(この記事は2017年8月に作成した記事を再掲しています。最新の情報を更新していない点がありますが、ご容赦ください。)
皆さんは生産緑地という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。
実は、2022年に生産緑地が宅地として大量にマーケットに供給されることにより、不動産価格の下落が懸念されています。
今回はこの問題について考察していきます。
生産緑地とは
生産緑地とは市街化区域内の農地であり、いわゆる都市部で保全されてきた農地です。
建築物の新築・増築等および宅地造成等を制限される代わりに、固定資産税、都市計画税の軽減、相続税の納税猶予等の優遇を受けています。
上記建築物の制限等は、市長村長への買取申出を行う等の一定の手続きをとらないと解除できません。
この買取申出には、農業従事者の死亡等か生産緑地告示日から30年経過するまでできないという厳しい条件がつけられています。
生産緑地の2022年問題
生産緑地は1991年施行の改正生産緑地法に基づき1992年以降指定されましたが、ほとんどの指定は1992年といわれています。
つまり上記の買取申出の条件である「告示日から30年経過」するのは2022年です。
都市部の生産緑地所有者は農業従事意向もない人が多いでしょうから、宅地転用や売却を見据えて買取申出を行い、大量の生産緑地が一気に市場に供給されることになる可能性があります。
すなわち、不動産マーケットの需給バランスが一気に崩れる懸念があるわけです。
これが「生産緑地の2022年問題」といわれているものです。
生産緑地の現状
全国では62,000地区強、13,000ヘクタール強の生産緑地が存在しています。このうち約8割が2022年に買取申出が可能となります。
生産緑地の全国合計のうち地区数の約5分の1、面積の約4分の1が東京都です。
また、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府の6都府県で全体の約8割を占めています。
東京都の生産緑地は3,000ヘクタール強(約1,000万坪)におよび、23区内だけでも約450ヘクタール(約135万坪)となっています。
東京ドーム(=4.6ヘクタール)何個分で計算すると、全国に約3,000個、東京都に700個強、23区に約100個となります。
また、東京都の場合は、農地の約2割が生産緑地であり、3,000ヘクタール強が東京都西部に集中しています。調布、青梅、三鷹のような都市化された地区でも生産緑地比率が高い自治体があります。
今後想定される事態
東京都の場合、農業従事者の平均年齢は約65歳であり、後継者がいない農家も6割以上を占めます。加えて、日本の世帯数は2020年をピークに今後は減少が見込まれています。
このような環境下では、生産緑地を賃貸住宅等にするよりは、売却し現金化した方が良いと考える所有者は少なくないでしょう。
一方で、生産緑地は住宅地に混在していることも多く、開発事業者からすると開発効率の良いまとまった規模であるため、戸建・マンション等の開発用地として有望な物件も多いのが実情です。
したがって、生産緑地が開発素地としてマーケットに大量に供給されると、既存の不動産にも価格面、賃料・空室率の面で多大な影響を及ぼす可能性があります。
このような環境下では、不動産所有者は自身の不動産の近隣に生産緑地が存在しないかを確認すると共に、場合によっては価格下落リスクを回避するために既存物件を売却する必要がでてくるかもしれません。
また、賃貸アパートへのアパートローンを供給している銀行にとっても担保物件の評価額がどのようになるか、アパートの入居率・賃料はどのようになっていくか想定する必要が発生するでしょう。
生産緑地は不動産マーケットにとって時限爆弾となる可能性を秘めているのです。