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金融庁の金融行政方針(平成29年度)のポイント~地方銀行への影響~

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2017年11月に金融庁が金融行政方針を発表しました。

この金融行政方針は今後の金融行政が何を目指すか、その方向性を捉える資料となり、銀行経営にも多大な影響があります。規制業種である銀行は「官」を無視できないのです。
今回はこの金融行政方針の内容を確認すると共に、今後、銀行業界(特に地方銀行)にどのような動きが想定されるかを考察します。

金融行政方針とは

金融行政方針とは、金融庁が「金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向け、いかなる方針で金融行政を行っていくかを、毎年公表している」ものです。

この内容をみていくと金融庁がどのような分野、領域に問題意識を持っているのか、どのような方向へ銀行を変えていこうとしたいのかが分かります。

銀行員にとっては、自分の銀行にどのような影響が出そうなのか、自分の働き方は今後どのように変わっていきそうなのかを、把握するために有用です。よって、金融行政方針は、是非とも内容を確認しておく必要があるでしょう。

金融行政方針の内容

以下、金融行政方針の文面につき筆者が注目すべきところをピックアップします。

その後「→」以降で内容につき補足します。
また、文末の括弧内の数字は金融行政方針の対象ページを表示します。

それではみていきましょう。

 

「顧客本位の業務運営に関する原則」の策定以降、多くの金融機関が同原則を採択して取組方針を策定したが、今後、モニタリングを通じ、金融機関の取組方針が真に顧客本位のものとなっているかについて確認する。モニタリングを通じ、金融機関が顧客に対し長期的にリスク・手数料等に見合ったリターンを提供しているかなどを示す、金融機関間で比較可能な KPI 等の公表による金融機関の取組みの「見える化」を一層進める。こうした KPI 等の公表を通じて、単純な手数料引下げ競争ではなく、顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供に向けた金融機関間の競争を促していく。モニタリングで把握した結果については、対象金融機関にフィードバックするとともに、全体の傾向や取組事例等をとりまとめて公表する。
さらに、多くの金融機関は多数の営業担当者を擁し、必ずしも顧客本位ではなく収益を優先して需要を掘り起こすプッシュ型のビジネスモデルとなっているとの指摘があるが、モニタリングでは、金融機関が掲げている顧客本位の取組方針について、現行の営業体制等を維持しながら実現することが可能かどうかについても、必要なデータを収集し、分析・検証する。(P9~10)

→当該項目が、筆者は一番大事なポイントだとかんがえています。

簡単に言えば、銀行は顧客本位の業務運営をしていないと金融庁は指摘しています。そして、KPIのような指標を策定・公表し、金融機関が顧客本位の「良質な」サービスを提供しているかを銀行間で比較可能にするとしているのです。

さらに、多くの金融機関が多数の営業担当者を抱え、収益を優先して需要を掘り起こすプッシュ型(押し込み、押し売り)のビジネスモデルとなっていると指摘しています。

ここまで来るとすさまじい皮肉ですが、さらにこの現行の営業体制で顧客本位の営業がそもそも可能なのか、分析・検証するとしています。

本当に、このように金融庁が対応してきた場合、多くの銀行員を苦しめていた目標・ノルマについても見直されるきっかけとなる可能性はあるかもしれません。

 

投資初心者にとって有益な意見や情報を発信している個人ブロガー等との意見交換の場を設けるほか、ネットメディアに対しても的確に情報発信を行っていく。(P10)

→このブログをご覧になっているブロガーにも、もしかしたら金融庁から接触があるかもしれません。

 

高齢投資家の保護については、これまでも販売会社における態勢整備が進められているが、フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学※)の進展も踏まえ、よりきめ細かな高齢投資家の保護について検討する必要があると考えられる。(P11)
※筆者注 ファイナンシャル・ジェロントロジーとは、高齢者の経済活動、資産選択など、長寿・加齢によって発生する経済課題を、経済学を中心に関連する研究分野と連携して、分析研究し、 課題の解決策を見つけ出す新しい研究領域です。

