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みずほと静岡銀との提携~地銀の「何でもあり」の提携合戦の幕開けか~

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みずほFGと静岡銀行(静銀)の提携が発表されました。

みずほと静銀が住宅ローンや資産承継・資産運用で役割分担をするというものです。

しかも静銀は、三菱東京UFJ銀行と親密な地銀です。

今回の記事では、このみずほと静銀の提携について考察します。

報道内容・プレスリリース内容 

まずは提携が正式発表される前の報道内容を確認しましょう。

みずほ、静岡銀と提携 個人向け、系列超えて分担
2018/03/20 日経新聞

 

みずほフィナンシャルグループ(FG)はメガ銀系列を超えた地銀との協業に乗り出す。第1弾として三菱UFJFGと親密な静岡銀行と個人・中小企業向け業務で幅広く提携する。みずほと静銀で住宅ローンや資産運用ビジネスを分担する方向だ。選択と集中で稼ぐ力の回復を目指す。マイナス金利政策で収益を稼ぎにくくなった邦銀の提携戦術が、相手先と内容の両面で新たな段階に入った。
みずほと静銀は提携の大筋合意を3月中にも発表する。関係当局へ非公式に報告したもよう。みずほ銀行が静岡県内の住宅ローンの新規契約を徐々に静銀へ回す。代わりに、静銀の顧客である経営者らの資産承継にまつわるビジネスをみずほ信託銀行が支援するという役割分担が柱だ。
ライバル行に比べた業績低迷を受けてみずほは2017年秋、国内拠点や従業員を減らす計画を公表。体制のスリム化に併せて業務を取捨選択するため、東北や九州などの地銀数行と協業を探ってきた。今回の静銀との提携が第1弾となる。
全国の地銀は3メガ銀のいずれかと歴史的に親しく、資本や人材の面で密接な関係を築く例が多い。静銀は旧三菱銀行(現三菱東京UFJ)による「火曜会」の一員だ。火曜会は系列の中でも結束が強く、系列外のメガ銀と連携するのは極めて異例。地銀の再編・提携が一段と活気づく契機にもなりそうだ。
日銀のマイナス金利政策で、銀行の収益源である利ざやは低下が続く。銀行融資の6割超が金利0%台だ。競合する銀行の数は過去5年間ほぼ変わっていない。銀行過剰が強まるなか、銀行が全国どの地域でも同じ商品やサービスを維持するのは非効率になっている。みずほと静銀は役割分担で無駄や経費を抑え、筋肉質な経営体質づくりを急ぐ。
今回の提携は地銀再編にも影響を及ぼしそうだ。国内しか基盤のない地銀は日銀のマイナス金利政策で利ざやが薄まり、収益力は徐々に低下している。地銀同士が持ち株会社をつくり再編する例が増えているが、メガバンクと相互補完関係を築くことで、活路を見いだそうとする地銀が増える可能性がある。

そして同日に以下の正式プレスリリースが発表されました。

みずほFGが公表した内容を以下掲載します。

静岡銀行と「地域におけるビジネス連携」を実施

株式会社みずほフィナンシャルグループ(執行役社長:佐藤 康博)は、株式会社 静岡銀行(頭取:柴田 久、以下「静岡銀行」)との間で、両社のお客さまに対し、最適なソリューションを提供することを目的に、地域におけるビジネス連携に取り組む方針を決定しましたので、概要についてお知らせします。

1.地域におけるビジネス連携について
以下の分野を中心に、静岡銀行とのビジネス連携を具体的に進め、お客さまの多様なニーズに対して最適なソリューションを提供します。

【主な対象分野(予定)】
①資産承継ビジネスにおける信託分野での連携(遺言信託など)
②個人・法人のお客さまに対する新しい商品やサービスの開発(投資信託など)
③事務効率化へ向けた連携
④住宅ローン業務における連携
⑤Fintech やデジタルイノベーション(*)に関する共同研究
(*)AI(人工知能)、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)など

