銀行員のための教科書

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G20での仮想通貨への規制強化議論はFSBに拒否されていないという事実

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2018年3月19日からG20がアルゼンチンで開催されます。

この会議では仮想通貨についての規制も議論されることになっています。

ところが、本日、FSB(金融安定理事会)が仮想通貨の規制議論を拒否したとタイトルのニュースが流れていました。

金融安定理事会:G20での仮想通貨規制の呼掛けを拒否・BTC大きく反発
http://coinpost.jp/?p=18385

筆者はこのような記事はニュアンスが正しければ問題ないとは思うのですが、本件はどちらかというと「正しくはない」記事ではないかと思います。

読者は、記事で触れているFSB議長からG20財務大臣と中央銀行総裁に送付された書簡の内容をきちんと確認した方が良いのではないかと考えます。

このようなニュースがある時は、時間が許す限り原典にあたることが大事なのです。

以下、この原典である書簡について仮想通貨に関する該当部分の全文を掲載します。

出典 FSBホームページ
http://www.fsb.org/2018/03/fsb-chairs-letter-to-g20-finance-ministers-and-central-bank-governors/

以下では、最初に(英語力がないのでお恥ずかしい限りですが)Google翻訳での和訳をそのまま掲載し、後で原文を掲載します。

Google翻訳による和訳

仮想通貨
加盟国の懸念に対応して、FSBは、暗号資産の急速な成長によってもたらされる財務安定性リスクの見直しを実施した。
FSBの最初の評価は、現在のところ、暗号資産が世界的な財政安定性にリスクをもたらすものではないということです。これは、金融システムに比べて小さいため、一部にあります。最近のピーク時でさえ、世界の市場価値の合計は、世界のGDPの1%未満でした。これに対し、世界的な金融危機の直前では、クレジット·デフォルト·スワップの想定元本は世界のGDPの100%であった。彼らの規模が小さく、通貨の代わりではなく、実体経済と金融取引のための非常に限定された使用であるという事実は、金融システムの残りの部分との関連性が限られていることを意味しています。
しかし、市場は急速に発展し続けており、暗号資産が規制された金融システムのコアとはるかに幅広く使用または相互接続されるようになれば、この初期の評価が変わる可能性があります。例えば、行動の広範な改善、市場の完全性とサイバー弾力性がなければ、より広範な使用と相互接続性により、信頼性の影
響により財務上の安定性のリスクが生じる可能性があります。新たな金融安定リスクの監視とタイムリーな識別をサポートするため、FSBはメトリクスとデータギャップを特定する。
暗号資産は、消費者および投資家の保護、ならびに不正行為を保護し、マネーロンダリングおよびテロ資金調達を保護する目的で、多数の問題を提起する。
同時に、それらの基礎となる技術は、金融システムと経済の両方の効率性と包括性を向上させる可能性を秘めています。
関連する各国当局はこれらの問題に取り組み始めている。これらの市場の世界的な性質を考慮すると、CPMI, FATF, IOSCOなどの国際機関によって支援され、さらなる国際協調が保証される。
FSBは、暗号資産によってもたらされる財務安定性リスクの強化された監視のための指標を特定し、G20を適切に更新する。

原文

Crypto-assets
Responding to the concerns of members, the FSB has undertaken a review of the financial stability risks posed by the rapid growth of crypto-assets.
The FSB’s initial assessment is that crypto-assets do not pose risks to global financial stability at this time. This is in part because they are small relative to the financial system. Even at their recent peak, their combined global market value was less than 1% of global GDP. In comparison, just prior to the global financial crisis, the notional value of credit default swaps was 100% of global GDP. Their small size, and the fact that they are not substitutes for currency and with very limited use for real economy and financial transactions, has meant the linkages to the rest of the financial system are limited.
The market continues to evolve rapidly, however, and this initial assessment could change if crypto-assets were to become significantly more widely used or interconnected with the core of the regulated financial system. For example, wider use and greater interconnectedness could, if it occurred without material improvements in conduct, market integrity and cyber resilience, pose financial stability risks through confidence effects. To support monitoring and timely identification of emerging financial stability risks, the FSB will identify metrics and any data gaps.
Crypto-assets raise a host of issues around consumer and investor protection, as well as their use to shield illicit activity and for money laundering and terrorist financing. At the same time, the technologies underlying them have the potential to improve the efficiency and inclusiveness of both the financial system and the economy.

Relevant national authorities have begun to address these issues. Given the global nature of these markets, further international coordination is warranted, supported by international organisations such as CPMI, FATF and IOSCO.
• The FSB will identify metrics for enhanced monitoring of the financial stability risks posed by crypto-assets and update the G20 as appropriate.

所見

この文面で見る限りは、FSBは議論を拒否などしていません

単純に、仮想通貨は規模が小さいため、現時点で世界の金融安定性を脅かすものではないとしているだけです。

そしてFSBはリスクの監視をタイムリーに行うため、評価基準の策定等を行うとしているのです。

また、仮想通貨には消費者・投資家保護の問題やマネーロンダリング・テロリストの資金調達の問題があるとする一方で、仮想通貨の基礎となる技術は金融システムと経済の効率性と金融包摂(全ての人に金融へのアクセスを開く、という意味合い)を改善する可能性を持っていると述べています。

これは、仮想通貨は様々な問題を抱えているが、一方で育成する余地も探る(もしくは見守るという表現の方が正しいでしょうか)ということではないかと考えます。

いずれにしろ、この書簡は仮想通貨が世界の金融安定性にとって、今のところ重要ではないと述べたに過ぎず、規制議論の拒否とは遠いのではないでしょうか。

主要なテーマとならないのであれば、このG20で規制の枠組が合意されることはないかもしれませんが、少なくともフランスやドイツ、日本はマネーロンダリング含めた規制について議論を促すと報道では想定されています。

冒頭の記事は、この点で誤解を生むものではないかと思います。

筆者は経験則上、このような記事について気になる場合は原典をあたることにしています。

是非、読者の皆様もお気をつけ頂くと良いのではないでしょうか。