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地銀の本来の収益が浮き彫りになった事例~栃木銀行の2017年中間決算~

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前回、銀行が「投資信託の運用で決算を作る」ことの問題点についてご説明しました。

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今回は、投資信託での運用および国債を中心とした債券運用で利益を出せなくなった場合、地銀の決算がどのようになってしまうかについて事例を挙げて考察していくことにします。

一部の地銀の経営がいかに「かさ上げ」されていたかが良くわかるのではないでしょうか。

それではみていきましょう。

栃木銀行の決算概要

今回は栃木銀行の中間決算を事例として取り上げます。
まずは、決算の概要を確認します。

<栃木銀行 2017年9月中間決算(単体)>
業務粗利益 152億円(前年同期比▲74億円
うち、国内資金利益 136億円(同▲51億円
うち、国内役務取引等利益 13億円(同+5億円)
うち、国内その他業務利益 2億円(同▲28億円

業務粗利益は一般企業の売上高に相当します。

資金利益は主に貸出から生じる利息、国債等の有価証券投資に伴う利息や配当金収入によるものです。

その他業務利益は、主に国債の売買を中心とした債券等の損益が主となります。

栃木銀行の中間決算では、資金利益が前年同期比で3割弱も低下しました。

資金利益は銀行の本業の売上です。

これが3割も低下したのです。普通の企業だったら大問題でしょう。

そして、その他業務利益は前年同期に比べて1/10以下になりました。

その他業務利益は、国債の売買損益となっていることが一般的ですので、銀行全体の決算からすれば調整項目といったところのはずですが、前年同期は30億円の収益(売上)を出していたのです。

その他業務利益は、銀行の前年同期の業務粗利益(=売上高)の1割強を占めていました。その売上がなくなっているのです。

以上の大幅な業務粗利益(=売上高)の減少により、銀行の本業利益である業務純益(=一般企業の営業利益に相当)は、28億円(前年同期比▲61億円)となりました。

これは率にすると、▲7割という大幅減益となりました。

まず、これが栃木銀行の中間決算で最初に確認しておくべき事実です。

次に、より詳細な点についてみていきましょう。

資金利益の減少理由

資金利益という貸出金利息や有価証券利息・配当金による収入が大幅に減少した要因はどのようなものでしょうか。

これは恐らく投資信託の運用の失敗によるものと想定した方が良いでしょう。

前回の記事に詳細は記載していますが、投資信託の解約益(含み益の顕在化)は資金利益に計上されます。

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貸出金利息は貸出残高もしくは貸出金利が急減しない限りは、そんな簡単には変動しません。これは国債等の債券運用でも同様です。

したがって、投資信託の運用による失敗(およびその含み損の顕在化)しか考えられないのです。

同行の決算開示資料は情報が少ないため詳細は分かりませんが、以下の点を勘案すれば間違いないものと想定されます。

<栃木銀行の資金利益減少要因>

まず、その他有価証券のうち「その他」(この中には投資信託での運用を含む)の含み損益は、2016年9月時点の▲39億円から▲28億円まで減少しています。

これは含み損を抱えていた投資信託の損失処理をしたと想定されます。

さらにその裏付けとなるのが、有価証券の残高です。

2016年9月時点では3,119億円あった有価証券(国債除く)が2,830億円まで減少しています。

これは含み損が出ている投資信託の一部を解約し、含み損を顕在化させた可能性が高いということです。

なお、同行の決算における資金利益は、もちろん本業の貸出金利の低下についても影響をうけています。

預金での調達コストはあまり変わっていません(預金は0.01%のコスト低下)ので、主に貸出金利の低下が要因となります。

2017年9月の貸出残高は18,350億円、貸出金利回は1.17%です。単純計算すると半年で107億円の利息が入ってくる計算になります。

一方で、2016年9月の貸出残高は18,687億円、貸出利回は1.27%です。こちらも単純に計算すれば半年で119億円の利息が入ってくる計算となります。

そうすると119億円-107億円=12億円程度が主に金利低下の要因で減収となっていることになります(あくまで感覚とつかむための簡易な計算です)。

加えてですが、国債についても大幅に残高を減らしています。

国債は2017年9月で1,207億円(前年同期比▲376億円)となっており、この国債の利息分が資金利益を減少させる要因として想定されます。

残念ながら同行の決算資料では「連結の」有価証券配当金しか開示がありませんが、この有価証券配当金は前年同期比で▲43億円となっています。

これが資金利益の減少となります。

単純に想定すると▲43億円のうち▲12億円は貸出金利の低下、のこり▲31億円は国債等債券運用の残高を減らしたことによる受入利息減、および投資信託での含み損処理といったところではないでしょうか。

栃木銀行の決算からみる地銀の苦悩の事例

今回の中間決算で確認できるのは栃木銀行の真の収益力です。

まず、上述の通り貸出にかかる資金利益は半年間で107億円程度です。

加えて、有価証券の利回りは1.35%(なお、前年同期は2.79%でしたから一気に含み損処理したと思われます)ですので、有価証券残高403,717百万円 × 1.35% ÷ 2(半年間のため)=2,725百万円 ≒ 27億円が資金利益に含まれる有価証券の運用による資金利益と想定できます。

同行の中間時点での資金利益は136億円であり、上記107億円+27億円=134億円ですから、おおむね計算は合っています。

そして、同行の中間期での経費は126億円でした(人件費71億円、物件費47億円、税金9億円)。

すなわち、(他運用手段よりは)比較的安定した貸出金利息107億円だけでは同行の経費は賄えません。

同行は役務取引等利益(手数料収入、個人向け運用商品販売や振込手数料等)の収入が少ないため、やはり有価証券運用で1%程度の利回り(※)を最低でも確保しなければならないのです。

4,000億円 × 1% ÷ 2(半年間)= 20億円

では、この低金利時代に1%を最低でも稼ぐことはできるでしょうか。

おそらく2018年3月期は問題ないでしょう。

なぜならば同行もおそらく保有しているであろう株式投信(投資信託の一種で株式に投資するもの)の含み益が、世界的な株高により拡大していることが想定され、含み益の顕在化が可能だからです。

ただし、中長期的なことを考えると、低金利時代に年1%をリスクを抑制しながら安定的に確保するのは難しい可能性があります。ご承知のように日本国債には、ほとんど利回りはありません。ゼロ金利政策ですから当然です。

したがって、それ以外の有価証券で運用しなければならないのですが、債券では1%を確保するのは現段階では難しいでしょう。

そのため、地銀は様々な投資信託に投資をしてしまうのです。

しかし、地銀は貸出ではプロでしょうが、株式やヘッジファンド等様々な商品に投資するプロではありません。

安定的に同行が1%の有価証券での運用利回りを確保できるかはかなり不透明なのです。

本来であれば、カードローンやアパートローン等、個人向けに相応の利息を確保できる貸出商品もありますが、こちらは金融庁からの横やりにより伸ばすのは難しいでしょう。

地銀の業績が苦戦し、解決策が見えないのは、このような状況に追い込まれているからなのです。