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コインチェックが万が一倒産した際に想定されること

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コインチェックの事件が世間を騒がせています。

現時点では、盗まれた仮想通貨についてコインチェックの自己資金で補償対応することが発表されています。

しかし、仮想通貨取引所に460億円程度の手元資金があるのでしょうか。

あるのだとすれば仮想通貨取引所(というよりは販売所でしょうが)は非常に高い収益力を誇っているということであり、今後は仮想通貨取引所業務に続々と他社が参入することになるでしょう。

一方で、手元に資金が無い場合はどうなるのでしょうか。

その場合には、計画的に倒産するということもありえるでしょう。

今回は、一般の個人にとっては馴染の薄い倒産・法的整理について概要を確認し、またコインチェックにおいて想定される問題点についても考察します。

倒産・法的整理とは

倒産とは一般的には企業が支払停止状況にあることをいいます。

倒産に至った場合、一般的には以下の2つの流れになります。

  • 法的整理=再建型(会社更生、民事再生、会社整理)、清算型(破産、特別清算)
  • 私的整理

私的整理(内整理) とは、裁判所の監督を一切排除し関係者だけの合意によってなされます。これは実質的には和解契約にすぎませんので、第三者への拘束力は無く、同意した関係者のみに効力がおよびます。私的整理は実際問題として何でもアリですので、今回は説明を省きます。

法的整理は、法律に基づき裁判所の監督の下で手続きがなされます。

対象企業が存続することを狙うものが再建型であり、清算型は企業の存続を予定せず、残余財産の公平な分配を図るものです。

法的整理は債権者よりも債務者が選択することがほとんどですが、まれに債権者によって申し立てが行われることもあります。

法的整理の基本的な流れとしては、申し立て→裁判所による保全処分→裁判所による手続開始決定→債権者による債権届出→債権者集会→配当・弁済となります。

通常は、債務者から裁判所に事前に相談がなされます。そして、裁判所の指示により提出書類等が準備されてから申し立てがなされます。

経験則的にいえば、裁判所に相談を始めてから実際の申し立てがなされるまでは、数日から1週間程度です。しかし、大規模企業ではより長い日数が必要となる可能性もあります。

煽る訳ではありませんが、現段階では、コインチェックが法的整理を準備している可能性も完全に排除は出来ません。

今回、コインチェックの事件に巻き込まれてしまった個人が、万が一にもコインチェックの法的整理に関わる場合は、債権届を絶対に忘れないことが重要です。もし忘れてしまえば配当が得られなくなります。

そして、法的整理手続きが開始された場合は、債権者は個別に取立を行うことが禁止されますので、簡単には接触が出来なくなります。

また申し立てから開始決定までの間は、債権者間の平等を図るため保全処分が裁判所から出されるのが通常です。

この保全処分とは、弁済の禁止(少額弁済=50万円程度までは一般的に可)および担保設定行為の禁止が主となります。

破産では、最終的に配当に進みますが、他の手続きでは債権者の議決を経て配当に至ります。

配当期間は清算型では短いですが、再建型では10年程度に及ぶこともあります。

なお、東京商工リサーチは会社更正法での整理について以下のように発表しています。どのぐらい法的整理に時間がかかるのか、参考となるでしょう。以下引用します。

東京商工リサーチの倒産集計では、改正された平成15年4月以降の(会社)更生手続き申立てのうち、約8割が更生計画認可に、さらにそのうち6割が終結に至っている。
認可案件の約6割は申立てから1年以内で認可となっており、最長でも3年以内に認可されている。また、終結に至った企業の、申立から終結までの平均期間は約2年で、最長は約6年のケースがあった。
出典 東京商工リサーチホームページ
会社更生法 : 東京商工リサーチ

また、民事再生手続きについては以下の日数が参考となります。こちらは金融庁の資料が
参考となります。

帝国データバンクの全国企業倒産集計2003年5月報によれば、2000年4月以降の3年間で民事再生法の申立を行った2771件のうち、再生計画の認可を受けた1551件の場合、「申請」~「開始決定」までの平均が32.6日、「開始決定」~ 「認可」までが平均215.2日(以降省略)
出典 金融庁ホームページ 以下リンク先10P
http://www.fsa.go.jp/frtc/seika/discussion/2004/20040317.pdf

以上をみてわかる通り、万が一コインチェックが法的整理に入った場合には、コインチェックの利用者にとっては非常に長い期間、資金が返ってくるのを待つしかありません。

また、法的整理によって戻ってくる配当は、当然ながらコインチェックの残っている資産の状況によります。長い期間待ってもほとんど返ってこないことは十分にあり得るのです。

