銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

【速報】結構やばいスルガ銀行~シェアハウス問題の内部調査結果等~

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スマートデイズ等シェアハウス業者に関係する融資問題で渦中にあるスルガ銀行が、自行が設置した危機管理委員会の調査結果等を発表しました。

内容は事前に報道されていたものがほとんどではありますが、今回新たに分かった事実もあります。

今回はスルガ銀行の発表内容について確認します。

発表内容

以下でスルガ銀行の発表文からポイントとなる部分を引用します。

このような会社の問題についての会社公表については、通常は新聞・テレビ等の報道で把握される方が多いと思います。

しかし、可能であるならば原文にあたるのが最良です。行間のニュアンス含めて多くの情報が直接得られるためです。

以下では、先にスルガ銀行の発表文を引用し、「→」以下で筆者がコメントをしています。

 

<スルガ銀行発表文/抜粋> 

タイトル:「シェアハウス関連融資問題」に関する経過のご報告と今後の対応について

 

1.シェアハウス関連融資の全体像
2018年3月末時点で、シェアハウス案件について当社から融資を受けておられるお客さま1,258名、融資残高は203,587百万円となっております。これは、スマートデイズ社に関わるものに限られません。

 

→スマートデイズ関連融資は1,000億円超、借主(オーナー)は700名程度とされていました。

シェアハウス関連融資が全て不良債権化することはないでしょうが、スルガ銀行は自行への投資家からの不信感を認識し、今回の公表に踏み切ったものと思われます。

この2,000億円の残高は、同行の純資産3,600億円の半分以上となります。

もちろん、不動産担保付融資ですので相応の保全は図られているでしょうが、シェアハウス関連融資でさらに問題を抱えた場合は、同行の経営が傾く可能性も捨てきれません。

 

2.お客さまへの対応状況について
2017年12月、シェアハウス案件のお客さま対応の一環として「お客さま対応チーム」を設置いたしました。同チームにて、お客さまからのお問合せや今後のご返済条件の見直しについての相談など、お客さまのご事情に応じて個別に対応しております。現在は同チームを増員し28名の体制としています。
同チームは、サブリース業者の破綻に伴い返済が困難になったお客さまに真摯かつ丁寧に対応するために、お一人お一人に対し、電話による来店誘致を行い、ご相談に応じており、同チームの活動により現時点で既に90%以上のお客さまとコンタクトができております。お客さまのご要望に沿った最善の解決策(金利の引下げや元金の据置等の条件変更)をご提案し、順次契約手続等を速やかに実施しております。
また、2018年2月には、封書によるアンケートを実施するなど、融資実態の把握に努めております。
現在もご返済に延滞が生じたとしても法的措置等の対応はとっておりません。

→当該項目のポイントは、シェアハウス案件の借入人(おそらくスマートデイズのオーナーに限らない)の90%に対して同行はコンタクトを既にとっています。

解決策は、金利の引き下げ・元金の据え置き(月々の返済額を金利相当分のみとする方策)等の条件策を提示、順次契約を締結しているとしています。

そして、借入金返済に延滞が生じたとしても法的措置等の対応はとっていないとしています。

同行の戦略は、社会問題化している現状を早急に沈静化することを優先しています。

元本の削減(≒借金の棒引き)には応じず自社の立場・資産等を守りながら、借入の回収期間を実質的に延ばすことによって借入人の反発を和らげているのです。

これはある意味では問題の先送りにすぎませんが、社会問題化している現状では有効な戦略といえるでしょう。

 

3.報道等により指摘されている事項について
危機管理委員会の調査や当社による顧客アンケート及び社員アンケートなどにより、融資を受けるに際してお客さまの自己資金の残高を証明する通帳等の偽造や改ざんが行われていたこと、より多額の融資を受けるために実際の売買契約書とは別に売買代金額を水増しした「銀行提出用」の売買契約書が作られていたこと(二重契約)などが判明しております。
また、これらの事実については、相当数の社員が認識していた可能性が認められております。
これらの点について、現時点で確定的な事実認定はできておりませんが、これらも含め、第三者委員会に徹底した調査を行っていただくことにしており、当社も全面的に協力する所存です。

