銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

おそらく誰も注目していない「銀行の休日緩和」の動き

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近時、銀行のリストラについての報道が多くなっています。

長引く低金利の影響により銀行の本業収益が厳しくなっていること、機械化投資により○○○人分の業務量を削減すること、人員数そのものを減らすこと等がメガバンクの名前と共にマスコミから解説されています。

そのような環境下、金融制度のあり方に関する検討を行うべく金融審議会(金融制度、金融資本市場等に関する重要事項の企画・立案について横断的に調査審議することを目的に設置された、内閣総理大臣、金融庁長官および財務大臣の諮問機関)が2017年11月16日に開催されました。

この審議会では、ITの進展等を踏まえた金融制度のあり方について議論がなされました。新聞等では「業態毎に法令が存在し、業態を横断したビジネスの障害になりかねない」等の議論がなされたと報道されています。

ほとんど報道されていないようですが、この審議会では「銀行の休日」についても議論がなされたようです。

銀行の休日といえば、店舗が土日に開いておらず不便だとお感じになった方は多いでしょう。今回の銀行の休日に関する議論は顧客にとって利便性が高まるということなのでしょうか。

今回は銀行の休日に関して考察していくものとします。

銀行はなぜ休日に休んでいるのか

そもそもなぜ銀行は土日・祝日に店舗を開けていないことが多いのでしょうか。

まずはこの大前提を確認してみましょう。

銀行は休日が法令で定められている数少ない業態です。

まずは銀行法の該当条文を確認します。

<銀行法>
(休日及び営業時間)
第一五条 銀行の休日は、日曜日その他政令で定める日に限る。
2 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。
(臨時休業等)
第一六条 銀行は、内閣府令で定める場合を除き、天災その他のやむを得ない理由によりその営業所において臨時にその業務の全部又は一部を休止するときは、直ちにその旨を、理由を付して内閣総理大臣に届け出るとともに、公告し、かつ、内閣府令で定めるところにより、当該営業所の店頭に掲示しなければならない。銀行が臨時にその業務の全部又は一部を休止した営業所又は代理店においてその業務の全部又は一部を再開するときも、同様とする。

このように銀行法では休日が決められていること、加えて勝手には休業できないと定められていることが分かります。

では銀行法15条1項を具体化した政令についても確認しましょう。

<銀行法施行規則>
(休日)
第五条 法第十五条第一項に規定する政令で定める日は、次に掲げる日とする。
一 国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日
二 十二月三十一日から翌年の一月三日までの日(前号に掲げる日を除く。)
三 土曜日

この施行規則では、銀行の休日は土日・祝日、12月31日~1月3日となっていることが分かります。

この法令のため、銀行は土日、祝日、年末年始に休んでいることが多いのです。

これが銀行の休日に関する基礎的なポイントです。

銀行は休日営業はできないのか

銀行の休日が法令上決まっていることは確認ができました。

しかし、銀行といえどもサービス業です。サービス業は、顧客利便性のため、休日にも店舗を開けているところが多いでしょう。

銀行は土日・祝日等に店舗を開けられないのでしょうか。

銀行の店舗で休日の住宅ローン相談会が開かれているのをご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

銀行法、銀行施行規則の該当する条項は誤解を招きやすいのですが、この法令は銀行の休日を定めたものとは「読まない」方が正確に理解ができます。すなわち、土日、祝日、年末年始以外は「銀行を開けておきなさい(休むな)」という法令なのです。

実際に、銀行が土日・祝日等に店舗を開けることを制限する法令はありません。

これは金融庁も資料において明言しています。2016年9月15日に発表された金融庁の資料にはその旨が明示されています。
内容は以下の通りです。

<コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方>
コメントNo.8に対する金融庁の考え方
現行の法令において、金融機関が休日に営業を行うことは制限されておりません。各金融機関の判断により営業することができます。


(リンク先にある別紙1のファイルが該当ファイル)
http://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20160915-1.html

