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中間決算事例でみる地銀の「投資信託で作る決算」の問題点

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銀行、中でも地方銀行(以下地銀)の業績が厳しいとの報道等がなされています。

これは全体でみるとその通りなのですが、地銀の決算が具体的にどのように厳しいのかを説明している報道はあまり見かけません。

一般的には、日銀のマイナス金利政策の影響で貸出金利が下がり、業績が厳しいと漠然と認識されているのではないでしょうか。

概ねはその通りなのですが、マイナス金利政策導入前から地銀を取り巻く事業環境は厳しいものがありました。

そのため地銀は様々な対応を行い、「決算を作る」ことをしてきました。

この中間期の決算では、その「決算を作ったことによる矛盾」が出てきている地銀も存在します。

今回は決算を作る手段だった投資信託での運用に注目します。

全ての地銀の情報開示が良いわけではありませんので、全体としては判然としませんが、決算発表資料である程度の把握が可能であった山梨中央銀行の事例を今回は取り上げます。

銀行決算における投資信託での運用の位置付け

投資信託といえば銀行が販売している運用商品というイメージの方が一般的です。

ところが銀行も、投資信託で運用をしているのです。

まず、前提として、なぜ銀行が投資信託で資産運用をしているのかをみていくことにしましょう。

日銀の金融システムレポートによれば地銀は2017年8月末時点で約10兆円の投資信託等を保有しています。2012年時点では2兆円強でしたから、5年程度の間に4~5倍になったことがわかります。

なお、メガバンク等の大手行は同じ時期に2倍強といったところですので地銀の投資信託への投資が急増していることが分かります。

では、なぜ地銀は投資信託への投資を行うのでしょうか。

この理由は明確です。

投資信託への投資は銀行にとって会計上のメリットがあるのです。

日本では銀行会計において私募投信(プロ向けの投資信託)は「その他有価証券」に分類されます。

この「その他有価証券」は、単純にいえば、評価(含み)損益を損益計算書には反映しなくて良いのです。

例えば、株式を投資目的で直接保有すれば株価の上下によって生じる時価の変動が、そのまま損益計算書に影響を与えます。ところが私募投信ではそのようなことがないということです。

また、私募投信は売買益(解約益)等を本業の利益である「業務純益」に計上できます。

株式の場合は、売買で儲かったとしても臨時損益(株式関係損益)となり、業務純益に通常は計上できません。

そのため、銀行にとってみれば株式を直接保有するよりは、私募投信の形にして同じ株式に投資した方が本業の収益が良いようにみえるのです(もちろん投資がうまくいき利益が発生すればですが)。

これが銀行が投資信託で資産運用を増加させてきた理由なのです。

もちろん、銀行においては取引先企業が借入を増やしてくれて、自行の預金額程度まで貸出残高が積み上がるなら投資信託で運用をする必要はないでしょう。

しかし、現在は金余りの世の中であり、貸出は儲かりません。

そのため投資信託へ頼ってしまうのです。

なお、参考までに全国銀行協会のホームページより銀行の会計で投資信託がどのような科目で取り扱われるのかについて以下お示ししておきます。

 

<調査要項と勘定科目の説明>

○資金運用収益
・貸出金利息
貸付金利息+手形割引料(電子記録債権に係る受入利息、割引料を含む)。
有価証券利息配当金
「商品有価証券」及び「有価証券」の利息、配当金、投資信託の期中収益分配金等(解約、償還時の差益を含む)。消費貸借型貸付債券の品貸料を含む。

○その他業務収益
・国債等債券売却益
国債等債券の売却益(証券投資信託の買取請求による差益を含む)、ヘッジ会計により繰延べた債券先物・オプション取引の利益の償却を処理する。
*国債等債券=国債、地方債、社債(旧転換社債および新株予約権付社債を除き、新株予約権行使・分離後の社債を含む)、投資信託受益証券および外国証券のうちこれらに準ずるもの。

出典 全国銀行協会ホームページより一部引用

https://www.zenginkyo.or.jp/abstract/stats/year2-02/account2011-terminal/guidance/

以上の通り、銀行の資金運用収益(もしくはその他業務収益だが、資金運用収益の方が主)に投資信託の解約等の利益が「有価証券利息配当金」という科目で計上されることが分かります。