→この項目における通帳・売買契約書の偽造・改ざん等については、従前から報道されていました。

ここでは、この事実について相当数の社員が認識していたことをスルガ銀行が初めて認めています。

筆者の深読みかもしれませんが、ここで相当数の社員が融資関連書類の偽造・改ざん等について認識していたことを公表しても、法人としての同行には致命的な責任が発生しないことを確信したがゆえに、認めているのではないかと思えます。

すなわち、法人であるスルガ銀行に対して、銀行としての貸し手責任は問われない可能性が高いと判断したのではないでしょうか。

 

4.現時点での問題認識と対応策
以下に、危機管理委員会の調査ならびに当社の社内調査などに基づく現時点での問題認識と実施している改善対応策を説明させていただきますが、今後、第三者委員会の調査結果や金融庁検査の結果等を踏まえ、改めて根本原因を特定した上で、抜本的な改善対応策を講じてまいります。

(1)営業及び審査の体制
(イ)現時点での問題認識
当社は、シェアハウス関連融資の営業推進にあたり、投資用不動産融資の一つとして不動産業者を窓口とした営業(チャネル営業)を活用してきましたが、土地売買価格の水増し(二重契約)や自己資金確認資料の偽造や改ざんといった不正が行われていたことが判明いたしました。これは、チャネル営業に依存した結果、不良チャネルに対するリスク認識が不十分となっていたものです。
また、前年比増収増益を継続しなくてはならないというプレッシャーから、事実上、営業が審査より優位に立ち、営業部門の幹部が審査部に圧力をかけるような状況も生じておりました。この結果、審査機能が十分に発揮できていなかった面があると認識しております。

→チャネル営業に依存し、不良チャネル(=改ざん等を働き、同行から融資を不正に引きだそうとする販売会社等)に対するリスク認識が不十分としていれば、自行は悪くなく被害者であると、他者に責任を押し付けることができます。この書きぶりには違和感はありません。

一方で、営業が審査より優位に立ち、営業部門の幹部が審査部に圧力をかける状況も発生していたと発表したことは驚きでした。

これは字面だけを読めば、もはや銀行ではありません。

同じことならば誰でもできます。何も考えずに貸出をしているようなものだからです。

このような状況を許した経営トップの責任は重いとされるでしょう。もちろん経営トップは退任を視野に入れているでしょうし、一部の営業幹部は責任をとっての退任となる道筋ができていると思われます。


(ロ)現時点での対応策
チャネル管理は、当社独自のシステムへの情報登録により行っており、かかる情報に基づいてチャネルとしての取扱いの可否を判断してまいりました。不動産担保ローンにおいて不動産の販売業者は融資先ではありませんが、今般の事案を受け、自社での調査能力を拡充させるなど質的な改良を加えつつ、外部調査機関も活用することによりさらなる厳正化を図ります。
また、審査機能を強化するとともに、営業部門内にも営業推進と業務管理の双方を統括する責任者を配置いたしました。各営業店においては、所属長が規程に則ったプロセス管理を厳正に行なうことで、初期の与信管理を徹底し、自律的統制機能を強化しております。

→この項目は当たり前のことを記載しているため、筆者からのコメントは控えます。

 

(2)コンプライアンス体制
(イ)現時点での問題認識
①自己資金の確認について
当社においては、自己資金確認資料(通帳等)については、原本確認を行うべきこととなっていたにもかかわらず、その手続が省略され、また、インターネットバンキングについては、入出金明細の確認にあたりWeb 上の画面を印刷したものの確認に止まっていた件も多く存在しました。
また、営業社員の中には、通帳などの自己資金確認資料やその他当社への提出される資料が偽造・改ざんされた可能性があるとの疑念を抱いていた者もいたことが確認されており、これらの事実については、相当数の社員が認識していた可能性が認められております。
融資実行時にお客さま自らが自署、押印した「自己資金確認書」を差し入れいただき、自己資金もご本人に明細を記入していただいていた営業店がございました。これは、通帳が発行されないインターネットバンキングに係る証憑での自己資金の確認が多くなったことや事務の繁忙のため通帳等の原本を確認することが徹底できなかったことから、原本確認を補完するものあるいは原本確認に代わるものとしてお客さまにお願いしていたものですが、結果として、本来の確認作業が疎かにされることになった可能性があります。

