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地方銀行には人材紹介ではなく、不動産売買の仲介を解禁すべき

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地方銀行(以下地銀)の業績苦戦が続いています。

地銀は地盤地域の人口・企業数減少等がこれからも想定され、既存業務だけでは業績が反転するのは難しい思われます。

www.financepensionrealestate.work

2018年1月23日には金融庁が金融機関向けの監督指針の改正案を公表し、銀行が取引先企業に対して人材紹介業務を担えると明記されました。しかし、人材紹介業務だけで地銀の業績を反転させるのは難しいでしょう。

この地銀が長年にわたって要望している新規参入業務があることを読者のみなさんはご承知でしょうか。

地銀の本音では、この業務しか新規参入を要望していないのではないかと筆者は思うぐらいです。

その業務とは、不動産売買の仲介業務です。

イメージとしては三井不動産リアルティ(三井のリハウス)、東急リバブル等が手掛けている業務に地銀が参入を希望しているということになります。

筆者は地銀に不動産仲介業務を解禁した方が良いように考えています。

今回は、地銀含めた銀行がなぜ不動産仲介ができないのか、その背景を確認するとともに、近時の動きについてみていくことにしましょう。

地銀の要望事項

まずは地銀の業会団体(第一地銀)である、全国地方銀行協会の2017年度要望事項を確認しましょう。なお、以下引用する要望内容は分かりやすいように筆者が一部加筆・修正していますのでご容赦ください。

<要望項目>

限定された分野における、銀行本体もしくは子会社による不動産仲介業務の解禁

<要望内容>

以下の分野に限定した不動産仲介業務の取扱いを解禁する。

(a)担保不動産の売却
(b)事業承継に係る不動産の売買
(c)事業再生に係る不動産の売買
(d)地公体の再開発事業、コンパクトシティ形成事業等に限定した不動産の賃貸

<要望理由>

現状、地方銀行が取引先より不動産売買に関する支援をしてほしいとのニーズが寄せられた際には、不動産会社を紹介して対応している。しかし、不動産売買に係る情報を銀行以外の者に知られたくないとする顧客もいる。銀行本体もしくは子会社において不動産仲介業務を行うことができれば、取引先への経営支援のワンストップサービス提供も可能となる。

銀行業務と一体性がある次のようなケースについては、他業禁止の趣旨の観点からも問題ないと考える。

(a)担保不動産の売却
最近、高齢化の進展により、相続発生時の債務引受けやリバースモーゲージの返済手続き等に伴う担保不動産の売却に関する顧客のニーズが高まっており、銀行が不動産仲介を行うことができれば、顧客の利便性が高まる。

(b)事業承継に係る不動産の売買
取引先が事業承継に取り組む際、不動産の売買を伴うことが少なくないため、銀行が事業承継支援の一環として不動産仲介ができれば、顧客の利便性が高まる。

(c)事業再生に係る不動産の売買
顧客が事業再生に取り組む際、不動産の売買を伴うことが少なくないため、再生支援の一環として不動産の仲介ができれば、顧客の利便性が高まる。
「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」に盛り込まれてい
る不動産の売却や、地域経済活性化支援機構の再チャレンジ支援業務により企業債務と保証債務の一体整理を行う先の不動産の売却などに限定して解禁することも考えられる。

(d)地公体の再開発事業、コンパクトシティ形成事業等に限定した不動産の賃貸
地方銀行が関与している地公体の再開発事業、コンパクトシテ
ィ形成事業等において、地方銀行が豊富に有する地元の不動産の賃貸ニーズ情報を活用し、テナント誘致、空き家·空き店舗の解消のためのマッチングに取り組むことができれば、より円滑に事業成果を出すことにつながる。

<昨年度要望に対する回答>
銀行本体における不動産関連業務への参入については、他業を営むことによるリスクの遮断、銀行業務に専念すること等による銀行等の経営の健全性確保といった他業禁止の趣旨を踏まえる必要があり、直ちに措置することは困難。<金融庁>