2.背景・目的
当社では、2016 年度から 3 年間を計画期間とする中期経営計画『進化する“One MIZUHO”~総合金融コンサルティンググループを目指して~』を推進しています。 こうしたなか、静岡銀行との間で、静岡県を中心とする両社のお客さまに対して地域密着型の最適なソリューションを提供することを目的に、幅広い分野について協議を行っていく中で、連携効果が実現できる分野ごとに協力して取り組む方針を決定しました。

東海地域で強固な顧客基盤を有する静岡銀行と、全都道府県ネットワークと銀行・信託・証券によるソリューション提供力を有する〈みずほ〉が相互の強みを活かし、静岡県を中心とするリテールビジネス分野で両社がそれぞれのお客さまに対して、より付加価値の高い金融サービスの提供を図ります。
〈みずほ〉は、地域の経済・社会とともに成長することを目指し、銀行・信託・証券が一体となって地域が抱える課題に向き合い、地域のお客さまに最適なソリューションを提供していく為に、さまざまな金融機関や他業種との連携についても、引き続き積極的に検討していく方針です。

このみずほと地銀との提携は、みずほが地方で住宅ローン撤退を検討していることから始まっている可能性もあります。

こちらも以下報道を確認しておきます。

みずほ、地方で住宅ローン撤退を検討 東北や中国、九州で今年度にも 新規分のみ 2017/11/1 産経新聞

みずほフィナンシャルグループ(FG)が、東北や中国、九州といった一部の地方で新規の住宅ローン業務の撤退を検討していることが1日、分かった。早ければ平成29年度中にも原則、受け付けを取りやめる。地方での住宅ローン貸し出しを減らす一方、地元企業の海外進出の手助けを強化し、事業の選択と集中を進める考えだ。
住宅ローンを巡っては、日銀の大規模金融緩和による低金利環境が続き、各行の貸し出し利ざやは縮小している 三菱UFJ信託銀行も取りやめを検討しており、住宅ローン事業縮小の動きが広がる可能性がある。
撤退の対象となっている地方で新規の住宅ローンの申し込みがあった場合、連携する地元の地銀を紹介する。取り扱いを停止するのは新規ローンのみで、既存のローンは引き続きみずほに残す。
http://www.sankei.com/economy/news/171101/ecn1711010020-n1.html

今回のみずほの動きは上記の流れに沿った動きといえます。

静岡県の住宅ローン市場

みずほが静銀へ住宅ローンを紹介するのは、「住宅ローンが儲からないからだ」と読者はお考えになるでしょう。

しかし、マイナス金利なので足下では住宅ローンビジネスは厳しいのは事実ですが、金利が正常化に向かえば「おいしい」ビジネスになる可能性もあります。

一度、このような提携を発表してしまえば、みずほにとっては静岡県への「不可侵条約」を結んだようなものなのです。

よって、みずほにとってみれば、静岡県での住宅ローンの復活はほとんど無いということになります。

では、静岡県の住宅ローンマーケットは、そこまで「儲からない」マーケットなのでしょうか。

以下、静岡県の住宅ローンマーケットを推測する上での指標をみていきましょう。

住宅着工戸数

静岡県の平成29年の新築住宅着工戸数は23,377戸です。

他県でみると、愛知63,650戸、京都14,790戸、大阪68,963戸、兵庫34,903戸、宮城21,580戸、広島20,944戸、福岡42,557戸となっており、全国では相応の着工戸数といえます。

なお、東京は150,350戸、神奈川76,689戸、千葉52,568戸、埼玉59,617戸となっています。

出典 政府住宅着工統計 2017年(暦年)都道府県別戸数時系列

住宅地の平均価格

地方圏(三大都市圏を除く地域)の人口10万以上の市における住宅地の平均価格は以下の通りとなっています。

札幌市66,400円/㎡、仙台市91,400円/㎡、静岡市114,800円/㎡、岡山市54,600円/㎡、広島市96,100円/㎡、福岡市119, 200円/㎡となります。

