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メタップスの事例に学ぶ仮想通貨の会計処理

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メタップスの2018年8月期第1四半期決算の会計処理が話題となっています。

これは端的にいえば、ICO (イニシャル·コイン·オファリング、仮想通貨技術を使った資金調達)の会計処理をどうすべきか、という問題です。

今回の記事ではこの問題について考察します。

メタップスの会計処理の内容

メタップスは2017年9~10月にかけて韓国子会社MetapsPlusによるプラスコインのICOをしています。

メタップスは今回の決算で、このICOで得た資金を貸借対照表上の負債として計上しており、ICOで受領した仮想通貨のイーサリアム(ETH)が取得時の価格評価となっている(時価評価ではない)ことが話題となっているのです。

日経新聞等でも取り上げられました。

なぜ話題となったのか

これは企業が保有する仮想通貨をどのように決算に反映するかという問題です。

ICOの事例がないこと、一部の投資家はメタップスが保有する仮想通貨の値上がりが決算に反映されると予想し投資をしていたこともあり話題になったものと思われます。

メタップスはIFRSを適用していますので、日本の会計基準で決算をしている訳ではありませんが、まずは日本の会計制度についてみていくことにしましょう。

日本の会計基準

日本では企業会計基準委員会が2017年12月に「資金決済法における仮想通貨の会計処理に関する当面の取扱い(案)」を公表しました。

これはあくまで当面の取り扱いであり、確定したものではありません。

しかし、他の会計基準で案が出されていない以上、仮想通貨の決算を行う上では参考となります。

<実務上の取扱い>
1 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理

期末における仮想通貨の評価に関する会計処理

仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。以下同じ。)について、活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。

仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有する仮想通貨について、活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする。期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理する。

前期以前において、前項に基づいて仮想通貨の取得原価と処分見込価額との差額を損失として処理した場合、当該損失処理額について、当期に戻入れを行わない。

(中略)

2 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨に係る期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額

15. 仮想通貨交換業者は、預託者から預かった仮想通貨に係る資産の期末の帳簿価額について、仮想通貨交換業者が保有する同一 の仮想通貨から簿価分離したうえで、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の分類に応じて、第5項及び第6項に定める仮想通貨交換業者の保有する仮想通貨と同様の方法により詳価を行う。

また、仮想通貨交換業者は、預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった仮想通貨に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった仮想通貨に係る資産及び負債の期末評価からは損益を計上しない。

出典 企業会計基準委員会ホームページ
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-1206.html

この実務上の取扱で分かるように仮想通貨は原則として期末に時価評価することになっています。これは自社で保有している仮想通貨も、仮想通貨交換業者が顧客から預かった仮想通貨も同様です。

そして、自社保有の仮想通貨は、貸借対照表上の簿価と時価の差額については、期末時点で当期の損益として処理することになります。(顧客から預かった仮想通貨は損益処理は行いません)

これが日本の会計基準における仮想通貨の会計処理です。

メタップスが日本の会計基準を適用しているとすれば、保有している仮想通貨は少なくとも時価評価されていたものと思われます。

では、IFRSについての取扱についてもみていきましょう。

IFRSにおける取扱

IFRSにおける仮想通貨の取扱については何も決まっていないというのが現状だと思われます。

参考記事としては以下のリンク先を引用します。

https://www.ark-outsourcing.jp/news/detail_36.html

IFRSの諮問機関であるASAF (会計基準アドバイザリーフォーラム)により2016年12月に開かれた会議の中で、仮想通貨の会計処理が敲論されました。

その際、AASB (オーストラリア会計基準審議会)が、この議論のアジェンダを作成し、その中で仮想通貨に関して様々な分析が行われ、以下のように分析しています。

①現金及び現金同等物あるいは金融商品には該当しない。

②棚卸資産あるいは無形資産に該当する。

この点は、仮想通貨を通貨同等の財産価値を持った正式な決済手段として認めている日本のいわゆる仮想通貨法や消費税法の解釈とは異なっています。
資産区分ごとの分析は以下の通りです。
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この会議の中で様々な意見交換がなされましたが、結局は「IASBが引き続きこの論点の進展を注視していく」ということで、会議は終了しましたこれ以降は、現時点までLSBによる議論は行われていません。
出典 アークアウトソーシング(株)
https://www.ark-outsourcing.jp/news/detail_36.html

(参考)ASB (オーストラリア会計基準審議会)のホームページ
http://www.aasb.gov.au/admin/file/content102/c3/AASB_ASAF_DigitalCurrency.pdf

 

これがIFRSで押さえておくべきことだと思われます。

日本の会計基準とIFRSとの思想の違い

日本の会計基準は、収益から費用を引いたものが期間損益となり、それを内部留保して資産に溜め込んでいくという発想の「収益費用アプローチ」がとられています。

この会計の恩想の影響もあり、日本企業の多くは、期間の売り上げや利益を重視してきたといえるでしょう。

それに対し、IFRSでは資産から負債を引いた純資産が期首から期末までにどれだけ増えたかを見る「資産負債アプローチ」を採用しており、日本とは利益に対する考え方が全く異なるといって良いでしょう。
端的にいえば、日本の会計基準はPL(損益計算書)重視、IFRSはBS (貸借対照表)重視といえます。
IFRSは投資家のための財務諸表との表現が正しく、過去の成果でしかないPLではなく、今後その企業がキャッシュを生み出して成長するかという将来を示そうとしてB/Sを重視しているのです(資産を活用してキャッシュが生み出されるという思想)。

