銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の貸し手責任は変わっていく可能性大~アパート建築案件を事例に~

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先日、ガイアの夜明けという番組でレオパレス21の強引な営業等が取り上げられました。

筆者はそれに関する記事を掲載しています。

www.financepensionrealestate.work

この記事に対して様々なご意見を頂きました。

このご意見の中では「銀行の貸し手責任」を問うものが多かったように感じました。

そこで今回は銀行の貸し手責任について考察していきます。

皆さまのご意見

まずは、記事に対する皆さまのご意見のうち、銀行の貸し手責任に関するコメントを転載させて頂きます。

もし、この記事をご覧になっている銀行員がいらっしゃるのでしたらぜひとも筆者共々しっかりとご確認ください。

  • うすっぺらい(筆者註:記事の内容についてと思われます)。一番の悪は需要のない場所でもアパートローンを無理融資してる銀行。レオパレスや大東建託、東建にヘーベル。全部下っ端にすぎない。銀行云々名乗るなら本丸まで切り込まないと。
  • 家まで送迎付きの勧誘受けたことあるけど(話の種に行ってみた)これ土地運用じゃなくて借金の提案だよね。どこの銀行がバックに付いていたんだろ。  
  • 潰れたらそれこそサブリースの債権者が泣くことに。銀行も調子こいて融資しすぎだ。「終了プロジェクト」で不採算案件は削っているので経営が傾くとすれば裁判で負け続ける位。法的に強いのはレオパなんだけどね。
  • 住宅に総量規制がなくて銀行もGoの旗振ってる以上、レオパレスのこれは国策みたいなもんだと思うのよなあ。  
  • これもソーラーパネルと一緒でファイナンスがしたいんよね。ソーラーみたいに売りっぱなしには出来んけど。半年ほど入ってたけど、会社の借り上げじゃなきゃ自分では選ばんな
  • 一番悪いのは借金を煽る銀行なのに、何他人事みたいに言ってるんだ。  
  • 銀行員も同じ穴の狢でござるよ  
  • 銀行は家主に金を貸して、レオパレスとタッグを組む側なので、そのへんもからめると…って、この写真はレオパレスじゃないでしょ、さすがに。(筆者註:アイキャッチの画像のことをご指摘頂いています) 

皆様のコメントには、銀行に対する「世間の認識」というのが端的に示されているのではないでしょうか。

では、以下でレオパレス21との間の銀行に関する問題、およびそもそもの銀行の貸し手責任についてみていきましょう。

レオパレス21および他サブリース業者と銀行との利害関係

まず、サブリースを行うアパート事業者と銀行との関係について、確認しておきます。

以下の記事が一番まとまっており、筆者の把握している実態とも齟齬がありません。 

2017/4/23 日本経済新聞

相続税対策を背景に拡大している賃貸アパート向けの融資で、一部の大手地銀が顧客を建築業者に紹介する見返りに手数料を受け取っていることが金融庁の調べで分かった。請負金額の最大3%に上り、請負額が増えるほど銀行の実入りが増える。建築費を低く抑えたい顧客との間で利益相反が生じる懸念があり、金融庁は顧客本位の原則に沿って是正を促す方針だ。
アパート融資は2015年の相続税制の改正で課税対象が広がったのを機に全国で需要が急増。16年中の同融資額は前年を2割上回る3兆8000億円と過去最高を更新した。地方を中心に人口減が加速するなかアパートの過剰供給で空室率が上昇。家賃保証をめぐるトラブルも増えている。
金融庁は16年末から融資を伸ばしている地銀12行を対象に融資実態調査を進めてきた。一部地銀はアパートの建築から家賃徴収などの業務を一括して請け負う業者と顧客紹介の契約を締結。銀行が節税ニーズのある顧客を請負業者に紹介する見返りに、手数料を受け取っている実態が浮かび上がった。
アパートの建築費に請負業者の利益を上乗せした建築請負金額の0.5~3%程度が手数料の相場だという。請負金額が4000万円なら、銀行は最大100万円を超える手数料を受け取ることになる。こうした追加コストは事実上、建築費に上乗せされ、最終的に顧客の負担が増えている可能性がある。