 

出典 全国地方銀行協会ホームページ

http://www.chiginkyo.or.jp/app/entry_file/news20170913.pdf

以上が直近の地銀の規制緩和要望事項です。

地銀には様々な不動産の売買ニーズが集まります。不動産仲介業務を認めることは、 地銀の収益増強に貢献するだけでなく、顧客利便性にもかなうでしょう。

なぜ、地銀を含む銀行の不動産仲介業務参入は果たされなかったのでしょうか。

銀行が不動産仲介業務に参入できなかった歴史

 銀行が不動産仲介業務に参入できなかった背景について、最も端的に理由を表しているのは全宅連のコメントではないでしょうか。 

2002/2/1付記事

 

(社)全国宅地建物取引業協会連合会の藤田和夫会長は1日、同日の銀行法改正法の施行を受け、以下のコメントを発表した。

 『「銀行法等の一部を改正する法律」施行に伴い、関連の制令および内閣府令も施行された。これにより普通銀行等に不動産仲介業務を禁止することが法律により規定され、業界にとって長年の悲願であった金融機関による不動産業参入を阻止することができた。2000年6月の当会会長就任以後、本件は自身にとっても最重要課題であり、それだけに精魂込めて活動してきたが、成果を出すことができてうれしく思っている。ここに改めて、ご協力、ご尽力いただいた多くの関係者の方々に心よりお礼を申し上げたい。当会会員業者にとって死活問題となることが必至であった銀行問題がクリアになり、我々にとって「守り」の基盤整備はできたと認識しているが、今後は過度な土地住宅税制等の業界の発展を阻んでいる諸問題についても改善すべく「攻め」の基盤づくりを行なっていきたいと考えている。これからも不動産業界のさらなる発展のため、不動産業界最大の団体を率いるものとして、なお一層の努力をするとともに大胆かつ緻密な舵取りをしていきたいと気持ちを新たにしている』。

出典 不動産流通研究所ホームページ

全宅連、銀行法改正法施行にコメントを発表 | 最新不動産ニュースサイト「R.E.port」

 もう一つ関連の資料も引用します。

改正銀行法成立ー銀行の不動産業参入阻止

全宅連の活動として他に注目されることとして、金融機関の不動産業参入を阻止したことが挙げられます。平成13年の協力な要望活動の結果、この年の11月に改正銀行法が成立し、普通銀行等の不動産仲介業務を認めないことが法制化されました。

出典 Realpartner2017年5月号 P4

https://www.zentaku.or.jp/wp-content/uploads/2016/08/rp201705-1.pdf

このように不動案業界は銀行の不動産仲介業務への参入に断固反対しているのが現状です。

また金融庁も不動産の仲介業務については、「金融機関の本業との親近性が小さい業務については、他業禁止の趣旨を踏まえ、参入は認めないことにした(2002年6月内閣府 書く府省等における規制改革に対する内外からの意見・要望等に係る対応状況)」と規制緩和要望に対する回答で述べています。

金融庁は2016年の規制改革ホットライン検討要請項目の現状と措置概要でも銀行の不動産仲介業務への参入について「対応不可」としており、その理由として(前述の通り)「銀行本体における不動産関連業務への参入については、他業を営むことによるリスクの遮断、銀行業務に専念すること等による銀行等の経営の健全性確保といった他業禁止の趣旨を踏まえる必要があり、直ちに措置することは困難」と回答しています。

ここで触れられている銀行の他業禁止とはどのようなものなのでしょうか。少し確認をしてみましょう。

銀行の他業禁止

銀行の他業禁止とはどのようなものでしょうか。

以下全国銀行協会のホームページ掲載資料から引用します。

わが国の銀行は、銀行法の規定により他業を営むことが禁止されており、その業務範囲は、①固有業務、②付随業務、③他業証券業、④法定他業に限定されている。

この他業禁止規制の趣旨は、第一に、可能な限りその本業に専念し、与信・受信の両面において社会的意義と経済的機能を発揮するようにしなければならないこと、第二に、銀行に固有業務、付随業務以外の業務を営むことを許せば、銀行の固有業務等がその影響を受けて顧客に対するサービス水準の低下を招き、ひいては、預金者等の資産や取引者の安全を害する事態が予想されること、とされている。