これは例えば株式を投資対象とする投資信託でも同様です。

有価証券利息配当金ときけば、何となく国債等の債券運用における利息というイメージで受けとるかもしれませんが、この科目に投資信託の解約等投資利益が計上されるというところがポイントです。

銀行経営者の立場にたって考えてみましょう。

株式の値上がりによって利益が出ましたといっても株主は評価してくれないでしょう。銀行決算上、本業の利益としては計上されませんし、株式マーケットがたまたま良い時期だったかもしれないからです。

ところが「資金運用収益が増加した」となったら、株主は、貸出等銀行の「本業」で利益をあげたと受けとるでしょう。

すなわち、投資信託への運用は、本業利益が増加したように見せられるのです。

これは「決算を作る」ことに他なりません。

では、このような地銀の投資信託への傾注は問題がないのでしょうか。

以下、山梨中央銀行の事例をみていきましょう。

山梨中央銀行の決算概要

山梨中央銀行は中堅の地銀です。

ただし、県内に資金需要が乏しいのか預金29,363億円に対して、貸出金は15,322億円と約半分しかありません(2017年9月末時点)。

預金は低金利とはいえ預金者へ金利を支払う必要があります。

そのため銀行は余った預金を運用する必要があるのです。

同行では、11,650億円を有価証券で運用しています(同様に2017年9月末時点)。

この有価証券のうち、「その他」に分類されるものは5,269億円であり、外国債券を除くと4,063億円となります。この約4,000億円が同行が保有する投資信託の上限となります。

有価証券の「その他(外国債券除く)」は前年同期(2016年9月)と比べて含み益が急減しています。前年同期には144億円あった含み益が、2017年9月時点では19億円に急減しました。

この理由は正確には分かりません。決算項目の内訳が詳細まで開示される訳ではないからです。

しかし、考えられる選択肢は主に二択しかありません。

当該有価証券の「その他」を売却して含み益を顕在化(利益として決算に計上)したか、時価の減少(例=株価の下落)により含み益が縮小したか、です。

ここからは筆者の推測の域をでませんが、山梨中央銀行が保有していた投資信託のうちのいくらかは、複雑な商品となっており、相場の変動等で一挙に損失が発生するものだった可能性があります。

なぜならば、投資信託の含み益を顕在化させたならば、資金(運用)利益がかさ上げされているはずだからです。

ところが同行の決算をみてもその形跡がみてとれません。

資金利益は2017年9月中間期で14,646百万円となっていますが、これは前年同期比で▲1,884百万円と減少しています。

すなわち、投資信託の解約による利益の増加は織り込まれていない可能性が極めて大きいことになります。

一方で、臨時損益には投資信託解約損が計上されています。

2017年9月中間決算では、4,018百万円の損失が計上されており、これは前年同期比で2,841百万円の悪化となっています。

すなわち筆者の想定では、同行の投資信託での運用はうまくいかず、結果として損失処理を行ったということでしょう。

なお、同行の有価証券の残高は、前年同期比で▲1,396億円と1割以上減少しています。これは、投資信託等につき、処理を行ったということなのです。

以上が、同行が置かれている状況です。

地銀が投資信託で運用する問題点

今まで、銀行の投資信託での資産運用、すなわち「決算を作るための投資」についてみてきました。

筆者は、銀行が投資信託で運用すべきでないと言いたい訳ではありません。

貸出先がない以上、投資信託も含めた資産運用を銀行はやっていくしかないのです。

しかし、含み益がある投資信託を解約すると本業の利益がかさ上げされる会計ルールについては、問題があると考えています。

銀行経営者が恣意的に銀行決算を良く見せることができるからです。

特に、様々なアセットや戦略の投資信託で運用し、含み益が出た投資信託だけ解約し、含み損が出ている投資信託を保有し続けるだけで、決算はかさ上げされます。

これは、ただの損失の先送りです。

このような決算を許す現行の会計ルールは問題があるのではないでしょうか。

この会計ルールがあるがゆえに、業績の厳しい地銀が、リスクが高い代わりに期待リターンも高い運用に手を出すことになってしまいかねないのです。

以上が、地銀が自行資産を投資信託で運用する問題点です。