銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日銀の「デジタルトランスフォーメーション―RPA」セミナーの内容確認と今後の動向

f:id:naoto0211:20180313095830j:image
2018年2月に開催された金融高度化セミナー「デジタルトランスフォーメーション―RPA」の内容が日銀より公表されました。

このセミナーの内容は、銀行において今後どのような業務がデジタル化(自動化)されていくのかを探るヒントになります。

銀行員にとっては自身の業務がどうなるのか、将来無くなる可能性はあるのか、今のうちから考えるきっかけとなると思います。

また、業務の自動化は銀行だけの問題ではありません。

銀行以外に勤務されている方にとっても参考となるでしょう。

それでは銀行における業務の自動化についてみていきましょう。

RPAとは

RPAという用語を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。

銀行でもRPAの導入議論が盛んに行われています。

RPA(Robotic Process Automation)とは、認知技術(ルールエンジン・機械学習・人工知能等)を活用した、主にホワイトカラー業務の効率化・自動化の取組みです。

人間の補完として業務を遂行できることから、仮想知的労働者(Digital Labor)とも言われているようです。

日銀の公表している資料では上記の定義のみならず、以下の説明が掲載されています。

(情報産業サービス白書2017<情報サービス産業協会>より)

ルールエンジン・機械学習・人工知能などの技術を有するソフトウェア型のロボット(仮想労働者・デジタルレイバーとも呼ばれる)が、ホワイトカラーのパソコン操作(アプリケーション操作)を自動化する概念である。
(中略)
画像マッチング技術やHTML識別技術を駆使し、人間のようにコンピュータ画面からアプリケーションを認識、事前に設定されたシナリオと呼ばれるルールに従い、データの転記・投入や検索などのパソコン操作を自動的に行う。

以上のように説明されていますが筆者として理解しやすかった以下の説明も記載しておきます。

RPAとは、人がパソコンで操作する定型的な作業(入力、クリック、コピー、ペースト等の作業)を予め設定しておき自動的に実行するものであり、EXCELマクロの高度版のイメージといって良いでしょう。また、複数のシステムやアプリケーションを繋ぐ業務プロセス/ワークフローの自動化(人間の仕事を補完・代替)であり、従来のシステム開発とは異なる概念です。

これがRPAです。

なお、以下のリンク先で、本件セミナーの資料が確認出来ます。

出典 日本銀行ホームページ
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/rel180305a.htm/

RPAブームの背景

今回の日銀のセミナーではRPAブームの背景として以下の3点が挙げられています。

<働き方改革>

  • 業務時間削減、人材不足への対応
  • 高度な事務への人材配置(単なる作業を削減し創造的業務の時間を確保)

<事務効率化(生産性向上)>

  • ホワイトカラーの生産性向上ニーズの高まり
  • 事務リスク削減

<すぐに取り組めるRPA製品が成熟>

  • 業務部門が主導で、迅速かつ低コストで進められる

この中では働き方改革の必要性よりは、低金利環境下で収益確保に銀行が苦しんでいることから生産性向上(コスト削減)が必要となり、ちょうどRPA製品が「使い物になる時代がきていた」ということだろうと思います。

RPAの対象となる業務

ではRPAの対象となる業務となる業務はどのようなものでしょうか。

本件セミナーでは、「ホワイトカラー生産性向上を阻害する少量多品種の小粒業務= システム部門が投資効果が乏しいとして取りこぼしてきたニーズ(従来のシステム開発とは異なる対象)」こそがRPAの対象となるとしています。

これは正にその通りだろうと思います。

ほとんどの銀行・企業は、「費⽤対効果が⾒合う粒の⼤きな業務は効率化を実現済み」なのです。

⼩粒の業務が様々な理由によりシステム化できず⼿作業として残されているのです。

RPAの狙いはこの小粒の業務です。

本件セミナーではRPAに向いた業務が挙げられています。

これが、銀行に多い業務なのです。

<RPAに向いた業務>

  • マニュアルが整備されている
  • ルールが明確で、例外が少ない
  • 繰り返しが多い
  • 発生頻度が高く、一定の事務量がある
  • 連続したプロセスからなる業務
  • 時間指定、時間制約のある業務
  • 人間にとってストレスとなる業務

如何でしょうか。

銀行に勤めていらっしゃる方のみならず、通常の企業でお仕事なさっている方にとっても思い浮かぶ業務が多々あるのではないでしょうか。

RPAとは、このような業務の自動化を目指していくものなのです。

RPAのメリット

ではここで改めてRPAのメリットについて確認します。

日銀の資料では以下が挙げられています。これはあくまで企業側の視点に立ったメリットです。

① 事務堅確化
– 人が介在しないのでミス、不正、情報漏えいが起こらないし、同一性チェック等のための事務が不要。ログ、監査証跡も取れる。個人情報の取り扱い等に向く。

② 導入が迅速
– プログラミング等のシステム開発作業が不要で、費用対効果が極めて高い。業務・システムは既存のまま利用。業務変更への対応(保守)も容易。スモールスタート。

③ 一時的繁忙への対応
– 従来、システム対応を行わずに、人手で行うには大変であった「力技」での対応が現実的に可能に。事務もスピードアップ。ロボット作成も使い捨ても自由。

④ 夜間、休日も稼働
– 仮想労働者なので労務管理上の問題はないし、当日休や退職リスクもなし。増やすのも簡単。

⑤ 業務の流れが見える化
– ノウハウとして個人に属していた業務の流れがルール化、見える化されて、蓄積することができる。事務見直しのきっかけにもなる。

⑥ 情報が電子化
– 紙の情報もOCRで対応。記入項目削減等により顧客の利便性向上にも寄与。

 