顧客紹介で手数料を受け取ること自体は違法ではないが、銀行が過度な手数料獲得に動けば、できるだけ安く建てたい顧客が不利益を被り、利益相反が生じる懸念が強いと金融庁は判断している。
アパート融資調査では、空室率上昇で家賃収入だけではローンの返済をまかなえず、給料から返済したり、返済条件を変更したりする事例も見つかっている。金融庁はアパート融資自体を問題視しているわけではないものの「顧客本位とはいえない事例も多い」(幹部)とみて是正を促していく。 

これは非常に重要な記事です。

銀行はレオパレスのようなアパート建築請負業者に顧客を紹介します。その結果、建築代金の最大3%を紹介手数料として受けとるのです。

一般には、銀行はアパートローンを貸し出したい、そこで儲けていると考えられているでしょう。

ところが、銀行はアパート建築請負業者から紹介手数料をもらえるのです。

融資だけでは儲からないので、このような多額の手数料が収受できるなら、銀行はすさまじい勢いで営業をするでしょう。

なんといっても、地方銀行は業績が厳しいのです。

これは、銀行にとっては良い取引にみえます。また、アパート建築請負業者にとっても銀行という信用力のある企業が自社のアパート建築を営業してくれるのですから当然に喜ばしいことです。

一方、アパートを建てたい銀行の顧客からみると、利益相反となっている可能性があります。銀行が手数料欲しさに、アパート建築請負業者を選択肢を示さずに紹介したり、もしくはアパートを建てるべきではないのにアパート建築話を持ち込む等の問題が発生する可能性があるのです。もちろん、アパート建築代金にアパート建築請負業者が銀行に支払った手数料が含まれる可能性だってあります。

これが、アパート建築請負業者でありサブリース業者と銀行との関係であり、問題点なのです。

全ての銀行が、この問題を抱えているわけではありませんが、サブリースのような問題を認識する上で、外してはならない視点でしょう。

以下他の参考記事についてはもリンクを掲載します。

レオパレス21に集団訴訟相次ぐ 銀行と不動産業者が結託、裏で手数料も (1/5) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

銀行の貸し手責任とは

貸し手責任(=Lender Liabiltty)は、融資の交渉~回収までの全ての過程において、融資先(企業・個人等)から銀行に対して想定される請求に対し、「融資側が負う可能性のある責任」といえるでしょう。

例えば、融資先の経営内容・事業計画を融資側が把握し、介入する事等による法的責任という考え方もできます。また、銀行が融資を約束したのに撤回したことから会社が倒産したというのも場合によっては貸し手責任(信義則違反)として借主が法的に保護される可能性はあるでしょう。

この貸し手責任の法的な根拠としては、不法行為・債務不履行・信義則違反等によるそれぞれの責任と考えられています。ただし、あくまで社会的責任ではなく法的責任を指します。

統一された法律がないため、日本においては、明確に「これが貸し手責任」といえるような定義は難しいかもしれません。

裁判例でも貸し手責任は簡単には認められていません。

以下のリンク先には様々な事例がありますが、銀行側に責任が認められるのは高いハードルがあることが分かると思います。

一般財団法人 不動産適正取引推進機構 | RETIO判例検索システム

銀行の貸し手責任が認められた事例

銀行の貸し手責任が認められた裁判例で有名なのは「最一小判平成18年6月12日」という判例でしょう。

この判例は、建築会社を紹介し収益物件の建築を銀行が提案した事案です。まさに、銀行がアパート建築請負業者を紹介する事案です。

簡単に以下事例を挙げます。

  • 建築会社の担当者が顧客に対し融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後にその敷地の一部売却により返済資金を調達する計画を提案した際に上記計画には建築基準法にかかわる問題があることを説明しなかった点に説明義務違反があるとされた事例
  • 建築会社の担当者と共に顧客に対し、融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後に、その敷地の一部売却により返済資金を調達する計画を説明した銀行の担当者に、上記計画には建築基準法にかかわる問題があることについての説明義務違反等がないとした原審の判断に「違法」があるとされた事例

