銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行が平日も休むようになるという近い未来

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(写真と本文は関係ありません)

 

銀行の休日規制が緩和される方向となりました。

このニュースは銀行の単なる休日の話ではありますが、銀行のビジネスモデルを考えるきっかけともなります。

今回はこの銀行の休日規制緩和について考察します。

 

金融庁の発表

銀行の休日緩和について監督官庁である金融庁は以下のように発表しています、

平成30年5月9日 

金 融 庁

金融を取り巻く環境変化に対応した規制の見直しについて

平成 29 事務年度金融行政方針では、「銀行代理業制度や店舗制度の課題の検討等、フィンテック時代に対応した制度の点検・見直しを行う。」としているところ、関係者から寄せられた規制緩和要望等を踏まえ、以下の対応を行うこととし、関係法令等について、パブリック・コメント手続を行った上で所要の改正を行う。

1.店舗の休日規定の見直しについて

【現状】 銀行の休日は、法令により土曜、日曜、祝日、12 月 31 日から1 月 3 日までとされている。ただし、当座預金業務を営まない店舗に限り、設置場所の特殊事情等により休日としても顧客利便性を著しく損なうことがなければ、金融庁長官の承認を受けた日を休日とすることができる。

【対応】 当座預金業務を営む店舗(銀行代理業者の店舗を含む。)も、顧客利便性を著しく損なうことがなければ、休日の承認を受けられることとする(銀行法施行令、銀行法施行規則等の改正)。
例えば、顧客へ十分周知するなど顧客利便性を確保することにより、近接する2つの店舗について、片方を月曜、水曜、金曜に営業し、もう一方を火曜、木曜に営業するといった弾力的な運営も可能となる。

(以下略)

これが銀行の休日緩和について金融庁が発表した内容です。

 

報道

この発表を受け報道がなされています。
以下確認しておきます。

平日も「銀行休みOK」に…金融庁がルール改正 2018/05/09 ANNニュース

金融庁は銀行への来店客が年々、減っていることなどを背景に、店舗によっては平日も休みにできるよう銀行法の規制を緩和します。
これまで銀行の営業日は、明治23年に作られた銀行法のルールによって月曜から金曜までの平日は店舗を開くことが義務付けられていました。しかし、年々、銀行を訪れる人が減っていることや店舗を開くことによる人件費の負担が大きいことなどから、金融庁では顧客の利便性を著しく損なわないことを条件に今後は平日でも窓口を休みにすることを認める方針です。これにより、例えば隣接する2つの店舗で片方を月、水、金曜日に、もう片方を火曜日と木曜日に開くといった運営が可能になります。また、同時に複数の銀行による共同店舗についても、店舗を分ける壁が不要であることや、どちらかの職員が他の銀行の業務を兼務できるなど監督指針を明確化します。一連のルール改正について、金融庁では夏ごろにも実施したい考えです。

 

この夏から…銀行、平日も店舗休業が可能に 2018/05/09 日テレニュース24 

平日でも休む銀行が増えるかもしれない。金融庁は銀行が平日でも店舗を休業できるようこの夏から規制を緩和することを決めた。
銀行は、明治以来、法律によって原則、平日に休業することができなかったが、金融庁は、許可を得れば平日でも休業できるよう、夏に制度改正する予定。
これは、地方で利用者の減少によって銀行の経営状況が厳しくなっていることなどを受けたもの。
利用者がひどく不便にならないよう、店舗ごとに休業する曜日を分散させるなど、工夫を促す。

以上が今回の報道となります。
では、さらに詳しく銀行の休日についてみていくことにしましょう。

 

銀行の休日に関する法規制

なぜ銀行は土日・祝日に店舗を開けていないことが多いのでしょうか。

利用者・預金者からみた最も重要な問いはここにあるはずです。銀行が平日に休めるように規制が緩和されることよりは重要です。

先ほどの金融庁発表および報道に述べられている通り、銀行の休日は法律で規制されています。

銀行は休日が法令で定められている数少ない業態なのです。

まずは銀行法の該当条文を確認しましょう。

 