以上が、倒産の簡単な流れと、コインチェックが特に法的整理となった場合に、どの程度の時間がかかるかの参考です。

次項では法的整理となった場合の更なる問題点についてみていきます。

税金という最強の債権

法的整理では債権者に対して順番に配当がなされます。

この順番には留意すべき点があります。

まずは、破産の場合の事例を簡単に記載します。

破産管財人が管理・調査した破産財団が換価されると、それぞれの債権者に配当されます。配当については、債権の種類に応じて順番が定められています。以下、優先される順番に記載します。


①財団債権破産手続きによらず随時に弁済が原則

破産管財人の報酬、財団管理費用(交通費、通信費等)、納期限から1年以内の税金·社会保険料等、破産手続き開始前の3ヵ月間の給料債権、退職金等


②優先的破産債権財団債権とならない租税等債権や労働債権等

納期限から1年以上経過している税金・社会保険料等、未払いの給料(財団債権となるもの以外の給料)、退職金の一部等


③一般的破産債権

銀行の貸付金や取引先の売掛金などの債権(コインチェックの利用者が持つ債権はこれです)

 

④劣後的破産債権

破産手続き開始決定後の利息、遅延損害金、延滞税、加算税、罰金、過料等

これをご覧になるといかがでしょうか。

国税徴収法第8条は以下の条文となっています。
(国税優先の原則)
第八条 国税は、納税者の総財産について、この章に別段の定がある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だって徴収する。

この文言の通り、一般に税金、特に国税は国税優先の原則によって徴収されます。

細かい話は省きますが、上記の破産手続だろうと、民事再生法、会社更正法だろうと、一般の債権者に優先して税務署が残余財産等から取り分をもっていきます。

すなわち、もしコインチェックが倒産した場合は、コインチェックの一般債権者となるであろうコインチェックの利用者は、コインチェックに残っている財産から、まずは税金が徴収され、その残りについて配当等を受けることになるのです

取引先が倒産した経験を持つ方ならご存じでしょうが、債権者とすると税金を先に取られるのは非常に痛いところなのです。

コインチェックの場合には、銀行からの担保付借入はあまり考えられませんし、従業員も少ないので、基本的には税金が一番問題となってくるでしょう。

次にこの税金面での留意点についてみていきましょう。

納税という観点

今回のコインチェックは460億円という資金をどのように用意するのでしょうか。

本当に資金を手元に持っているというのであれば何の問題もありません。

しかし、万が一にも手元の資金があまりないようだったら、更なる税金問題が発生します。

まず法人税は事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内に支払わなければなりません。3月決算ならば5月が納付期限ということになります。

[法人税]
確定申告分:事業年度終了日の翌日から2月以内
主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日|納税証明書及び納税手続関係|国税庁

さらに、コインチェックはどのようにして収益を稼いでいたのでしょうか。

普通に考えると仮想通貨の売買手数料でしょうが、保有していた仮想通貨の売却によって利益を蓄積している可能性も捨てきれません。

そして、その場合、仮想通貨が高騰した2017年に売却したものと想定されるでしょう。

仮想通貨はご承知の通り売買等で生じた利益は所得税(個人の場合)の課税対象となります。

ビットコインは、物品の購入等に使用できるものですが、このビットコインを使用することで生じた利益は、所得税の課税対象となります。
このビットコインを使用することにより生じる損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されます。
(所法27、35、36)
出典 国税庁タックスアンサー
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1524.htm

すなわち、コインチェックは計上した売買益を基に法人税(所得税の考え方と変わらないと想定されるため)として納税しなければなりません。

そして、コインチェックの決算期は恐らく3月です。

以下のホームページ掲載資料に決算期は3月となっていました。

出典 日本銀行ホームページ
リテール決済カンファレンスの議事の概要
https://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/rel160526b.htm/

仮想通貨による国際送金 [PDF 305KB]

以上を総合すると、コインチェックは決算期末の2ヶ月後である5月に多額の納税を行わなければならないと想定されます。

(なお、今回の一連の事件に伴う損失をコインチェックが仮想通貨を売却した利益等と通算することができるのか、タイミングの問題もありますので筆者には今一つ分かりません。)

これが今後のコインチェックにおける問題点として出てくる可能性がある事実です。

まとめ

万が一、コインチェックが倒産し法的整理に入るとなった場合には、コインチェック利用者の手元に資金が戻るのはかなり先になることを覚悟しなければなりません。

また、法的整理に入った場合には税金が優先的に徴収されます。想定するよりもかなり少額の資金しか戻ってこないことも十分にあり得るのです。

今回の記事はコインチェックの事例に基づき簡単に法的整理における留意点を考察しました。

なお、メガバンク等の銀行員は取引先の倒産につきほとんど経験したことがない人が多いと思われます。

今回は銀行が絡まない法的整理事例を考察しましたが、銀行は貸出金=お金を回収するまでが仕事です。

倒産による法的整理について知識が足りない読者がいるのであれば、これを機会に一度、倒産法制・手続等について学んでみるのも良いかもしれません。