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地銀の2017年9月中間決算の概要と特徴~問題は「債券含み益顕在化経営」の限界~

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全国地方銀行協会(地銀協)から加盟地方銀行(64行)の中間決算についての概要が発表されました。

地方銀行(地銀)の業況は厳しさが加速しているといわれていますが、本当にそうでしょうか。

今回は第一地銀の2017年9月中間決算状況について考察します。

全国地方銀行協会とは

全国地方銀行協会、略して地銀協は、いわゆる第一地方銀行が加盟しています。

誤解を恐れずにいえば、地域で歴史があり規模が大きい地銀が第一地銀であり、相互銀行から銀行に転換した、県内で規模が小さい地銀が第二地銀であるといえます。

現在の加盟行は64行あります。

地銀協加盟行(地銀協ホームページ)

http://www.chiginkyo.or.jp/app/entry_file/about03_20170919.pdf

地銀協加盟行の中間決算概要

以下、(第一)地銀の2017年9月中間決算の概要について、地銀協の発表を引用します。

 

1.損益

コア業務純益
資金利益、役務取引等利益が前年同期とほぼ同水準、その他業務利益(金融派生商品収益等)が減少し、コア業務純益は前年同期比▲3.7%(▲204億円)の5,359億円。

業務純益
コア業務純益の減少に加え、国債等債券関係損益が損超に転じたことから、業務純益は▲13.9%(▲856億円)の5,316億円。

経常利益
業務純益は減少したものの、株式等関係損益の益超幅の拡大、不良債権処理額の減少により、経常利益は+0.1%(+5億円)の6,650億円。

中間純利益
4,817億円(+2.6%[+123億円])。 


2.資産・負債
○貸出金(平残):192兆7,878億円(+7兆5,256億円[+4.1%])
○有価証券(平残):70兆6,517億円(▲4兆7,082億円[▲6.2%])
○預金(平残):255兆1,850億円(+6兆8,118億円[+2.7%])

※係数は地銀64行の単体ベース、( )もしくは[ ]内は前年同期比

 

地銀協の発表では、国債等債券の売却損益を除いた本業の利益である「コア業務純益」は前年同期比▲3.7%となっています。

すなわち、地銀の業績が厳しいといわれていますが、本業の利益減が▲5%にも満たない減益幅ですから大きな減益幅ではないと考える人もいるでしょう。

そして、経常利益は前年同期比で横ばいです。株式等関係損益で利益超過となったことを主因とし、業務純益(≒一般企業の営業利益)段階では減益だったものが、経常利益段階では前年同期比で横ばいとなっています。

結果として中間純利益(最終利益)は+2.6%の増益でした。

以上をみると、地銀の中でも規模の大きい第一地銀は、経営が厳しいとまではいえないようにみえます。

では、もう少し決算の詳細についてみていきましょう。

地銀協加盟行の中間決算のポイント

コア業務粗利益(=一般企業の売上高に相当、業務粗利益から国債等債券関係損益を控除したもの)は前年同期比▲1.7%となりました。

コア業務粗利益の前年同期比較は以下の通りとなります。

 

コア業務粗利益 16,875億円(前年同期比▲1.7%)

うち、資金利益 14,710億円(同▲0.0%)

うち、役務取引等利益 2,128億円(同+2.8%)

うち、その他業務粗利益 37億円(同▲90.5%)

 

ここで確認できるのは本業の利息収入等である資金利益(貸出利息、有価証券の利息配当金等) が前年同期比で横ばいとなっていることです。

地銀はマイナス金利政策の影響もあり貸出での収益確保が難しいはずです。横ばいということに違和感を感じられる方もいらっしゃるでしょう。

では、この資金利益の構成要素をみてみましょう。

 

資金運用収益 16,007億円(前年同期比+0.7%)

うち、貸出金利息 11,176億円(同▲1.3%)

うち、有価証券利息配当金 4,541億円(同+5.2%) 

資金調達費用 ▲1,298億円(同▲8.7%)

※資金運用収益+資金調達費用=資金利益14,710億円

 

この数値で分かるように、貸出金利息は▲1.3%(▲148億円)の減収となっています。そのカバーとして有価証券利息配当金(+222億円、国債等債券投資にかかる受取利息、投資信託の解約益等)が増加しているのです。

この貸出金利▲1.3%という数値は地銀の業績が苦しいといわれているほどにはマイナス幅が小さいにように思うかもしれませんが、事実は事実です

さて、もう一つ、地銀の今回の中間決算で特徴的な数値であった国債等債券関係損益についてもみていきましょう。

 

国債等債券関係損益 ▲60億円(前年同期比▲638億円、赤字転落)

 