また、三大都市圏は次の通りとなります。

さいたま市178,200円/㎡、東京都区部527,800円/㎡、千葉市105,300円/㎡、横浜市222.600円/㎡、京都市193,500円/㎡、大阪市241,000円/㎡、神戸市165,800円/㎡、名古屋市177,900円/㎡が平均価格です。

福岡市と静岡市は平均価格ではあまり変わりません。静岡市はマーケットとしては相応の規模があるのです。

出典 総務省統計局ホームページ 17C-Q04 住宅地の地価 平成29年都道府県地価調査
http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000046.html
http://www.mlit.go.jp/common/001208621.pdf
http://www.mlit.go.jp/common/001208608.pdf
http://www.mlit.go.jp/common/001208613.pdf
http://www.mlit.go.jp/common/001208617.pdf

これで見る限り、静岡県は住宅ローンマーケットとして決して魅力がない地域ではありません。地価も相応に高く、住宅の着工戸数も決して少なくはありません。

一方で、みずほ銀行は静岡県に4支店しかないのも事実です。

みずほ銀行の住宅ローンの県内シェアがどの程度かは分かりませんが、他行ひしめく静岡県ではシェアの確保も難しかったのではないでしょうか。

そして、静銀との提携により得られるであろう利益の方が良いと経営が判断したということなのでしょう、

みずほと静岡銀との提携内容

新聞報道では、「住宅ローンにおいて、みずほ銀行の店頭来店客の一部を静岡銀行(静銀)に紹介」「遺言信託など資産承継(みずほ信託が静銀の顧客の承継を支援)」「みずほの資産運用力を静銀に提供(投資信託等の個人向け新商品)」「フィンテック分野での共同研究」「間接部門など業務効率化」が連携業務とされています。

住宅ローンについては、みずほ銀行が静岡県内で静銀の銀行代理店となる可能性も存在します(もちろん紹介に留まる可能性もあります)。銀行代理店となった場合には、みずほ銀行が紹介フィーを貰うことになります。

フィーの水準は不明ですが住宅ローン実行額の0.3~ 1.0%程度を収受するのではないかと筆者は想定しています(例:モーゲージバンクのアルヒは代理店との間で手数料を折半とするとしています。手数料は2%程度のため、1%が代理店報酬となるものと思われます)。

その代わり、遺言信託等の資産承継ビジネスでは逆にみずほ信託が静銀から紹介を受けることになります。この遺言信託の信託代理店業務を静銀が行う可能性はありますが、信託代理店は行内管理が面倒であるため、代理店とはならない可能性の方が高いのではないでしょうか。

資産承継ビジネスは当初のフィー水準は低いですが、資産処分でみずほ信託が不動産仲を行うことができれば相応のビジネスとなる可能性があります。

筆者の感覚でしかありませんが、資産承継ビジネスでも信託分野については手数料水準が低いため、信託銀行や信託会社に任せた方が、一から業務を立ち上げるよりは銀行にとって良いかもしれません。

みずほにとって最も期待できるのは資産運用の分野かもしれません。

資産運用についても静銀向けに商品の提供を行うことになりますが、ある程度まとまった商品販売額を獲得できるのであれば、住宅ローンを撤退したとしても十分に採算が取れるのは間違いありません。

当然、静銀にとっても商品·サービスの品ぞろえが向上するのであれば、他行との差異化が図れますので、静銀にとってはメリットとなるでしょう。

 

なお、住宅ローンではMUFG傘下の三菱UFJ信託銀行も住宅ローンからの撤退を発表しています。同じフィナンシャルグループ内の再編ともいえますが、役割分担という観点では同様の事例です。