  出典 裁判所裁判例ホームページ

  最一小判平成18年6月12日 裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

この裁判では、一審判決で大阪地裁は銀行と建築会社共に説明義務違反を認定し、請求額の約1割の損害賠償を命じましたが、控訴審判決で大阪高裁は両者について説明義務違反の主張を採用せず、顧客側は最高裁に上告をしました。

最高裁は、本事案において銀行には、収益物件の底地に関する建築基準法上の問題や隣地の売却可能性を調査し、顧客に説明すべき信義則上の義務を認める余地がありうる、として、控訴審判決を破棄差し戻しました。その判決の概要は次のとおりです。

ここでは法律事務所の解説記事を引用いたします。

一般には融資の返済計画が具体的に実現可能かは借受人が検討すべき事柄であり、本件でも、銀行担当者が隣地の売却可能性について調査、説明すべき義務が当然にあるわけではない。

しかし、本件で銀行担当者は顧客に対し、土地の有効利用を図ることを提案して建築会社を紹介した。のみならず、収益物件に関する経営企画書や投資プランを作成し、建築会社担当者と共にその内容を説明した。顧客はその説明によって、返済可能な融資だと考えて、これを受けた。しかも、顧客の主張によれば、銀行担当者は隣地の売却は確実に実現させると述べた、ということになっている。

こういった特段の事情があれば、銀行には信義則上の調査、説明義務があったと認める余地がある、と結論づけました。

銀行と顧客の間では金銭消費貸借契約があるだけで、顧客が借りたお金を返す義務を負うだけ、顧客がその金をどう使うかは銀行は知らない(少なくとも法的責任の点で)というのが原則と考えられます。

ところが、銀行はバブル期に融資を増やすため、投資や相続税対策として不動産の購入、建築を顧客に紹介、提案することが多くありました。その提案の中に事実と異なる説明をしたり、尽くしておくべき説明を尽くしていなかったりした場合には、銀行の「説明義務違反」を認定して、相当額の賠償を命じることがありうるとしたのが本判例です。この「説明義務」は金銭消費貸借上の貸し手側の「付随義務」であるとの構成が可能です。

同種の問題に関する判例が近時散見され、このことは近時の経済状況においても十分起こりうる話です。

出典 御池総合法律事務所 御池ライブラリー(ホームページ掲載)

http://www.oike-law.gr.jp/wp-content/uploads/oike25.pdf

本判決は、単に建築会社を紹介した、弁済計画を立てたというだけでは、金融機関に弁済計画の破綻に伴う調査・説明義務違反を認めていません。本判決が認定した特段の事情のような、金融機関の積極的関与、これによる借主の信用(詐欺における因果関係と同視できるかといえるでしょう)が重要な要素となるといえます。 

以上が銀行の貸し手責任の認められた事例です。

すなわち、一般的なアパート建築請負業者を紹介しただけのようなアパートローン案件では法的には貸し手責任を認められる可能性は低いといえます。

アパートローンに関する金融当局の問題意識はどうか

まず、日銀の問題意識を確認していきましょう。

金融システムレポート別冊から抜粋して引用します。

貸出の入口審査に当たっては、事業主の非賃料収入やその他の保有資産も含めた回収可能性を総合的に判断するとの指摘も少なくないが、これらによる回収可能性を十分かつ継続的に把握しているのが一般的な扱い、とまでは言い難いように窺われる。

したがって、与信管理面では、入口審査において、対象物件の先行きのキャッシュフローを適切に見積もるとともに、入居率等が下振れた場合の返済余力の確認を行っておくことが重要である。また、入居率に影響を及ぼす物件所在地の人口・世帯数の先行き見通しなどについて分析を行っておくことも有益である。貸出実行後においては、物件の状況変化の有無を早期に把握し、所要の対応を講じることができるよう中間管理を行うことが重要である。加えて、同貸出をポートフォリオとして捉え、これに内在するリスクを集合的に分析・把握していくこと も有用である。

(筆者註:以下は日銀の地域銀行に対するアンケート結果の解説)