この数値こそ2017年9月中間時点での地銀の決算における最大のポイントです。

前述の通り貸出金利は▲148億円の減少です。それに対して国債等債券関係損益は▲638億円の減少です。

これが地銀の決算にとって大きな影響を及ぼしているのです。

冒頭で記載しているように、中間決算では、コア業務純益(国債等債券関係損益を除いた本業利益)は▲3.7%の減少でした。

ところが業務純益(国債等債券関係損益含む)では▲13.9%の減少となるのです。

すなわち、2017年9月中間決算で地銀が本業利益で苦戦しているのは、貸出の苦戦というよりは国債等債券運用での苦戦なのです。

まずは、この事実が地銀の中間決算で押さえておくべき事実です。

次の項目では付随情報についても参考値を確認しておきます。

地銀の中間決算で押さえておくべきその他数値

以下、今回の地銀決算で押さえておくべき数値について列挙します。

<個別行の決算状況>

  • 64行中、経常利益、純利益で赤字の地銀は無し
  • 経常利益段階では増益28行、減益36行

<貸出等の利回り>

  • 貸出金利回 1.15%(前年同期比▲0.06%)
  • 預金等原価 0.89%(同▲0.04%)
  • 預貸金利鞘 0.26%(同▲0.02%)※貸出金利回ー預金等原価

<経費>

  • 人件費 ▲1.3%
  • うち、給与・報酬 ▲1.8%
  • うち、賞与 ▲3.6%
  • うち、社会保険料等 +1.4%
  • 物件費 ▲0.6%
  • うち、有形固定資産償却 +0.7%
  • うち、無形固定資産償却(※主にシステム経費) +5.3%
  • うち、預金保険料 ▲9.7%

この項目で留意すべきは、人件費は給与・賞与とも削減されているものの社会保険料が増加してきているためコスト削減としては小幅にとどまっている状況であるということです。また、物件費はシステム経費等の増加が続くものの、今回は預金保険料(銀行の破綻の際に預金者を保護する原資として積み立てられているもの)の減少により若干減少しています。

<資産項目>

  • 貸出金 1,927,878億円(前年同期比+4.1%)
  • うち、中小企業向け 812,796億円(同+6.3%)
  • うち、個人向け 570,134億円(同+4.0%)
  • 有価証券 706,517億円(同▲6.2%)
  • うち、国債 239,702億円(同▲16.7%)
  • うち、外国証券 110,340億円(同▲7.9%)
  • うち、その他の有価証券 76,377億円(同+15.8%)

この項目で確認できるように、貸出金は増加しています。中小企業および個人(両方とも不動産関連が多いでしょうが)向けの貸出が増加しているのです。

また、有価証券についてはマイナス金利となっている国債への投資は大幅に減少し、金利上昇および為替変動リスクがあり金融庁等から問題視されていた外国証券投資も減少しています。代わりにその他の有価証券(主に投資信託と思われる)の残高が急増しているという状況です。

地銀の決算の何が問題なのか

以上、2017年9月中間の地銀決算についてみてきました。

総じて、苦戦しているものの、地銀が存続できなくなるレベルではないことが分かるでしょう。

特に貸出の残高や受取利息をみると、「将来的にゆっくり縮小していく」イメージの方が数字をみる限りは正しいのです。

では、なぜ、地銀の決算が厳しいといわれるのでしょうか。

これは、時系列を追った方が良いでしょう。

ただし、先に申し上げておくと地銀は実力ベースの決算数値が露わになってきただけなのです。徐々に金利が下がっていく環境にあったために、苦労せずとも利益が出ていたものが、金利低下が行きつくところまで行ってしまったために、利益がでなくなっただけなのです。

以下数値をみてください。

 

<地銀64行の業務純益、コア業務純益の推移 >

2010年中間 業務純益7,327億円、コア業務純益6,386億円

2011年中間 業務純益6,906億円、コア業務純益6,096億円

2012年中間 業務純益7,144億円、コア業務純益5,824億円

2013年中間 業務純益6,374億円、コア業務純益6,048億円

2014年中間 業務純益6,424億円、コア業務純益5,825億円

2015年中間 業務純益6,773億円、コア業務純益6,619億円

2016年中間 業務純益6,172億円、コア業務純益5,563億円

2017年中間 業務純益5,316億円、コア業務純益5,359億円

 

業務純益は本業における利益であり、一般企業における営業利益に相当します。そして、コア業務純益とは国債等債券関係損益を業務純益から控除したものです。

業務純益は上記期間中に▲27%低下しました。一方、コア業務純益は▲16%の低下にとどまっています。これがまず重要なポイントです。

すなわち、債券の運用収益等を除いた本業の利益=コア業務純益は減少しているとはいえ壊滅的には減少していないということです。

そして、この業務純益とコア業務純益の推移には特徴的な事実があります。

それは、2010年中間以降でみた場合には、業務純益がコア業務純益を下回ることは2017年中間になるまでなかったということです。

次の数値を見てください。

 