→これはスルガ銀行の非を認めたように感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ここで記載されていることは、貸し手としての同行の行内手続きが甘かったこと、そして「外部の不正」である(行員は見逃しただけ)という構図は崩していません。

銀行には極力責任が発生しないようにしています。

 
②土地売買契約締結について
お客さまと不動産業者との間で、土地売買契約締結に際して、正規の売買契約書とは別に、当社から過剰融資を引き出すための「銀行提出用の契約書」や「変更契約書(覚書)」などが締結されていたことが確認されています(二重契約)。
二重契約に対しては、銀行側としての対応策が十分にできておりませんでした。しかし、二重契約の存在については、相当数の社員が、その可能性を認識していたと考えられます。

→こちらも行員が積極的に関与したとは認めていませんので、銀行には極力責任が発生しないようになっています。

 

③フリーローン等の販売について
定期預金や積立定期預金は、将来的な修繕費用の備えとして、耐用年数を超える期間の融資を実行するために必要であると判断してご提案したものです。
しかし、フリーローンについてはそのような背景はなく、お客さまにお願いして契約していただいたものでした。特に、横浜東口支店では、営業担当者とチャネルが一体となりフリーローンを「融資の条件」とするセット販売が行われておりました。

→フリーローンの問題は、銀行の優越的地位の濫用事例です。

ただし、これを認めたとしても銀行にとっては致命的な問題(アパートローンの元本削減、ローン契約の錯誤無効等)にはならないでしょう。

あくまで不適切な事例であり、これを認めて、金融庁にお土産を持って行ってもらおうという戦略の一環の可能性もあるのではないでしょうか。(これは邪推が過ぎるかもしれません)

 

④全般的に、営業成績を重視した結果、目先の成績の追求に走りコンプライアンス意識が低下し、お客さま本位の業務運営が不十分になったものと認識しております。

(ロ)現時点での対応策
危機管理委員会からは「お客さま本位の業務運営」ができていなかったとの指摘を受けております。このため、コンプライアンスの再徹底はもとより、「お客さま本位の業務運営」を徹底、実践する態勢を構築してまいります。
また、自己資金の確認において通帳等の現物を確実に確認する仕組みを構築する等、厳正な融資審査が行われる態勢を強化してまいります。
また、従前は個人の営業実績にウエイトをかけた人事評価を行っておりました点につきましては、今年度より定性評価項目の割合を拡大させた人事評価を導入しております。

→このような問題が起きると人事評価制度を改定する企業が多く出てきます。しかし、本質的にはこのような問題への解決策は、経営トップが本当に「何で評価をするか」(建前ではなく本音)を変えるしかないように筆者は考えています。

社風を変えるしかないのです。

 

(3)経営管理体制
(イ)現時点での問題認識
当社は、金融環境が激変する中、いち早くリテールビジネス戦略を展開し、個人ローン営業に特化してまいりました。そのような中、意思決定の迅速化を図るため執行役員制度を採用し、経営と執行を分離することで、決裁権限の明確化を図りました。
しかしながら、シェアハウス関連融資については、それまでの資産形成ローンの一つとして捉えるのみであり、経営として全体的な規模感やビジネスリスクを把握しておらず、ガバナンス機能が不十分であったものと認識しております。
(ロ)現時点での対応策
会社全体のリスク管理態勢の適正化ならびに一層のガバナンス強化のため、取締役会、経営会議、執行会議の会議体の見直しを中心とした機構改革を行いました。従前は執行役員のみが参加していた執行会議に、取締役が出席することで取締役によるモニタリングを強化し、営業推進上や業務面で発生している各種課題等をいち早く把握し、審議することで、ガバナンス機能を厳格に行使できる体制としました。
また、お客さまからの苦情等のお申し出については、経営陣へ速やかに報告が上がる体制とするため、手続の見直しを行いました。