前述のIFRSにおける仮想通貨の議論に加えて、このようなIFRSの思想をも勘案した場合、メタップスの会計処理はどのように評価したら良いのでしょうか。

ICOの会計処理

ICOの会計処理は基本的に独自の仮想通貨であるトークンの販売か、仮想通貨発行者の提供するサービスを将来利用するための預託金・前受け金として処理することが妥当だと思います。
以下、参考となる記事を引用します。

1. 収益計上
独自のデジタルアセット(独自暗号通貨(トークン))を販売したと考えれば、トークンセールの名のとおり、会計上はセールス(売上)として認識。この場合、税務は課税です。

2. 負債計上
例えば「預託金」的な性質を持つ場合などであれば、会計上は負債として認識し、税務上も課税されないケースが出てくるのではないかと思います。
(筆者註 この場合はトークンが自社サービスで利用された場合に初めて売上・利益が計上されるということになると思われます)

出典 幻冬舎GOLD ONLINE 仮想通貨による資金調達「ICO」の概要と税務上のポイント柳澤 賢仁
http://gentosha-go.com/articles/-/13267

今回の会計上のポイントはこの点にあるのではないかと思います。

メタップスの会計処理

まず、メタップスの会計処理は時系列を認識した方が良いでしょう。

  • 2017年9~10月 韓国子会社MetapsPlusによるプラスコイン(独自仮想通貨)のICO実施
  • この際、仮想通貨イーサリアム(ETH)を当時の時価で10億円相当分調達
  • この仮想通貨は所定の期日までに仮想通貨取引所が設立されなかった場合、ICOの参加者に希望に応じて返還される条項あり
  • 2017年11月11日 韓国子会社MetapsPlusが仮想通貨取引所「CoinRoom」を開設
  • この開設により仮想通貨の返済義務消滅
  • 2017年11月30日 メタップス 第1四半期決算期末
  • この四半期決算では仮想通貨イーサリアムが約5倍に値上がりしているにも関わらず時価評価されない決算を公表

メタップスでは会計処理について公表資料で以下の通り述べています。

  • 今回の四半期決算では、トークン販売額を収益計上せず
  • 今回のICOではトークンの販売として取り扱われるため最終的には収益として認識される
  • ただし、当四半期ではIFRS15号を適用し、ICOの目的を実現するまでは一時的に負債計上し、今後その目的が実現されるタイミングで収益計上する予定
  • 保有する仮想通貨は売却のタイミングで損益を計上(仮想通貨は簿価にて貸借対照表に計上)

ここで言及されているIFRS15号とはどのような条項でしょうか。

IFRS15号では収益の認識について「企業が履行義務を充足した時、つまり顧客が当該資産に対する支配を獲得した時点で収益認識する」と規定されています。

ここが今回の会計処理のポイントとなるということです。

メタップスはなぜこのような会計処理をしたのでしょうか。

その理由は以下のようなニュースにあります。

すなわち韓国で仮想通貨の取引所が禁止されるかもしれないということです。
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO25641290S8A110C1EA2000
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/01/16/2018011601419.html

報道を見る限りでは、メタップス側は韓国で仮想通貨の取引所を運営するためにICOで調達したため、仮想通貨取引所が運営できないのであれば、ICO参加者に仮想通貨を返却するとしているようです。

筆者が韓国子会社MetapsPlusのICOにかかるホワイトペーパー(資金を調達するための事業説明書のようなもの)を確認した限りでは仮想通貨の取引所が開設できれば参加者から払い込みをうけた仮想通貨の返却義務が消滅するのであり、取引所が運営できなくなったからといって仮想通貨を返却するという特段の義務はないようです。

しかし、企業として今後の事業継続・顧客からの信頼獲得のために返却をする可能性があるというのであれば、それは経営判断というものでしょう。

では、今回のメタップスの会計処理についてはどのようにすればよかったのでしょうか。

メタップスの会計処理の評価

偉そうに記事を書いていますが、筆者は会計の専門家とはいえません。

しかし、あえて意見を述べさせていただきます。

筆者の意見は以下の通りです。

  • メタップスの会計処理は間違いとまではいえない
  • 理由は単純でありIFRSでは「何も決まっていない」ため、理屈がつくのであればどのような会計処理でも企業の責任においてなされるべきであるため
  • その上で、筆者は仮想通貨を時価評価すべきだったという考え
  • 考えの背景としては、IFRSは投資家が利用するべく貸借対照表(B/S)を重視しており、その思想は資産の時価評価に繋がること、日本の会計基準も時価評価すべきとしており参考となること、仮想通貨の取引市場が開設され仮想通貨の返還義務が消滅したのに時価評価をしないのは原則に反すること
  • トークンの販売も収益として計上すべきであり、韓国の仮想通貨取引所が運営できなくなった場合にはじめて、仮想通貨の返還等を損失計上すれば良い

以上が筆者の考えです。

読者の皆さんはいかがでしたでしょうか。

このメタップスの事例が今後のICOの会計処理の貴重な事例となるでしょうから、ICO関連の企業へ投資している方にとってはポイントを押さえておく事例だったと思います。