出典 全国銀行協会ホームページ
2016 年3月金融調査研究会 現代的な「金融業」のあり方~顧客価値を創造する金融業の拡大~

この他業禁止の趣旨を不動産仲介業務に照らし合わせると以下のようになると思われます。

  • 銀行が不動産仲介業務を行いはじめると、一般のメーカーのみならず不動産投資会社へも不動産物件の紹介がなされる
  • 不動産投資会社は銀行がお金を貸してくれるのであれば、物件を買うと銀行に回答する
  • 銀行は不動産仲介手数料がほしいため、貸出の審査が甘くなる
  • また、不動産仲介で紹介した物件を実際に不動産投資会社が購入することになった場合に、不動産投資会社から融資の申し込みがあると断りづらい(銀行は融資も付かないような物件を自社に紹介したのかと言われかねない
  • よって、銀行に不動産仲介業務参入を許すと、不動産業への貸出集中のみならず甘い審査によって貸出を行い、将来的に不良債権になり、銀行の健全性を損ねる可能性がある

概ね他業禁止の考え方は上記の通りです。この考え方自体は決しておかしな考え方ではないといえます。

ただし、この考え方は金融緩和の経済環境下では今や機能しないのではないでしょうか。

今は、資金需要が盛り上がりに欠け、借入人に有利な時期です。

銀行が不動産仲介したとしても、不動産を紹介した銀行以外にも借入人には他の銀行が群がっています。不動産仲介した銀行が融資を断ろうと思えば、断ることはできるものと想定されます。他にいくらでも貸し手はいるのです。

また過去の金融庁の指導により銀行にはリスクを管理することが染み付いていますし、未だに金融庁の不動産業種向け融資に対する視線は厳しいものがあります。銀行は自らの体力を超えてまで不動産業種のみに貸出リスクを集中させにくくなっているのです。

そのため、この銀行の他業禁止は当初の趣旨である銀行の健全性を維持するというよりは、既得権益を持つ他業種の防御壁のようになっているのが現状です。

当該記事の不動産業界がその良い例でしょう。

不動産業界は伝統的に政治への影響力が強い業界です。資金力があるからです。

金融庁の本音までは分かりませんが、本来は地銀の業績・業容維持のためにも、地銀に対して不動産仲介業務を解禁したいところでしょう。

一方で不動産仲介業務を含む不動産業界を所管する国交省は、監督する不動産専門会社や宅建業者を守るためにも、銀行への不動産仲介業務の解禁は簡単に認めないでしょう。

この銀行への不動産仲介業務の解禁は、金融庁対国交省、銀行対不動産業界での戦いということができるのです。

不動産仲介緩和の動き

ところが、この銀行の不動産仲介業務への参入については、気になる動きも出てきました。

それが三井住友銀行傘下のSMBC信託銀行の不動産仲介業務開始です。

2016年10月からSMBC信託銀行は名古屋の拠点でひっそりと不動産仲介ビジネスを開始しました。

SMBC信託銀行は中小の不動産会社などに配慮するために、2016年3月に全宅連(全国宅地建物取引業協会連合会)と合意書を締結し、仲介取扱店の拡大に際し事前に全宅連に相談し、取引相手は富裕層や大企業などの大口に絞るといった内容だと報道されています。

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO08983460R31C16A0SHA000

これは、SMBC信託が全宅連との共存共栄をうたい、周到に根回しをしてきたことが背景としてあったのでしょう。これは非常に驚きのあるニュースでした。

主に個人相手の中小不動産会社と大口相手のメガバンクグループの信託銀行では顧客層が被らないということでしょう。

このように銀行の不動産業務参入も一部では果たされている事例はあるのです。(これには三井住友FGのみが大手信託銀行を傘下に持たず不動産業務を取り扱えていなかったことも影響しているのではないかとは思います)

