため、関係者の退職は実態解明を難しくさせるとして異例の警告に踏み切ったという。恣意的な責任者の退職などは銀行法で罰則対象となる検査忌避に当たる可能性があると伝達。悪質性が高い場合は刑事告発する構えだという。

同行がまとめた新たな社内調査の結果によると、販売業者が借り入れ希望者の年収や預貯金額を水増しして顧客が融資を受けやすくしたことについて「審査書類の改ざんを知りながら融資した」との回答があったと、11日の日経新聞電子版は先に報じていた。行員は書類改ざんに関わっていないとしてきた同行の説明と食い違う内容だが、スルガ銀広報担当は調査はまだまとまっておらず、報道には事実誤認があるのではないかと電話取材で語っている。

問題が起きた場合には、その当事者に責任を取らせることが通常です。最悪の場合は解雇もあるでしょう。

しかし、今回の場合は、真相究明のために当事者を退職させるな、と金融庁が指摘しているのです。

この記事にある検査忌避とはどのようなものでしょうか。以下で確認していきましょう。

銀行の公共性にかんがみ、預金者を保護し、金融の円滑を図るための監督法令が銀行法です。

銀行法は、銀行業務の健全・適切な運営を確保するために必要があると認めるときは、銀行への立入検査権を認めています。

この検査権限は、犯罪捜査権限のような強制力はありませんが、検査を拒み、妨げ又は忌避した銀行職員は1年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人としての銀行は2億円以下の罰金が科されます。

実際の法令は以下です。

銀行法
第六十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
(中略)
三 第二十五条第一項(第四十三条第三項において準用する場合を含む。)、第二十五条第二項、第五十二条の八第一項、第五十二条の十二第一項、第五十二条の三十二第一項若しくは第二項若しくは第五十二条の五十四第一項の規定による当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

第六十四条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
二 第六十二条の二(第二号を除く。)、第六十三条第一号から第四号まで、第七号、第八号若しくは第十号又は第六十三条の二第一号 二億円以下の罰金刑

(立入検査)

第二十五条 内閣総理大臣は、銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するため必要があると認めるときは、当該職員に銀行(当該銀行を所属銀行とする銀行代理業者を含む。)の営業所その他の施設に立ち入らせ、その業務若しくは財産の状況に関し質問させ、又は帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

これが、まずスルガ銀行に影響する可能性のある法的観点です。

 

行員個人の法的責任(私文書偽造ほう助)

報道のみならずスルガ銀行の調査でも、スルガ銀行の行員が預金通帳等の改ざんを認識していたとされています。

一部報道では、さらに改ざんを主導もしくは示唆していたとまでされています。

積極的に改ざんに関わっていれば言うまでもありませんが、書類の改ざんを黙認した融資実行であったとしても、スルガ銀行の従業員にとって、私文書偽造ほう助等の罪に問われる可能性があります。

具体的には、刑法159条2項の有印私文書変造罪、および刑法161条の偽造私文書等行使と、その共犯となるでしょう。

刑法(私文書偽造等)
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。

刑法(偽造私文書等行使)
第百六十一条 前二条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。

これが、 まず問題となるところです。

 

行員個人の法的責任(キックバック)

今回のスルガ銀行のシェアハウス融資問題では、スルガ銀行の行員がキックバックを業者から受け取っていたとの報道もされています。

このようなキックバック、リベートは法的にどのような問題があるのでしょうか。

 

会社に損害を与えるような形で取引先から金銭を受領していた場合、民事上だけでなく刑事上も違法となり、詐欺罪、背任罪、(業務上)横領罪等の成立の可能性があります。

まず、民事上の違法行為、すなわち会社に対する「不法行為」(民法709条)が成立するのは、会社に対する(法律上保護される)権利の侵害が認められることが必要です。

民法(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

つまり、金銭を会社ではない者(例えば従業員)が会社の取引先からリベートを受領することによって、会社の利益(得ることができた利益)を侵害するものである、という関係が必要になります。

よくある例として、会社の従業員が、取引先と話し合い、会社に対してあらかじめリベート分の金額を上乗せして請求させ、会社から取引先に支払われた分の金額の一部を、取引先から従業員が受け取る、という事例が存在します。リベートを支払う分、上乗せされた請求金額は、会社として本来支払う必要のないものであり「支払う必要のない金銭を会社に支払わせた」という理由で会社に対する権利侵害(不法行為)が認められることになります。

これはまさにスルガ銀行の行員が行っていたことに近いといえるでしょう。

本来であればスルガ銀行の従業員に渡されたお金は、販売業者から銀行にキックバックされるものだったかもしれません(銀行が業務として収受可能かどうかはともかく)。

また、スルガ銀行の従業員へのキックバック資金は、シェアハウスオーナーの物件取得代金に理屈上は上乗せされています。金額を不当につり上げて、スルガ銀行が価値のない物件に融資するように、従って損失の発生可能性が高まるように、従業員が働き掛けたともいえるかもしれません。