以上の通り、銀行が休日に営業することを妨げる法令は存在しないことが分かります。

(ご参考)銀行の営業時間

ちなみに、銀行の営業時間について不満を持っている方も多いでしょう。

一般の銀行は、平日の9~15時しか店舗を開けていません。

これでは会社員のように時間を拘束されている仕事に従事していると、なんとかして仕事の合間に抜け出していくしか銀行に行くしかありません。

本来であれば、平日の会社帰り、もしくは休日の買い物のついでに立ち寄り、用事を済ませたいところでしょう。

また、銀行で行う手続きは面倒で時間がかかるものが多いこと、そもそも窓口が混んでいて待たされることも業務の合間に行くことが難しい理由となります。

この銀行の営業時間は法令上で決まっているのでしょうか。なぜ銀行は平日9~15時の営業時間を拡大しないのでしょうか。

銀行の営業時間は実は法令上で決まっています。

先ほども触れた銀行法や銀行法施行規則に銀行の営業時間が定められています。

<銀行法>
(休日及び営業時間)
第一五条 
(第1項は略)
2 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。
<銀行法施行規則>
第十六条 銀行の営業時間は、午前九時から午後三時までとする。
2 前項の営業時間は、営業の都合により延長することができる。
3 銀行は、その営業所が次のいずれにも該当する場合(前項に該当する場合を除く。)は、当該営業所について営業時間の変更をすることができる。
一 当該営業所の所在地又は設置場所の特殊事情その他の事情により第一項に規定する営業時間とは異なる営業時間とする必要がある場合
二 当該営業所の顧客の利便を著しく損なわない場合
4 銀行は、前項の規定による営業時間の変更をするときは、次に掲げる事項を当該営業所の店頭に掲示しなければならない。
一 変更後の営業時間
二 前号の営業時間の実施期間(実施期間を設定する場合に限る。)
三 当該営業所の最寄りの営業所の名称、所在地及び電話番号その他の連絡先

この施行規則16条1項にあるように銀行の営業時間は(平日)9~15時です。

しかし、同じ施行規則16条2項には、銀行は「営業の都合により営業時間を延長することができ」るとされています。

すなわち、銀行は営業時間を深夜まで延長しても法令上は何ら問題はありません。

この法令は、営業時間の上限を定めているのではなく、営業時間の最低を定めているという方が正確でしょう。

ただし、2016年9月23日に銀行法施行規則が改正され、営業時間は短縮することも可能になりました。それが上記施行規則16条3項に記載されています。

銀行は「顧客の来店ニーズを踏まえ午前中を休業し、顧客ニーズの高い夕方までを営業時間とすること」「曜日によって異なる営業時間とすること」等ができるようになりました。

これは一般顧客の利便性を考慮して法令改正が行われたものではありますが、裏を返せば銀行の営業時間を短縮することもできる法令改正でありました。

金融審議会における議論内容

2017年11月16日に開催された金融審議会では銀行の休日についても議論がなされています。

関心の薄い項目ですから、話題になっていないのは当然でしょうが、金融庁のホームページに掲載されている資料には以下のように記載があります。

<金融を取り巻く環境変化に対応した規制の点検・見直し>

金融機関においては、人口減少に伴う国内市場の縮小や世界的な長短金利の低下など、金融を取り巻く環境変化が起こる中、支店網の機能・役割の見直しなど、ビジネスモデルの再構築を図っている。
こうした取組みに関して、制度面での障害があれば、除去していく必要。
例えば、店舗制度のあり方等、金融を取り巻く環境変化に対応した規制の点検・見直しを行っていく必要があるのではないか。

<銀行の例>
営業所の休日
【現状】
営業所の休日について法令で明確に規定。
・土曜日、日曜日、国民の祝日
・12月31日から翌年の1月3日
・海外営業所について、現地の休日
・営業所(当座預金業務を営む営業所を除く)の設置場所に特殊事情があり、休日とすることを金融庁長官が承認した日

出典 金融庁ホームページ

第39回金融審議会総会・第27回金融分科会合同会合議
資料1 事務局説明資料(金融制度のあり方に関する検討)4P
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/20171116-1.html

議論の過程については現時点では公表されていないようですが、資料にある通り金融庁の事務局が銀行の休日についても問題意識をもっていることは分かります。

では、この銀行の休日のあり方についての議論は「顧客」にとっては利便性が高まる方向性にあるのでしょうか。

今後の方向性

銀行の休日規制の緩和については、顧客利便性の向上につながるかは不透明です。むしろ利便性は低下する方向に動いていくと筆者は想定しています。

銀行としてはメガバンクが先鞭をつけ、店舗閉鎖、人員削減等を開始しています。

そのような中で、コストが増加する休日の店舗営業・営業時間の延長を行うかは微妙なところでしょう。

そもそも上記でみてきたように、銀行は休日営業や営業時間の延長を独自の判断でやろうと思えばできるのです。それをやってこなかったということは、今後も簡単には実現させないでしょう。

銀行の休日規制緩和については、むしろ店舗の休日を増やす方向(もしくは営業時間を短縮する方向)に向かうのではないかと筆者は想定しています。

銀行の店舗はキャッシュレス化が進展すれば更なる閉店に追い込まれていくことが想定されます。「法令で決まっている日しか休めない」店舗は銀行経営にとって重荷になってきているのです。

銀行員にとっては良い話のように聞こえるかもしれません。

しかし、そもそもキャッシュレス化の流れの中では支店の業務のかなりの部分が不要となる可能性があります。

例えば、投資信託の申し込みは店頭で頼むぐらいならネット証券で注文した方が個人にとっては簡単に行うことができます。本当に銀行の店舗は必要でしょうか。

このような環境下で銀行員は生き残りを図らなければなりません。

たかが休日の話ではありますが、銀行のビジネスモデルを考える事例でもあるのが、この「銀行の休日」の問題なのです。