高齢者への投資信託の販売等について更なる規制がかかる可能性が高いということです。

 

コーポレートガバナンス改革については、2014 年のスチュワードシップ・コード策定(2017年改訂)、2015年のコーポレートガバナンス・コード策定など、各般の施策を講じ、改革の枠組みは整ってきているが、一方で、以下のような指摘がなされている。
経営者の資本コストに対する意識が不十分であることから、経営環境の変化に応じた事業選択などの果断な経営判断が行われていない。
現預金が積極的な設備・研究開発・人材投資などに有効に活用されておらず、現預金が内部留保とともに増加している企業も多い。(P11)
法人営業に携わる銀行員にとってはビジネスチャンスかもしれません。資本コストについての勉強会、M&Aの増加、現預金の使い道等について提案する機会があるということです。

 

このような金融環境にあって、例えば、預金取扱金融機関の収益は、貸出利鞘や有価証券利鞘が縮小傾向にあり、特に、この1年においてマイナス金利等により国内の銀行業務の収益性は低下している。また、保険会社においては、生産年齢人口の減少等により、伝統的な国内保険市場の縮小が予想されている。こうした構造的な変化に直面している我が国金融機関には、持続可能なビジネスモデルの構築が課題となっている。他方、過去 20 年間我が国で続いた低金利環境が反転し、金利が上昇する場合、特に地域金融機関で拡大してきた有価証券運用のリスクが顕在化する可能性がある。加えて、低金利環境の継続を前提とした貸出についても、経済・市場環境の変化により信用コストが発生する可能性がある。また、米欧で金融政策の正常化が進む中、レバレッジが拡大している民間非金融部門の債務支払能力の悪化や、不動産やハイイールド債等のリスク性資産価格の変動など、予期せぬ経済・市場の変化に対しても、その健全性が維持されるよう、我が国の金融機関には適切なリスク管理が求められている。このように、我が国金融システムは、低金利環境の継続と金利上昇という両方向のリスクに直面した課題を抱えている。
さらに、IT 技術の進化やイノベーションの進展により金融を取り巻く競争環境が構造的に変化する中、これまで金融機関が担ってきた金融サービスが分化され(アンバンドリング)、非金融サービスと組み合わせたサービスが提供される(リバンドリング)など、顧客情報に根ざした新しい金融サービスの提供を巡る競争が激化する可能性がある。このように、広範な店舗網や巨大な IT システムといった従来の競争上の力の源泉が負のレガシーアセット化するような大きな環境変化に直面している。(P16)
銀行は低金利環境の継続と金利上昇という相反するリスクを両方とも意識しながら経営されなければならないという指摘です。

そして、フィンテック等により店舗網、銀行の現在のシステム等が負の資産となるとしています。これが、近事相次いで報道されているメガバンクのリストラに繋がっていく認識です。


金融庁は、先に述べた厳しい経営環境の下、多くの地域金融機関にとって、単純な金利競争による貸出規模の拡大により収益を確保することは現実的ではなく、持続可能なビジネスモデルの構築に向けた組織的・継続的な取組みが必要である旨発信してきた。
こうした中、直近の 2017 年3月期決算では、顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)から得られる利益は、過半数の地域銀行でマイナスとなっており、今後も低金利環境の継続を前提とすると、当該利益がマイナスになる金融機関が年々増加することが予測される。(P17)
→ここでは、貸出と手数料収益では営業経費を賄えない地域金融銀行が過半であると指摘しており、ビジネスモデルとして持続可能ではないとしています。

 