→これは一つの対応策でしかありませんので特段のコメントはありません。ただし、スルガ銀行としての判断スピードは遅くなることは間違いないでしょう。

 同行の強みは圧倒的なスピードとリスクを取る姿勢でした。

この強みがどうなるかには注目です。

 

5.ガバナンス態勢の再構築
6月28日の定時株主総会で選任いただくことが前提ではありますが、お客さまをはじめ、様々なステークホルダーの皆様の信頼を確保するに足る社外取締役と社外監査役を選任し、ガバナンス態勢の強化を図ってまいります。
また、社外取締役による監督機能を発揮、強化するために、社内取締役の選任に対する社外取締役の関与の制度化を検討しております。

→当該発表と同時に社外取締役・社外監査役の交代が発表されています。これは会社側からするとこのような書きぶりになるのかもしれませんが、実態上は社外取締役・社外監査役から「逃げられた」可能性もあります。


6.経営責任について
第三者委員会の調査結果及び金融庁の検査結果を待って、役員の経営責任については、厳しい対応をとる所存です。
それまでの間は、現経営陣で第三者委員会調査及び金融庁検査に全面的かつ真摯に対応してまいります。

→ここにあるように経営トップは責任を取るつもりだと思われます。

ただし、営業担当役員に全て責任を押し付けるというやり方もあるでしょうが。

 

以上の元の発表文は以下のリンク先をご参照。

https://www.surugabank.co.jp/surugabank/kojin/topics/pdf/180515_1.pdf

 

 所見

当該プレスリリースで目新しいことは、シェアハウス関連貸出が2,000億円あるということ程度かもしれません。

今回の発表文は、筆者としては、銀行に致命傷にならないよう守るところは守りながら、落ち度も認めた、かなり練り上げられた発表ではないかと考えています。

今後は、第三者委員会を設置しさらなる調査が行われること、および金融庁の検査が進行中であることから、さらなる動きもあるかもしれません。

しかし、本質的な貸し手責任を回避できる可能性は高いのでは、と考えます。

いずれにしろ今後の動向からはしばらく目が離せません。

 

(ご参考)危機管理委員会の調査概要

以下参考として危機管理委員会の調査概要について抜粋を掲載。

 

【問題として指摘した事項(例)】
1.顧客に販売する不動産価格が転売により吊り上げられていたと推測されること

スマートデイズによるシェアハウスビジネスの実際の構造は、オーナー(スルガ銀行の顧客である投資家)に対してシェアハウス建設用土地を販売するまでの転売過程において自ら(又はその関係会社)が中間の買受人となり、そのマージン(利ザヤ)を、他のシェアハウスの空室による保証賃料の逆ザヤに補てんしていたものと推察される。これは今から見れば「自転車操業」であるが、どの時点からそうであったかは不明ではある。
実際に、転売によりどの程度の利ザヤがスマートデイズに渡っていたかが検証できる客観的な証拠は存在しないが、顧客は、元の不動産所有者から直接不動産を購入した場合に比べて、相当に割高な価格で不動産を購入した可能性がある。
顧客がこのような高値を妥当と判断した大きな要因として、スルガ銀行において行われる不動産評価の結果を聞かされ、また、かかる評価に基づく不動産売買代金額にスルガ銀行も9 割までは融資を付けるということを聞かされることにより、自らの購入価格については、スルガ銀行からの「お墨付き」が与えられている、と理解したことがあったと推測される。
スルガ銀行としても、自らが販売業者に伝えた再評価の結果がそのように利用されていることは、想像可能であったはずで、スルガ銀行としては何ら関知しないことであった、といった弁解は、容易に成り立つものとはいえない。

