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売上高新基準(収益認識に関する会計基準)の影響

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日本の会計基準を策定する企業会計基準委員会が2017年7月20日に「収益認識に関する会計基準」の案を公表しました。

この会計基準は2021年4月1日以降に開始する事業年度の期首から適用されるとしています(強制適用)。

また、2018年4月1日以降に開始する事業年度からは新会計基準を適用することができるとしています(選択適用)。

今回は、この「収益認識に関する会計基準(新基準)」のうち、売上高にもっとも影響する点を考察します。

収益認識に関する会計基準(案)の概要

 

今回公表された会計基準案のポイントは以下の通りです。

  • 国際会計基準(IFRS)や米国会計基準で予定する新基準とほぼ同じ内容とすること
  • これにより投資家は世界的に企業を比較しやすくなること
  • 収益認識は物・サービスの支配権が移転されたかどうかであること

新会計基準導入で最も影響を受けるのは百貨店業界では?

この新基準導入で影響をうける業界の筆頭は百貨店業界でしょう。

消化仕入

 

百貨店業界には慣行として、商品が顧客に販売されると同時に仕入先からの商品仕入を認識するといういわゆる消化仕入が存在します。

皆さんが百貨店に行った際にお店に並んでいるほとんどの商品は、百貨店ではなく販売しているブランド(アパレル企業)が所有しています。

一見すると百貨店が家主で、ブランド・ショップが賃借人である通常の賃貸借関係にみえます。

ところが、店頭で顧客が商品を買ったとたんに、百貨店がブランドから一度商品を仕入れて、その商品を顧客に販売したことにしているのです。

百貨店で商品を購入すると店員さんが「お会計をしてきます」と言いながらどこかに消えていくことを疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。その場でレジを置いて会計をすれば良いのにと。

これが出来ないのは百貨店の商慣行である消化仕入をするためなのです。

百貨店がまとめてレジにて会計処理をしなければ百貨店がどの商品を仕入れて販売したのかが分からないからです。

この消化仕入という商慣行は、「優れた立地にあり、販売力の高い百貨店がブランド(アパレル等)よりも強かったころの名残」です。ブランドは百貨店に出店することこそが収益を獲得する近道でした。そのため、消化仕入という商慣行を受け入れてきたのです。

百貨店からすると消化仕入を行うことによって在庫をかかえるリスクを回避することができます。売れ残った商品はブランドが処分すれば良いのです。一方で、百貨店からブランドには店頭に置く商品についてある程度指示をすることができます。百貨店では在庫を持たないのにです。

これが、いかに百貨店に有利な商慣行かがお分かりになったでしょうか。 

消化仕入の会計処理

現在の日本会計基準では、百貨店は消化仕入を行っていても店頭での販売額をそのまま売上計上しています。

ところが新会計基準ではこの会計処理は認められません。百貨店はブランドの販売代理人の扱いとなり、販売額から仕入額を差し引いた百貨店の利益部分のみを手数料として売上計上することになります。

IFRSを導入したJ・フロントリテイリングは2018年2月の売上高見通しを、日本基準で公表していた前期(2017年2月期)の約6割減と公表しています。日本基準では1兆1,000億円超(2017年2月期)あった売上高は、IFRS基準だと約4,500億円になってしまうということです。

新会計基準の導入が百貨店に与える影響が大きいのがお分かり頂けたでしょうか。 

その他影響を受ける業界

新会計基準ではメーカーが小売店向けに販売奨励金(いわゆるリベート)を支払っている場合に、リベート部分が売上高に計上できないことになります。

ポイントを発行している企業も同様です。

ただし、より大きな影響があるのは返品という商取引が存在している業界でしょう。

分かりやすいのは書店業界と医薬品業界です。

書店に訪れると山積みのたくさんの本に出会えます。あの本のほとんどは書店が仕入れていますが、実際は返品可能です。在庫リスクがないからこそ、あれだけの量の本を書店は陳列しておけるのです。書店の書籍での販売利益率(粗利益率)は2割程度でしょうから、書店の売上高も、代理人としての扱いとなって下落することになるでしょう。

他に大きな影響を受けそうなのは医薬品業界です。

製薬企業は医薬品卸に医薬品を販売しますが代金の回収は「落差回収」としていることが多い状況です。

この落差回収というのは医薬品卸業者が調剤薬局等へ販売した部分のみ代金回収請求を行っている商慣行で、消化回収とも言われます。これだと販売代金の請求が確定するまでに今後は収益を認識することはできないでしょう。

また、医薬品卸売は調剤薬局等に薬品を納入していますが、調剤薬局等から使用期限切れになりそうな医薬品は返品が可能になっています。また、医薬品という商品は直接に生命にかかわるものであるため社会的観点から納入停滞が許されないという考えがあり、商品納入価格が妥結していなくても納入だけを先行するという商慣行があります。この返品や仮納入についても医薬品卸や調剤薬局ともに新会計基準の影響を受けるでしょう。 

結果として影響は大きいのか

新会計基準の導入により企業の売上高や収益認識時期には影響が出てきます。

しかしながら、本質的に大きな問題が発生するかというとそのようなことにはならないでしょう。

銀行から見た場合は、企業の格付を付与する際に、売上高営業利益率を評価している、もしくは売上高(規模)基準で企業を評価している場合は、売上高が急減する百貨店業界等への格付付与のプロセスを見直す必要はあります。

ただし、企業の格付付与は財務内容および利益をベースにしていることが多いと思われますし、会計基準が変わっただけであり企業の本質も変わっていません。

よって本件については大きな影響はないものとみています。

留意点としては、この会計基準の導入により消化仕入、返品等の日本特有の商慣行が見直されるきっかけとなる可能性はあるものと思います。

特に百貨店業界にとっては、不動産賃貸業となるのか、小売りとして在庫リスクをかかえるようなビジネスに転換していくのか、改めて考えさせられる契機となるのではないでしょうか。