顧客である地域企業をみると、厳しい経営環境に直面する中で、経営改善や事業再生、事業承継等が必要な企業が多数存在している。こうした地域企業の中には、例えば、どのような経営計画・戦略を描き、それをどのように実現し、その実現のためにはどのような人材を確保すればよいのか、また、適切なファイナンスとは何か、などが分からず、自身の価値向上が実現できていない先も多いと考えられる。また、企業アンケート調査の結果によれば、地域銀行は、総じて、こうした企業への金融仲介の取組みが不十分であるなど、「日本型金融排除」が生じている可能性が窺われた。地域企業の真の経営課題を的確に把握し、その解決に資する方策の策定及び実行に必要なアドバイスや資金使途に応じた適切なファイナンス(短期継続融資、メザニン等の資本性資金、公的金融との協調等を含む)の提供、必要に応じた経営人材等の確保といった支援を組織的・継続的に実践し、地域企業の適切な競争環境の実現に取り組むことが、ひいては自身の持続可能なビジネスモデルの構築につながる地域金融機関は多いと考えられる。(P18)
事業再生・事業承継について地方銀行は力を入れるべきとしています。さらに「日本型金融排除」(※)が生じている可能性が窺われるとしています。
※高い信用力の企業に優先的に貸出を行い、信用力は低いものの事業の将来性が高い企業には融資しないという銀行の貸し出し態度のこと

持続可能なビジネスモデルの構築に当たっては、地域金融機関の経営者に高い経営能力が求められる中、不確かな経営環境の改善を期待し将来起こりうる課題を認識できていない、若しくは、課題を認識できていながらも具体的な取組みを見出せていない経営者が少なからず存在するなど、ガバナンスの発揮に課題が認められる。(P18)
→ここまではっきりと記載されると驚くしかありませんが、地域金融機関の中には経営能力の低い経営者がいると指摘しています。

 

金融仲介の取組みについて十分な情報開示が行われることは、顧客が自らのニーズや課題解決に応えてくれる金融機関を主体的に選択することを可能とし、ひいては、良質な金融サービスの提供に向けた金融機関間の競争の実現にもつながる。
また、これまでのモニタリング等からは、地域金融機関の中には、顧客企業の価値向上につながる有益なアドバイスやファイナンスを提供し、結果として安定した顧客基盤を築いている先がある一方で、地域企業の経営改善・生産性向上に向けた具体的な施策が定まっていない先があるなど、金融機関の取組みにバラツキがあることが確認された。このため、以下の取組みを実施する。
a) 「金融仲介機能のベンチマーク」を発展させ、各金融機関の金融仲介(企業の価値向上支援等)を客観的に「見える化」できる統一された定義に基づく比較可能な共通の指標群(KPI)を策定し、当該KPIも活用しつつ、地域金融機関と深度ある対話を行う。また、金融機関間で顧客本位の競争が実現するよう、KPIに基づき収集された結果を含めた開示のあり方についても検討を進める。
b) KPIや企業アンケートの調査結果等を活用しつつ、地域金融機関の事業性評価に基づく融資や本業支援等の組織的・継続的な取組みについて、優良な取組みを実践している金融機関の表彰・公表を行う。(P19)
地域銀行間を比較できる指標をつくり競争を促すということです。そして、担保や保証ではなく事業そのものの将来性などを評価する事業性評価による貸出、企業の本業への支援を行う地域銀行を表彰するとしています。


地域の金融機関や企業等関係者を対象としたシンポジウム等を活用することにより、引き続き、地域の資本市場やベンチャー投資を巡る現状や課題について幅広く意見交換を行うとともに、成長マネーやノウハウの供給に係る取組事例の紹介・共有等を図る。これを通じ、地方の企業が様々な資金調達手段にアクセスできる環境を提供し、その潜在的な成長力を引き出すことに努めるとともに、ベンチャー企業への成長マネーやノウハウの供給の更なる円滑化、ベンチャーキャピタルによる助言力強化のための環境の整備に取り組む。(P20)
地方銀行はベンチャーキャピタルのような役割、もしくはベンチャーキャピタルとの橋渡しまで対応すべきということでしょう。

 