<銀行法>
(休日及び営業時間)
第一五条 銀行の休日は、日曜日その他政令で定める日に限る。
2 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。
(臨時休業等)
第一六条 銀行は、内閣府令で定める場合を除き、天災その他のやむを得ない理由によりその営業所において臨時にその業務の全部又は一部を休止するときは、直ちにその旨を、理由を付して内閣総理大臣に届け出るとともに、公告し、かつ、内閣府令で定めるところにより、当該営業所の店頭に掲示しなければならない。銀行が臨時にその業務の全部又は一部を休止した営業所又は代理店においてその業務の全部又は一部を再開するときも、同様とする。

 

このように銀行法では休日が決められていること、加えて勝手には休業できないと定められていることが分かります。

では銀行法15条1項を具体化した政令についても確認しましょう。

 

<銀行法施行規則>
(休日)
第五条 法第十五条第一項に規定する政令で定める日は、次に掲げる日とする。
一 国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日
二 十二月三十一日から翌年の一月三日までの日(前号に掲げる日を除く。)
三 土曜日

 

この施行規則では、銀行の休日は土日・祝日、12月31日~1月3日となっていることが分かります。

この法令のため、銀行は土日、祝日、年末年始に休んでいることが多いのです。

これが銀行の休日に関する基礎的なポイントです。

 

銀行は休日営業はできないのか

銀行の休日が法令上決まっていることは確認ができました。

しかし、銀行といえどもサービス業です。サービス業は、顧客利便性のため、休日にも店舗を開けているところが多いでしょう。

銀行は土日・祝日等に店舗を開けられないのでしょうか。

例えば、銀行の店舗で休日の住宅ローン相談会が開かれているのをご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

銀行法、銀行施行規則の該当する条項は誤解を招きやすいのですが、この法令は銀行の休日を定めたものとは「読まない」方が正確に理解ができます。すなわち、土日、祝日、年末年始以外は「銀行を開けておきなさい(休むな)」という法令なのです。

実際に、銀行が土日・祝日等に店舗を開けることを制限する法令はありません。

これは金融庁も資料において明言しています。2016年9月15日に発表された金融庁の資料にはその旨が明示されています。
内容は以下の通りです。

<コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方>

コメントNo.8に対する金融庁の考え方
「現行の法令において、金融機関が休日に営業を行うことは制限されておりません。各金融機関の判断により営業することができます。」
(リンク先にある別紙1のファイルが該当ファイル)
http://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20160915-1.html

以上の通り、銀行が休日に営業することを妨げる法令は存在しないことが分かります。

すなわち、銀行が休日に営業をしていないのは、銀行側の事情ということになります。

 

銀行の営業時間

なお、銀行の営業時間について不満を持っている方も多いでしょう。

一般の銀行は、平日の9~15時しか店舗を開けていません。

これでは会社員のように時間を拘束されている仕事に従事していると、なんとかして仕事の合間に抜け出していくしか銀行に行くしかありません。

本来であれば、平日の会社帰り、もしくは休日の買い物のついでに立ち寄り、用事を済ませたいところでしょう。

また、銀行で行う手続きは面倒で時間がかかるものが多いこと、そもそも窓口が混んでいて待たされることも業務の合間に行くことが難しい理由となります。

この銀行の営業時間は法令上で決まっているのでしょうか。なぜ銀行は平日9~15時の営業時間を拡大しないのでしょうか。

銀行の営業時間も実は法令上で決まっています。

先ほども触れた銀行法や銀行法施行規則に銀行の営業時間が定められています。

 