入口審査では、一般に「対象物件の立地条件を重視する」との声が多い。「立地条件」は個別性の極めて強いものではあるが、ある程度、地域別、物件特性別に類型化し、需給の現状や見通しを客観的に評価していくことは有用と考えられる。特に、融資対象物件が多く存在する地域については、こうした観点を審査基準に盛り込むなど、組織的な対応を図っていくことも重要である。具体的に、金融機関が活用している情報としては、該当地域の人口・世帯数推計値、地元不動産業者等から入手する地域別、物件特性別(規模、築年数、価格帯、顧客層等)の入居率や家賃動向などが挙げられるが、これらを活用している先はまだ少ないのが実情である。

次に、事業主や施工業者等が策定した収支計画の妥当性検証については、収支シミュレーションを活用している先が多い。

シミュレーションの具体的内容をみると、比較的多くの先で、賃料収入、貸出金利に一定のストレスを負荷するとともに、経年劣化への対応として大規模修繕費用を考慮している。ただし、ストレス水準が必ずしも十分でないケースも一部にみられる。具体的には、賃料収入を長期間ほぼ一定としているケースや、大規模修繕費用を考慮している場合でも、シミュレーションの対象期間が短い結果、融資期間後半における同費用の発生可能性が織り込まれていないケースなどである。また、いわゆるサブリース物件について、不動産管理会社による借上期間中、賃料収入を一定とする先もみられるが、家賃保証の対象期間等契約内容を精査のうえ、適切なストレス水準を確保する必要がある。

出典 日本銀行 金融システムレポート別冊シリーズ:地域金融機関の貸家業向け貸出と与信管理の課題─アンケート調査結果から─

https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb160324.pdf

この日銀のレポートをみる限りは、地域銀行(地方銀行+信用金庫)についてはアパートローンの審査能力に問題があることが分かります。

さらに金融庁は、同庁の問題意識を挙げた平成28 事務年度金融レポート(2017年10月公表)で地域銀行のアパートローンについて以下の通り記載しています。この記載は、後述の金融行政方針の並び「銀行の貸し手責任」の流れに大きな影響を与える可能性があります。

(ア)アパマンローンの増加の要因

地域銀行のアパマンローン(筆者註:アパートローンおよびマンションローンの略)の増加の主な要因としては、①賃貸建物資金の融資(主に土地所有者の相続税対策目的)、②不動産投資資金の融資(主に高所得者層の運用収益目的)、③いわゆる 「メガ大家」と呼ばれる不動産事業者向け融資(上記①・②の複合型)の3点が認められた。
なお、上記3つの要因のいずれの案件も、賃貸物件の建築業者から地域銀行への持込みが大宗であった。(129~130P)

 

④ 適切な業務運営の確保
アパマンローンの借り手には、①上記のとおり築年数の経過とともに賃貸物件の収支のみでは返済資金を賄えず、給与等の他の収入等で補てんしている者、②アパート経営の知識が乏しく、空室・賃料低下等のリスクを十分に理解しないまま、相続税対策目的等で借入れまでして貸家業を行っている者が存在している。
地域銀行においては、金利上昇や空室・賃料低下等のリスクについて適切に評価した上で、借り手に分かりやすく伝えるなど、顧客本位の(ローンの借り手(家主)の立場に立った)業務運営を確保する必要がある。

⑤ 貸家業の事業リスクの評価と借り手に対するリスク説明等

貸家業の事業リスクの評価については、例えば、①賃貸物件の収益シミュレーションが全融資期間を対象としていない、②融資実行後の賃貸物件の収支状況等の確認が十分でない、また、借り手に対しては、③収益シミュレーション結果の書面説明等の取組みも一部では認められるものの、貸家業の事業リスク説明について、融資に当たって顧客が空室リスクや賃料低下のリスクを適切に理解するよう、具体的な説明の方策について検討し組織的に対応している金融機関は少ないなどの改善の余地が認められた。

各金融機関においては、アパマンローン等貸家業向け融資の規模等に応じて、必要なデータの蓄積や賃貸物件の収益シミュレーションの精緻化といった規律ある審査体制の構築、期中管理(融資実行後の賃貸物件の空室・賃料水準や収支状況(キャッシュフロー)等の把握等)の充実に努めるとともに、借り手に対するリスク説明を充実させる必要がある。