2.自己資金の残高を証明する通帳の偽造・改ざんなど
(1)通帳の偽造・改ざん
スマートデイズの関連の販売会社により、融資を受けるに際して顧客がスルガ銀行に提出する自己資金の残高を証明する通帳等の偽造・改ざんが相当数行われていた。
スルガ銀行においては、自己資金確認資料(通帳等)については、原本確認を行うべきこととなっていたにかかわらずその手続が省略され、また、インターネットバンキングについては、入出金明細の確認にあたりWeb 上の画面を印刷したものの確認に止まっているものも多く存在した。
横浜東口支店では、融資実行時に顧客自身が自署、押印した「自己資金確認書」に自己資金額の明細の記入を求めていた。これは、通帳が発行されないインターネットバンキングに係る証憑での自己資金の確認が多くなったことや事務の繁忙のため通帳等の原本を確認することが徹底できなかったことから、原本確認を補完するものあるいは原本確認に代わるものとしての運用であったが、結果として、本来の確認作業が疎かにされることになっていた。
(2)二重契約
スマートデイズの関連の販売会社と顧客により、本来受けることのできる金額より多額の融資を受けるために、実際の売買契約書とは別に売買代金額を水増しした「銀行提出用」の売買契約書が作られていた事案(二重契約)も相当数存在する。
その手口は、①~⑤のようなものであった。なお、手口を分かりやすく示すために、単純化したモデルケースを用いて説明する。

① 販売業者と顧客との間で、スルガ銀行に提出される売買契約書(「銀行用」)と販売
業者と顧客との間の実際の売買契約(「実際」)という二種類の契約を締結する。スルガ銀行に提出されるのは「銀行用」の契約書である。顧客と販売業者間の「実際」の契約は、「銀行用」の契約に対する「変更契約」の締結という形や、別途の売買契約の締結という形が取られた。「実際」の契約と「銀行用」の契約は同日付けか、若干日付をずらしている。

【実際】      【銀行用】
売買価格 8500 万円  売買価格 1 億円
土地分 5000 万円   土地分 6500 万円
建物分 3500 万円   建物分 3500 万円
自己資金 なし      自己資金 1500 万円
② スルガ銀行は、「銀行用」の契約書に基づき8500 万円の融資を決定する。
③ 顧客はスルガ銀行に対して自己資金1500 万円の存在を示す必要があるが、その自己資金がない場合には、(a)(b)といった手口により自己資金の偽装が行われた。
(a)販売業者が顧客から預金通帳等を預かり、残高が1500 万円あるかのように偽造してスルガ銀行に示す(通帳偽造等)。
(b)販売業者がそれを一時的に立て替え(融資実行の前日までに顧客のスルガ銀行の口座に顧客名義で1500 万円を振り込み)、あたかも自己資金が存在するかのような外観を作出する(見せ金)。
④ スルガ銀行は、8500 万円の融資を実行する。この結果、顧客は自己資金なしに8500万円の資金を得ることができる。
⑤ 融資実行後、顧客は融資を受けた8500 万円を売買代金等として販売業者に支払う
とともに、((b)の場合は)立て替えられた1500 万円を返金する(実際には、まず土地代金と諸経費が支払われ、建物の工事に進捗にしたがって建物代金が分割して支払われる)。
この手口では、土地売買契約締結に際して顧客と販売業者の間で変更契約書等が作成されていて、実際は(スルガ銀行の融資を引き出すための「銀行用」の契約書の販売価格から自己資金相当額を差し引いた金額で)安く売買がされているという実態がある(変更契約書等そのものはスルガ銀行は持っていないが、顧客面談で顧客から提示されたものが複数存在する。)。
スルガ銀行が自己資金を1 割求めていることは顧客も理解していたところであり、変更契約は顧客自らが締結しているものであるから、この手口は顧客も認識のうえで行われていたものと考えられる。
(3)行員の認識
上記のような販売業者(と顧客の共同作業)による手口についてスルガ銀行側が認識していない場合、スルガ銀行はいわば騙された側にあり、被害者であるということになる。
逆にもし、スルガ銀行側が認識していた場合は、スルガ銀行は自己資金1割という内部基準に違反した不適切な融資を行っていたことになる。
この点、スルガ銀行の営業担当者が、二重契約や自己資金の偽装について明確に認識していたことを直接示す物的証拠はなく、当委員会のヒアリングに対しては、二重契約の存在について全員が認識を否定している(ただし、後述の1 名を除く)。
他方、横浜東口支店の営業担当者はみな「かぼちゃの馬車」のシェアハウス案件に融資を行っているという認識をもっており、「かぼちゃの馬車」が「自己資金ゼロ」という宣伝を行っていた事実を知らなかったとは考えられない。さらに、複数の営業担当者は、顧客
が提示した自己資金額について、その年齢、収入等を踏まえると不自然さを感じた案件も
あった旨を述べている。したがって、自己資金の存在について、「何らかのトリックが行われているのではないか」という認識はあったと考えるのが自然であるが、現実的には「客観的な証拠資料」が提示されているため、その疑いをさらに追及していくという対応は採られなかった。
この点については、次の営業担当者の供述が最大公約数的な認識を示しているものと思
われる。
「(かぼちゃの馬車の件について)自己資金ゼロで、という宣伝がなされていることは知っている。当社の自己資金1 割という方針とは合わない。客がどのように得心しているかについては、スルガ銀行のほぼ全社員は、客の提出した売買契約書、自己資金確認書があるので、業者が何かやっているとしても「それはそれ、これはこれ」と思ってしまっている所があると思う。ある種の割り切りである。スルガ銀行の社員は、客との間で、売買金額がいくら、スルガは(販売価格の)90 パーセント(までの融資)なので融資額はいくらですね、はい、というやり取りをして、売買契約書に割り印がされ印紙が貼付された原本を受領すれば、それ以上つっこんでいない。」