 

次に、刑事上はの論点です。

今回のスルガ銀行のケースにおいて、抵触する罪名としては、①詐欺罪(刑法246条)、②背任罪(刑法247条)、③業務上横領罪(刑法253条)が考えられるところでしょう。

まず考えられるのは、①詐欺罪です。

従業員自らが金銭を取得することを目的として取引先と協力し、会社が本来受け取るべき適正な金額を秘して受け取ること、取引先の利益のために会社を欺いて融資させた、という点で、取引先とスルガ銀行の従業員に詐欺罪の共同正犯(刑法60条)が成立する可能性があります。

また、上記の具体例において、キックバックを受け取るスルガ銀行の従業員が、融資の決定権限を有している者であった場合に、「他人のためにその事務を処理する者」が「その任務に背い」て会社に損害を与えたとして、②背任罪が成立する可能性があるでしょう。

なお、キックバックの受領に際して問題になり得る犯罪は、基本的には上記①詐欺罪か②背任罪と思われますが、例えば従業員個人ではなく銀行が受け取る予定で取引先から支払われたリベート(案件紹介の対価、ビジネスマッチングの手数料等)を、銀行の従業員が個人的に受け取った場合には、会社の金銭を預かる担当従業員が領得した、ということで③業務上横領罪の成立があり得るかもしれません。

いずれにしても、刑法に抵触する(犯罪になる)と評価できるためには、従業員個人がキックバックを受け取っただけでは足りず、キックバックを個人的に受け取ることで、会社に財産的な損害を与えたと評価された場合に上記各犯罪が成立し得るという関係にある、ということになります。

以下該当の法律条文を掲載しておきます。

刑法(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする

刑法(背任)
第247条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
 

 

スルガ銀行の法的問題   

前述の二つの項目では、スルガ銀行の従業員(行員)における法的責任を主に見てきました。

今回のスルガ銀行のシェアハウス融資問題では、銀行にも責任を問われる可能性もあるでしょう。

銀行業は規制業種です。お上の認可があってはじめて営業が出来るのです。

銀行は財務の健全性に懸念がある時には業務の一部または全部停止を命じられることがあります。

また、法令違反や公益を害したような最悪の場合は、免許取り消しも命じられる可能性があるのです。

業務停止は行政処分として事例が実際にあります。

過去には、住友銀行のデリバティブ販売やUFJの検査忌避がありました。

今回どのようになるかは、現段階では分かりません。

もし、組織的な関与が完全に確認されたら、何らかの業務停止があるかもしれません。

 銀行法(業務の停止等)
第二十六条 内閣総理大臣は、銀行の業務若しくは財産又は銀行及びその子会社等の財産の状況に照らして、当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するため必要があると認めるときは、当該銀行に対し、措置を講ずべき事項及び期限を示して、当該銀行の経営の健全性を確保するための改善計画の提出を求め、若しくは提出された改善計画の変更を命じ、又はその必要の限度において、期限を付して当該銀行の業務の全部若しくは一部の停止を命じ、若しくは当該銀行の財産の供託その他監督上必要な措置を命ずることができる。

(免許の取消し等)
第二十七条 内閣総理大臣は、銀行が法令、定款若しくは法令に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき又は公益を害する行為をしたときは、当該銀行に対し、その業務の全部若しくは一部の停止若しくは取締役、執行役、会計参与、監査役若しくは会計監査人の解任を命じ、又は第四条第一項の免許を取り消すことができる。

第二十八条 内閣総理大臣は、前二条の規定により、銀行に対し、その業務の全部又は一部の停止を命じた場合において、その整理の状況に照らして必要があると認めるときは、第四条第一項の免許を取り消すことができる。

 

まとめ

以上が筆者が想定するスルガ銀行およびその従業員に関連する法的責任です。

スルガ銀行という企業にはもっと罰は与えられないのか、と考える読者もいるかもしれません。

しかし、銀行の貸し手責任を問うのは非常に難しいのが現状です。

(銀行の貸し手責任については以下の記事をご参照下さい)

 

 今回のケースでも、スルガ銀行は無茶な融資をしているかもしれません。しかし、銀行が返ってくるはずのない融資をすると、損失が発生して自分の首を絞めることになります。

すなわち、スルガ銀行が自分の不利になるような行動を、組織をあげて実行するのは想定されていませんし、さすがにこれからも想定されないでしょう。

筆者としては、結局のところ、スルガ銀行という会社にはあまり法的な責任は問われない一方で、スルガ銀行の従業員の一部には法的責任が問われることになると考えています。

これが、想定される事態ではないでしょうか。