不動産業界の現状

ここで不動産仲介業務において銀行と対立する不動産業界の現状について確認しておきましょう。

不動産業というのは35万事業所のうち、30万事業所が1~4名の従業員しかいない規模の小さい事業所が占めている業態です。よって、不動産業者が一般的には中小が多いというイメージはある程度正しいと想定されます。

一方で、不動産代理業・仲介業の従業者数は1999年が18万人から2014年には21万人まで拡大しています。

また宅地建物取引業者数の推移をみると、1999年に法人数は10.8万社、個人3.1万人に対して2016年には法人数10.6万社、個人1.7万人となっています。

不動産の仲介に従事する人員はトータルでは増えていますが、これは一部の企業が大きくなり従業員数を増やしてきたということを表していると想定されます。一方で個人で営業しているような、いわゆるFAXと電話で営業しているような不動産事業者は減少の一途を辿っています。

以上の数字の出典は以下となります。

出典 公益財団法人不動産流通推進センター 2017不動産業統計集
http://www.retpc.jp/chosa/tokei

不動産業の中でも仲介業は今後さらに集約化されていくものと筆者は想定しています。

要因としては、顧客である国民の人口減(仲介数の減少)がまずベースにあり、加えて個人ではインターネット等への対応、物件情報の収集、管理、更新等が難しくなってきているからです。

したがって、銀行が不動産仲介業に進出すると既存の(特に中小)不動産会社が致命的な影響を受けるという国交省等の主張は、将来的には「守るべき相手がいなくなってくる」ということになるのではないかと想定します。

地方銀行の不動産仲介業務への参入を

マイナス金利が解除されたとしても日本が置かれた環境を鑑みると、少なくとも低金利政策は今後も続いていくものと想定されます。

そのような中で地銀の収益は残念ながら反転が見通せません。

一方で、高齢化の進展に伴い今後は不動産の相続が大量に発生すること、そしてその相続された不動産が売却されることは容易に見通せます。

地方の人口は減少していきますので、都市部の再開発(コンパクトシティ化等)を行わなければインフラ面も含めて非効率になっていくでしょう。当然、再開発によって「賑わい」を高め地方都市の魅力も向上させていかなければなりません。

また廃業する企業も地方では多くなっていきます。これは後継者がいないことや、収益が厳しいために事業を止めてしまうことが理由です。

そして、上記の通り不動産事業者も個人が運営しているような小規模先は減少してきています。

以上を勘案すると地銀が不動産仲介業務に参入することは、地銀のみならず地方経済にとってもプラスになる可能性は高いのです。

地銀には様々な情報が集まります。預金者が亡くなれば、そこには相続の問題、なかでも不動産の問題がでてきます。企業が廃業すれば、同様に不動産の問題が出てきます。そのような不動産を購入し、事業を行いたい個人や企業は資金を必要とします。

地方都市の魅力を高めるためには地銀が不動産仲介業務に参入していた方が、全体をコーディネートできる可能性があるのです。

もちろん地銀の事業基盤、収益力も今までよりは改善するでしょう。(今のところは)銀行は経済の血流を担っていますので健全であることは地方経済にとっては必要なのです。

以上より筆者は地銀が不動産仲介業務に参入することは様々なステークホルダーにとっても有用ではないかと考えています。

不動産事業者への影響が大きいとするのであれば、地銀が自ら要望を出しているように事業領域を限定すれば良いのです。

これが地銀の業績を改善する近道であり、人材紹介業務や、フィンテックや、事業コンサル等へ地銀を進出させるよりも、よほど地方都市等にとっても有用なのではないでしょうか。

金融庁、国交省含めた関係者は是非とも検討して欲しいところです。