<地銀64行の国債等債券関係損益の推移>

2010年中間 国債等債券関係損益 894億円

2011年中間 国債等債券関係損益 752億円

2012年中間 国債等債券関係損益 1,127億円

2013年中間 国債等債券関係損益 401億円

2014年中間 国債等債券関係損益 520億円

2015年中間 国債等債券関係損益 179億円

2016年中間 国債等債券関係損益 578億円

2017年中間 国債等債券関係損益 ▲60億円

 

地銀の業務純益とコア業務純益の差は、ほとんどが国債等債券関係損益の差になります。

なお、2013年中間および2015年中間は業務純益とコア業務純益の差があまりありませんが、この中間期では有価証券利息配当金について2013年が+439億円、2015年が+547億円となっており、マーケットの好調等を受けて投資信託の解約益を計上したことにより、あえて国債等の債券で含み益を顕在化させる必要がなかったということでしょう。

そして、2017年中間ではついに国債等債券関係損益が▲60億円と赤字に転じました。

これは個別行によって事情が違うとは思いますが、全体としては日本国債で含み益が顕在化できなくなってきたということでしょう。水膨れしていた、もしくはお化粧していた利益が今後は剥落するということです。

国債等の債券は金利が低下すると、価格が上昇します(この仕組みについてはこの記事では解説しません)。

すなわち、金利低下が続いている時期は、銀行は債券に投資さえしておけば、債券自体の価格が上昇するため、債券を売却すれば簡単に利益を計上することができます(本来は他にもありますが、単純化しています)。

もちろん債券を売却しても新しく購入する債券は利回りが低くなっていますので受け取る利息は低下していきます。

しかし、金利低下が続いている間は、利息で受け取るか、(前倒しで収益を計上する形で)債券自体を売却して含み益を顕在化するかを銀行が選択できたのです。

そして、地銀は全体としては国債等の債券を売却し続けることにより決算を作ってきたのです。

ずっと業務純益とコア業務純益に差があったのは、このような事情があったからです。

2017年中間はついにこの流れが途切れました。

マイナス金利政策導入により債券の価格は上昇しましたが、これ以上の金利低下は想定ができなくなりました。すなわち、債券の含み益が増大する可能性はほとんどなくなりました。

今後は債券の含み益を顕在化させたとしても、それは持続しません。含み益がどんどん減少していくだけです。

そして、地銀は全体として債券の含み益が出せなくなってきたため、決算が厳しくなってきたのです。

地銀の経営者には、景気が悪い時には金利を引き下げ(=債券投資をしていれば儲かる)、景気が回復してきたら金利が上昇する(=債券は儲からなくなるが貸出が儲かるようになる)との期待感があったのでしょう。

しかし、金融庁や日銀からの指摘通り、低金利環境は継続すると考えた方が良いのです。

そうすると債券投資でも儲からなくなり、貸出も儲からなくなってきて、地銀の決算が本当に厳しくなってくるということなのです。

地銀の状況をまとめると、以下のようになります。

  • 今までは、地銀は債券の含み益を顕在化することで利益を作ってきました。
  • ところが金利低下が下限まで到達してしまった(※マイナス金利の深堀がなければですが・・・)ため、これ以上は債券の含み益が増加することは難しくなってきており、債券の含み益を顕在化させて利益を作ることはできなくなりつつあります。
  • すなわち、地銀の経営は国債等債券投資によって実態よりも良いようにみえていた部分がなくなっていくということです。利益の水膨れしていた部分が無くなるのです。
  • では、金利が上昇して貸出が儲かるようになるかというと、そのような環境でもありません。
  • 国内がダメならば利回りが確保できる資産へ投資しようとして、外国債券への投資を増加させてきましたが、これも米国の利上げ等金利上昇リスク等があるため金融庁から実質的に制限を受けています。
  • アパートローン、カードローン等の収益が上がる分野を注力しても、これも金融庁から指摘を受けて更なる拡大は難しくなっています。
  • よって、地銀は八方ふさがりといった状況になっているのです。

今回の地銀協傘下の地銀(いわゆる第一地銀)の決算からみえてきたのは、以上のような事実です。

地銀は今回の中間決算だけをみると、そこまで決算内容は悪くはありません。しかし、今後の反転が期待できず、ゆっくりと衰退していくようにしかみえないのです。

それが最大の問題ということでしょう。 

今後は、各地銀とも独自に自行の優位性を本業で確立していかなければならないということです。スルガ銀行のような個人ローンへの特化も一つの道でしょうし、地域活性化のために様々な施策を打っていくのも一つの道です。

将来の時点で今回の中間決算を振り返ると、2017年9月の中間決算は、地銀が独自の路線を歩み始めた転換点だった評価されることになるのかもしれません。