こうした中、金融機関においては、ビジネスモデルの変革や経営統合などにより、将来にわたって自らの経営の健全性を維持するための取組みが見られる。地域経済にとって、将来にわたり健全で適切な金融仲介機能を発揮できる金融機関が存在することは重要であり、経営統合もそのための一つの選択肢であるが、他方で、同一地域内の経営統合については、金融サービスの供給者数の減少による現時点における寡占・独占のリスクが指摘されている。
地域において、人口減少等により自然に金融サービスの供給者数が減少することが想定される中、将来にわたって健全な金融機関が存在し、地域の企業・住民に適切な金融サービスが提供されることを確保する観点から、金融行政上の課題について、競争のあり方も含め検討する必要がある。
→これは、最近報道されている公取委との擦り合わせのことを示しています。金融庁としては地方銀行の経営統合を推進したいが、独禁法との絡みもあるという悩ましさが表れている文面です。

 

(ア) 顧客向けサービス業務から得られる利益がマイナスとなっている地域銀行の多くは、当期純利益の確保に向けて、有価証券運用による収益への依存を一段と高めており、その結果、金利リスク量が増加している。こうした銀行の中には、
・ 投資信託の解約益や債券・株式等の売却益に大きく依存している、
・ 将来的に大きな含み損を抱えるリスクを十分考慮せず、残存期間が極めて長い債券等への投資を拡大している、
・ リスクテイクに見合った運用態勢やリスク管理態勢が不十分であり、専門人材の育成や確保等を含めた態勢の強化を図る必要がある、
といった事例も認められる。こうした銀行においては、含み益や自己資本に十分な余力がない場合、市場環境が急変し損失が顕現化すれば、将来的に財務の健全性を更に悪化させるおそれがある。
このため、経営トップの主体的な関与によるリスクガバナンスを含めた運用態勢の強化、含み損も意識したリスクのモニタリングとコントロール、市場急変時を想定した対応策の事前検討等について、金融機関と改善に向けた対話を行う。(P21)
→有価証券等運用の体制整備について金融庁はかなりの問題意識を持っているのでしょう。金融庁は、簡単に決算を操作(いわゆる益出し、含み損先送り)しないように厳しく指導し、長期の債券投資も見直しを促す可能性があります。

 

(イ) アパート・マンションや不動産業向け融資が増加傾向にあることから、不動産市況や地域金融機関の融資動向を注視しながらモニタリングを継続する。その際、アパート・マンション向け融資に関しては、将来的な賃貸物件の需要見込み、金利上昇や空室・賃料低下リスク等を借り手に十分説明できているかなどについて、引き続き対話を行う。(P22)
→アパートローンについては引き続きブレーキがかかりそうです。特に地方銀行には金利上昇、空室、賃料低下(特に、業者のサブリース案件における賃料保証)を借入人に説明することが求められます。

 

経営環境が厳しさを増す中にあっても、金融機関の中には、希望的な観測に頼った経営を行っている先や、現在のビジネスモデルの持続可能性に大きな懸念があるにも関わらず必要な経営改革を行わず、また、社外取締役・株主等外部からの牽制機能も働いていない先が存在するなど、持続可能なビジネスモデルの構築に向けた取組姿勢や取組内容にはバラツキが見られる。このため、経営課題の解決に向け、経営陣はもとより、社外取締役をはじめとする、様々なステークホルダーによるガバナンスが機動的かつ効果的に発揮されているかといった観点から、個別金融機関の実態を調査し、それを基に深度ある対話を行う。(P22)
→地方銀行に関するガバナンス改革が金融庁から仕掛けられる可能性があります。社外取締役だけではないのかもしれません。

 

金融行政方針から見えてくるもの

今回の金融行政方針はかなりのページを地方銀行に割いています。

金融庁の問題意識は現在地方銀行にあるといって間違いないでしょう。

地方銀行が対応していくべきは、地元の企業にしっかりと向き合うということです。

ただし、地元の企業といっても様々な事業ステージ、規模、財務内容があり、千差万別です。金貸しの立場からは、非常に難しいことを金融庁は地方銀行に求めているといえるでしょう。

特に、担保に頼らず地元企業の事業を評価して資金を融通していくこと、事業承継を支援していくこと、本業を支援することなどが、今以上に求められるようになってくるのです。

また、銀行全体としては、顧客本位の営業体制をいかに構築するかが問われるようになってくるでしょう。

銀行にとっては企業風土そのものを変えるように迫られる可能性すらあるということです。