<銀行法>
(休日及び営業時間)
第一五条 
(第1項は略)
2 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。
<銀行法施行規則>
第十六条 銀行の営業時間は、午前九時から午後三時までとする。
2 前項の営業時間は、営業の都合により延長することができる。
3 銀行は、その営業所が次のいずれにも該当する場合(前項に該当する場合を除く。)は、当該営業所について営業時間の変更をすることができる。
一 当該営業所の所在地又は設置場所の特殊事情その他の事情により第一項に規定する営業時間とは異なる営業時間とする必要がある場合
二 当該営業所の顧客の利便を著しく損なわない場合
4 銀行は、前項の規定による営業時間の変更をするときは、次に掲げる事項を当該営業所の店頭に掲示しなければならない。
一 変更後の営業時間
二 前号の営業時間の実施期間(実施期間を設定する場合に限る。)
三 当該営業所の最寄りの営業所の名称、所在地及び電話番号その他の連絡先

 

この施行規則16条1項にあるように銀行の営業時間は(平日)9~15時です。

しかし、同じ施行規則16条2項には、銀行は「営業の都合により営業時間を延長することができ」るとされています。

すなわち、銀行は営業時間を深夜まで延長しても法令上は何ら問題はありません。

この法令は、営業時間の上限を定めているのではなく、営業時間の最低を定めているという方が正確でしょう。

ただし、2016年9月23日に銀行法施行規則が改正され、営業時間は短縮することも可能になりました。それが上記施行規則16条3項に記載されています。

銀行は「顧客の来店ニーズを踏まえ午前中を休業し、顧客ニーズの高い夕方までを営業時間とすること」や「曜日によって異なる営業時間とすること」等ができるようになりました。
これは一般顧客の利便性を考慮して法令改正が行われたものではありますが、裏を返せば銀行の営業時間を短縮することもできる法令改正でした。

いずれにしろ、銀行の営業時間が一般的には9時から15時なのも、銀行側の都合ということなのです。

 

今後の動向

今回の規制緩和で、商業施設に入る店舗が施設の営業日に合わせて店舗を開いたり、土日に営業する代わりに平日を休みにしたりすることができるようになります。

これは、業務を効率化したい地銀などがかねて要望していたものです。

また、同じ金融庁の発表には、複数の銀行が共同店舗を設けやすくなるように監督指針を改めることも記載されていました。

顧客情報を保護したうえで事務作業の兼務や窓口の一本化ができることになります。

分かりやすいイメージとしては、過疎地で複数の地銀が1カ所に店を構え、顧客の利便性と地銀のコスト削減を両立させるイメージでしょう。

既になされている営業時間規制の緩和に加え、今回の休日規制の緩和、共同店舗の解禁等、銀行の収益低下に伴い様々な規制が緩和されることになります。

一連の規制緩和は銀行のコストを削減するものであり、顧客の利便性を向上させるものには、あまりならないでしょう。

銀行としてはメガバンクが先鞭をつけ、店舗閉鎖、人員削減等を開始しています。

そのような中で、コストが増加する休日の店舗営業や営業時間の延長を銀行が行うかは微妙なところです。

そもそも上記でみてきたように、銀行は休日営業や営業時間の延長を独自の判断でやろうと思えばできるのです。それをやってこなかったということは、今後も簡単には実現させないでしょう。

銀行の店舗はキャッシュレス化が進展すれば更なる閉店に追い込まれていくことが想定されます。

「法令で決まっている日しか休めない」店舗は銀行にとって重荷でした。

しかし、そもそもキャッシュレス化の流れの中では支店の業務のかなりの部分が不要となる可能性があります。

また、投資信託の申し込みは店頭で頼むぐらいならネット証券で注文した方が個人にとっては簡単に行うことができます。

本当に銀行の店舗は必要でしょうか。

今後の銀行店舗は、コスト削減と顧客の利便性、社会インフラとしての役割等を勘案しながら、運営されていくことになります。

銀行の店舗が平日も休めるようになると、さらに銀行の利便性は低下します。

これは、更なるキャッシュレス化を招きます。

筆者はキャッシュレス化の流れは止まらないとは思いますが、今回、銀行の要望によって実現される店舗の休日規制緩和は、今までのスタイルで運営している銀行自身の首を更にしめることになるのかもしれません。

今回の規制緩和は、もしかしたら、日本のキャッシュレス化を加速した出来事と、将来的には認識されるものなのかもしれません。