なお、1 名の営業担当者については、かぼちゃの馬車の販売会社の1 つから、複数の案件について「銀行用」と「実際」の2 通りの試算を記載したファイルをメールで受領していたこと、その後、実際にそれらのファイルで「銀行用」と記載されていた金額での契約書が顧客から提出されて融資が実行されたことが確認されている。したがって、この営業担当者については、二重契約と自己資金の偽装についての認識があったものと認められる(当該営業担当者は、当委員会のヒアリングにおいて当該ファイルについては「記憶にない」と述べているが信用できない)。

当該営業担当者から他の営業担当者にこれらのファイルが転送されたことを示す直接の証拠はない。しかし、二重契約や自己資金の偽装が行われている事実が口頭で他の営業担当者に伝えられていたり、(漠然とした形であれ)認識共有されていた可能性も否定できない。
以上より、相当数の行員が、自己資金の偽装の可能性について認識していたと考えられる。

3.フリーローンのセット販売
横浜東口支店では、支店長のイニシアチブで、営業担当者とチャネルが一体となりフリーローンを「融資の条件」とするセット販売が行われていた。


【今回の事態を招いた原因として考えられる事項】
1.いわゆるチャネル営業の問題点
スルガ銀行は、シェアハウス案件に対する融資に当たって「チャネル営業」という手法(スマートデイズやその関連の販売会社といった「チャネル」が個人投資家を紹介する手法)を活用してきた。チャネルは、スルガ銀行にとって(一見すると)便利な存在であった。
しかし、その実態は、チャネルが不動産の価格を転売等により吊り上げる一方で、二重契約によってスルガ銀行から過大な融資を引き出させ、加えて、顧客の自己資金の偽装によって、スルガ銀行には回収リスクの高い債権を掴ませるというものであった。
このような不良チャネルの危険性を認識せず、チャネルとの一体営業にのめり込んでいったリスク意識の欠如が、今回の事態を招いた直接的な原因である。