(参考記事)
新規住宅ローン取りやめ検討、来年4月から 三菱UFJ信託
産経新聞 2017. 10.30

三菱UFJ信託銀行が2018年4月から、住宅ローンの新規融資を取りやめる方向で検討していることが30日、分かった。資産運用や相続といった強みを持つ富裕層向けの業務に経営資源を振り向ける狙い。低金利の長期化や競争激化を受け、収益源をより収益が見込める手数料ビジネスへとシフトする。
4月以降は、同じグループの三菱東京UFJ銀行の住宅ローンに一本化し、三菱東京UFJの代理店として住宅ローンを取り扱う。既存の契約は引き続き三菱UFJ信託が管理する。
住宅ローンの融資残高は約1兆2千億円に上るが、メガバンクなどに比べ規模は大きくない。18年1月にも事前審査の受け付けをやめ、関連する約200人の人員は配置転換などを含め検討する。
親会社の三菱UFJフィナンシャル·グループは、23年度までの経営再構築策を掲げており、グループ各社は事業構造の見直しを急いでいる。
http://www.sankei.com/economy/news/171030/ecn1710300020-n1.html

 

(同行プレスリリース抜粋)
信託銀行は、個人のお客さま向け貸出業務において最適な体制を検討し、平成29年12月8日付「弊社住宅ローン商品の新規申込受付終了について」で、平成30年3月30日をもって、信託銀行が融資を実行する住宅ローン商品の新規申込受付を終了することを公表し、業務効率化と、資産運用や相続·資産承継、不動産といった、より信託銀行らしい商品·サービスの提供に注力できる体制の両立に取り組んでまいりました。
MUFGグループは、これらの取り組みを着実に進め、お客さまの多様化·高度化するニーズに対し、その期待を上回る価値を提供する体制の構築をめざすとともに、引き続きお客さまの住宅取得等に関わるお借り入れニーズにグループペースで幅広くお応えしていくため、商業銀行の住宅ローン事業プラットフォームをグループで共有化し、平成30年4月2日より、信託銀行が銀行代理業者として商業銀行の提供する専用住宅ローン商品を取り扱うことといたしました。
https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/180307_1.pdf

メガバンクと地銀との関係

メガバンクは、都市銀行時代に株式の持合も実施しながら、地銀と密接な関係を築いており、現在もその延長線にあります。

当時、都市銀行は、地銀に対して資金運用商品の提供や貸出でのリスク分散のための協調融資、ローンパーティシぺーション(貸出債権の売却)を行うことでメリットがありました。

地銀側も安定株主対策としての意味合いと、都銀による地元への進出の歯止めになるというメリットがあったのです。

このような相互メリットの中で都銀と地銀の親密化、系列化が図られていきました。

その中でも、静銀は、三菱東京UFJ銀行の火曜会のメンバーであり、「超」がつくはずの親密先です。

三菱東京UFJ銀行には「好日会(こうじつかい)」という情報交換会もありますが、火曜会の方が親密度は上です。

<火曜会メンバー(順不同、Wikipedia) >
足利銀行、常陽銀行、百五銀行、千葉銀行、八十二銀行、南都銀行、静岡銀行、山梨中央銀行

このメンバーである静銀が系列外であるみずほFGと、このような提携をするとはかなりの驚きといえるのではないでしょうか。
なお、三菱東京UFJ銀行は静銀の3.3%の上位株主でもあります。

所見

上述の通り、みずほと静銀の提携は双方にとって系列を超えたものであり銀行業界では驚きをもって受け止められているでしょう。

しかし、「親密」「系列」「○○会メンバー」といっても銀行の利益にならなければ何の意味もありません。

そして緩やかな連帯も大事ですが、地銀にとっては生き残るための連携策等が必要ということなのでしょう。

筆者からすると「あの静銀が」という感覚は持ちますが、県下に多数の自動車関連の取引先等を持ち海外での対応も迫られてきた静銀からすると、メガバンクとの効率化・役割分担等の提携は当然のことなのかもしれません。

地銀を取り巻く経営環境は、金融庁や日銀がいうまでもなく、非常に厳しいものです。

少なくとも、過去の親密先・系列等にこだわっていられないのです。

地銀は生き残りをかけて、コスト削減、新規取引開拓、新分野への進出等を行っていくでしょう。

今回のみずほと静銀の提携は、その一幕に過ぎないのです。

これからもメガバンクと地銀との提携のみならず、地銀と地銀、地銀とフィンテック企業等の提携は続くでしょう。