これだけ見るとRPAは事務に従事する銀行員や一般の企業勤務者にとって脅威となりそうです。

しかし見方を変えると、「手間のかかる」「面倒で」「付加価値の低い(誰でもできる)」業務をRPAが行う訳ですから、働いている個人にとっては業務のストレスが軽減される効果はあるのではないでしょうか。

例えば、交通費の精算(RPAじゃなくてもできますが)、紙の領収書の経費処理、各事業所から集計されたデータの正誤チェック、受領した紙の申し込み書類のシステムへのデータ入力等、挙げれば次々と出てくるでしょう。

このような「非人間的な」業務負担から従業員を解放してくれるのであればRPAも良いものといえるかもしれません。

RPAの導入事例(MUFG)

当該セミナーではRPAの導入事例としてMUFGにおける事例が最初に紹介されています。

パイロットプロジェクトとして、事務センターの住宅ローンの団体信用生命保険申込書の点検業務にRPAを導入した事例

(導入の効果)
→ 従来、10名程度のチームで日次・月次の作業を行っていたが、RPAの活用により3名で行えるようになった

(今後のRPAの展開に向けた課題)
今後の大規模展開に向けては、現在の業務プロセスをそのままRPA化するのではなく、業務分析(Business Analysis)が必要であり、外部の力も借りながら体制を強化している。
RPAにより大量の業務プロセスが自動化された場合、その結果生じるリスクの管理が課題。そのため、上流・下流のシステムを含めた一連の業務の管理・見直しの手順を整備する予定。

これがMUFGにおける事例です。

ただし、全てを自動化してしまえば「見えない化」を推進してしまい、リスクを抱える(問題が発生した際にどこが問題となっているのかが分からない等)ことになります。

MUFGとしては、その管理・分析を整備していく模様です。

すなわち、RPA化が進められても業務プロセス自体の見直し、チェック等は人が行うことになっていくのでしょう。

RPAの導入事例(福岡銀行)

次に福岡銀行の導入事例です。

信用情報照会業務や当局宛て報告業務にRPAを活用した事例

(導入の効果)
① 信用情報照会業務(営業店で新規融資に取り組む際の、本部への信用照会)
― 従来の紙ベースでの業務処理では、5名のオペレータで年3,600時間を費やしていたが、完全にロボット化。
― 一連の業務処理に3日を要していたが、当日中の処理が可能化。
② 当局への報告業務
― 年12時間の作業時間を削減

(今後のRPAの展開に向けた課題)
普通預金口座の開設や住宅ローンの申込などを含め、受付時点からのデジタル化、データ化が今すぐ取り組むべき課題。
RPAが大きな効果を発揮できる分野としては、バックオフィス業務の見直しが考えられる。そのためのネックとなっているのは、業務が紙ベースであること。
将来的には、さらに大きな効果を得るためには、AIとの融合も課題。

ここで示唆として得られるのはRPA化を阻害する要因に「紙での業務」が挙げられてることです。

当たり前ではありますが、日本企業は本当に紙の利用が多いと言われているのをお聞きになったことはあるでしょう。

このデジタル化されていない紙のデータは確かにRPA化を阻害する要因です。

しかし、今は画像認識技術の精度も向上し、紙のデータをデジタルデータに置き換えられる場合も増加しています。(ただし、手書きの文字はまだまだ難しいでしょう。)

そのため紙ベースの申込書を削減する等の対応を銀行や企業が狙うのは当然といえます。

逆をいえば(非常に短期的・近視眼的な発想ですが)、従業員側が雇用を守りたいのであれば「紙の仕事を守る」ことになるのかもしれません。

RPAの導入事例(百五銀行)

最後に百五銀行の事例です。

格付自己査定業務や投資信託集計報告業務にRPAを活用した事例

(導入の効果)

① 格付自己査定業務
― 1件当たり11分の削減効果。年間7,000件発生する事務のため、年間に換算するとの削減はおよそ1,300時間。
―  入力ミス削減による検証負担も軽減。

② 投資信託集計報告業務
― 時間的な削減効果はわずかであるが、業務が平準化され、本来業務へ集中することが可能となった。

(今後のRPAの展開に向けた課題)
適用業務の拡大(各種調査業務、社内業績表彰の集計・決算業務 など)
運営体制の確立(人員確保と人材育成、運用ルールの構築)
効果の具体化(捻出した時間の活用方法)
「人員配置の見直し」「新たな能力開発」など

所見

以上みてきて分かることは、現在導入が検討されているRPAはあくまで定型化された業務を代替するものということです。

RPAの対象業務を広げるには、紙をデジタル化していくという視点が重要ですから、紙の利用を取り止めた業務については、RPA化されていく可能性が高いといえるでしょう。

自身の業務の内、紙での事務作業が多い人、単純な集計・入力等が多い人は注意が必要かもしれません。

今後、配置転換される可能性は十分にあると考えた方が良いでしょう。

ただし、これは悪い話ばかりではありません。

慣れない業務につかなければならない一方で、ストレスがかかる定型作業、事務作業がなくなっていくのです。

銀行員や一般の企業に勤める個人は、この現実に対応していかなければならないのです。

なお、AIが銀行から雇用を奪うのかについては以下の記事で考察しています。

よろしければご参照ください。