2.内部統制の不全(審査機能の不全)
融資審査は、銀行における本質的な機能であり、審査部が営業と対等な権限を有し営業
を牽制することで、融資の健全性を維持するべきものである。
スルガ銀行においては組織規程上、営業が審査部に優位に立っているわけではない。しかし、前年比増収増益を継続しなくてはならないという全社的なプレッシャーから、事実上、営業が審査部より優位に立ち、営業部門の幹部が融資の実行に難色を示す審査部担当者を恫喝するなど、圧力をかけることも行われ、これに対して審査部門が抗し難いという状況が生じていた。
この結果、シェアハウス案件については、銀行業務の健全性を保つうえでひとつの要となるべき審査機能が十分に発揮できない状況が生じていた。

3.ビジネスリスク分析の不在
新規ビジネス(本件では新築シェアハウス投資に対する融資)を開始するに当たっては、そのリスクを事前に評価して開始の可否を決定するとともに、リスク管理の方針を決める必要がある。また、当該ビジネスを開始した後のモニタリングの継続も不可欠である。
しかし、スルガ銀行では、シェアハウス案件はアパートローンの延長としてしか捉えられず、新規ビジネスとしての事前のリスク評価はなされなかった。また、シェアハウス案件への融資を開始した後も、(シェアハウスへの入居率がビジネスの成否の重要なポイントであるにもかかわらず)入居率の確認等は業者からの申告任せにしていた。
このようなリスク認識の不全および管理対応の不在が融資の増大を招いてしまった。

4.営業優位の風土によるコンプライアンス不在
営業現場では融資実行残高至上主義が当然のこととされていた。営業現場では自らがリスクオーナーとしてコンプライアンスを実践する主体であるという意識は失われていた。審査もまた、営業優位という状況下、牽制機能を十分に発揮できていなかった。
コンプライアンス部門についても、独立した立場で現場を牽制する機能を果たせていなかった。
内部監査部門についても、シェアハウス案件のリスクに着目したリスクベースの監査を行っていなかった。
このようにシェアハウス案件についてはスルガ銀行では「3 つのディフェンスライン」は機能不全状態にあった。

5.リスク情報に対する感度の鈍さ
スルガ銀行にはチャネルの問題性を指摘する外部からの情報提供が何度かなされていたが、その時点での十分な対応がとられなかった。

6.ガバナンスの不全
2017 年2 月まで、取締役会、経営会議などで、スマートデイズ関連融資について議論がなされることはなかった。
経営陣は、シェアハウス関連融資の全体的な規模感を把握しておらず、この問題に対するスルガ銀行としてのガバナンスは機能していなかった。

7.顧客本位の業務運営(コンダクトリスク)に対する意識の欠如
銀行は、社会の金融インフラを担う公共的な存在であり、貸金業者やノンバンク等と異ななる厳しい規制の下にある。しかも、銀行は、既存の法令等のルールを守るという狭義のコンプライアンスを実践しているだけでは不十分で、「顧客本位の業務運営」という社会的要請に応えられない不適切な行為は、社会的公正の観点から厳しい評価を受け、大きなリスク(コンダクトリスク)となる。
スマートデイズのシェアハウス案件において、スルガ銀行は不良チャネルに欺かれて不良債権を掴まされた被害者という側面も有している。
しかし、本件を銀行の社会的責任の観点からマクロ的に見ると、スルガ銀行側にも大きな問題があった。スルガ銀行が、「高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図る」(「顧客本位の業務運営に関する原則」の【原則2.】)という姿勢で臨んでいれば、スマートデイズのシェアハウスビジネスの問題性を早期に把握できたはずであり、このビジネスから早々に手を引き、多くの顧客を巻き込み、自らも痛手を被るという事態に陥らずに済む可能性もあったと思われる。しかし、スルガ銀行では、営業部門がスマートデイズと一体になって融資にのめり込み、しかもそれに対する牽制は十分になされず、事態が深刻化していった。
このようなコンダクトリスクに対する意識の欠如、つまり「顧客本位の業務運営」の意識の欠如が本件の根本原因のひとつであると考えられる。

以 上