(131P)

出典 平成28 事務年度金融レポート

http://www.fsa.go.jp/news/29/Report2017.pdf

金融庁の金融レポートはかなり踏み込んだ内容となっています。すなわち「借り手に」「銀行が」「リスク説明を」「充実させる必要がある」としているのです。 

これを受けて、金融庁の金融行政方針では以下の通り記載しています。

経営トップの主体的な関与によるリスクガバナンスを含めた運用態勢の強化、含み損も意識したリスクのモニタリングとコントロール、市場急変時を想定した対応策の事前検討等について、金融機関と改善に向けた対話を行う。

(イ)アパート・マンションや不動産業向け融資が増加傾向にあることから、不動産市況や地域金融機関の融資動向を注視しながらモニタリングを継続する。その際、アパート・マンション向け融資に関しては、将来的な賃貸物件の需要見込み、金利上昇や空室・賃料低下リスク等を借り手に十分説明できているかなどについて、引き続き対話を行う。

出典 金融庁 平成29事務年度 金融行政方針 22P 

http://www.fsa.go.jp/news/29/2017StrategicDirection.pdf 

以上の金融庁の行政方針をみる限り、金融庁は地域金融機関に対してアパートローンの調査能力について疑義を持ってるということが分かります(問題がないならば行政方針に入れません)。

そして、地域金融機関のモニタリングをしながら、その中で、将来的な賃貸物件の需要見込み、金利上昇リスク、空室・賃料低下リスク等を「借り手」に十分に説明できているかについて対話を行うとしています。

これは、かなりの大きなインパクトを与える可能性があるのです。

すなわち、銀行が 将来的な賃貸物件の需要見込み、金利上昇リスク、空室・賃料低下リスク等を「借り手」に十分に説明できていない場合、(将来的に)銀行に貸し手責任が発生するかもしれないからです。

これが金融当局の動きです。

銀行の貸し手責任のこれから

これまで貸し手責任についてみてきました。

以下、ポイントをまとめましょう。

  • 大原則として、返せる当てもないのにカネを借りるのは、借入人の責任であり、問題です。詐欺といえるケースもあるでしょう。
  • では、逆に考えて、「返せるはずのない者にカネを貸す」のはどうでしょうか。
  • 今は、返せるはずのない者にカネを貸しても銀行は責任を問われるケースは少ないのが実情です。
  • 当たり前の話ですが、返せるはずのない者にカネを貸したら、カネが戻ってきませんから銀行は損をします。これは自己責任です。
  • しかし、冒頭に挙げたアパートのサブリース問題への皆様の反応、顧客本位を掲げる金融庁の問題意識をみる限り、世の中は変わりつつある可能性が高いのです。
  • 特に顧客本位の業務運営、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)を求められている銀行、すなわち職業倫理としてプロの貸し手は、返せる見込みのある者というよりも「返せるプロジェクト」にしかカネを貸すべきではない、となっていく可能性が高いということです。
  • 返せるという判断をした者・プロジェクトにだけ貸し、もし返せないということになったとしても、それは銀行の審査能力がなかったとするのです。すなわちノンリコースローン(※)の考え方がさらに強化されることになるのではないでしょうか。(※ノンリコースローン=個人や法人 などが保有する特定の事業や資産(責任財産)から生ずる収益(キャッシュフロー)のみを返済原資とする非遡及型の融資。例えば、アパート投資案件が失敗しても借入人の他の資産へ遡及して借入返済の義務を負わない。)

世の中の感覚・常識は変わっていきます。そして、その集大成が法律となって明文化されます。

現在の環境・時代は、「貸し手責任」というものの考え方・認識・定義・受け取り方等が変わっていく、そのような時期にあるのかもしれません。

銀行はアパート建築請負業者を紹介する際、アパートローンを実行する際等に、借り手が本当に返せるのか、借り手の目線・立場に立って今一度考える必要があるでしょう。そうしなければ、銀行は「変化した社会」から害・悪とみなされる可能性があることを認識すべきということです。