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接待の帰りに事故にあったら労災になるのか~理不尽だけど現実~

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接待がなぜ労働時間=残業にならないのかという記事をアップした際に、「では接待の帰りに事故にあったら労災にならないのか」という趣旨のご質問をいただきました。

今回は、この接待と労災の関係について整理します。

(前回記事)

www.financepensionrealestate.work

労災とは 

労災(正確には労働災害)とは、労働者の業務上または通勤途上の負傷・疾病・障害・死亡のことです。

大きく分けると業務災害と通勤災害に分けることができます。

この労災に該当したと認定されると労働災害保険の給付が受けられます。

業務災害

業務災害とは、労働者が業務を原因として被った負傷、疾病または死亡 (以下傷病等)をいいます。

業務と傷病等との間に一定の因果関係があることがポイントです。 

特に留意すべき点は、事業主の支配下にはあるが管理下を離れて業務に従事している場合です。

事例としては、出張や社用での外出などにより事業場施設外で業務に従事している場合が該当します。

事業主の管理下を離れてはいるものの、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているときは事業主の支配下にあることになります。

この場合、積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。

この私的行為とは、出張や外出中に私的に病院に行く(もっとわかりやすい例だとパチンコに行く)ように、業務とは関係のない行為をいいます。

通勤災害

通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等をいいます。

この場合の「通勤」とは、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復、就業の場所から他の就業の場所への移動、もしくは単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。

単純にいえば、自分の家から仕事をする場所までの間を移動することでしかありません。

移動の経路を逸脱し、または中断した場合には、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤 」とはなりません。

ただし、例外的に認められた行為で逸脱または中断した場合には、その後の移動は通勤災害と認められることがあります。

「合理的な経路および方法」とは、移動を行う場合に、一般に労働者が用いると認められる経路および方法をいいます。

「合理的な経路」については、通勤のために通常利用する経路が複数ある場合、それらの経路はいずれも合理的な経路となります。
また、当日の交通事情により迂回した経路、マイカー通勤者が駐車場を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ず通る経路も合理的な経路となります。
合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合は、合埋的な経路とはなりません。

 「往復の経路を逸脱し、または中断した場合」の「逸脱」とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは通勤の経路上で通勤と関係のない行為を行うことをいいます。具体的には、通勤の途中で映画館に入る場合、飲酒する場合などをいいます。
しかし、通勤の途中で経路近くの公衆トイレを使用する場合や経路上の店でタバコやジュースを購入する場合などのささいな行為を行う場合には、逸脱、中断とはなりません。

通勤の途中で逸脱または中断があるとその後は原則として通勤とはなりませんが、これには法律で例外が設けられており、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び通勤となります。

※厚生労働省令で定める「逸脱」、「中断」の例外となる行為

①日用品の購入その他これに準ずる行為

②職業訓練(一定の制限あり) 

③選挙権の行使

④病院等での診察もしくは治療を受けること

⑤要介護状態にある家族の介護 

接待の位置付け

接待は前述の「業務」 に基本的には該当しません。

以下、有名な判例として高崎労基署事件(前橋地判昭和50.6.24、冒頭の記事に記載しています)を挙げます。

この裁判では、ゴルフコンペへの出席が「単に事業主の通常の命令によってなされ、あるいは出席費用が、事業主より、出張旅費として支払われる等の事情があるのみではたりず右出席が、事業運営上緊要なものと認められ、かつ事業主の積極的特命によってなされたと認められるものでなければならないと解すべき」と判じました。

(判決文)

https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/05164.html

この判例をみると分かる通り、特に接待が労働時間として認められるかは、「事業運営上必要」であり、かつ「使用者≒上司から積極的に命じられる」必要があるようです。 

この事業運営上必要という観点では、通常の接待の場で契約の話をして、後日、実際に契約となったとしても、接待での会話は間接的な寄与でしかないでしょう。

しかし、一方で、ゴルフコンペや宴席で「実際に業務を行うのであれば」労働時間としては認められるということです。

接待でも法的な労働時間となる場合

接待に付随する下記の時間は「法的な労働時間」に含まれます。

  • 宴会等の会場準備
  • ゴルフコンペの運営(例:スコアの整理、賞品の準備)
  • お客様の送迎

これは、昭和45年6月10日の労働局の裁決等が元になっています。この労働局の裁決は以下の通りとなっています。

「単なる懇親を主とする宴会は、その席においてなんらかの業務の話題があり、その円滑な運用に寄与するものがあったとしてもその席に出席することは、特命によって宴会の準備等を命ぜられた者、または出席者の送迎にあたる自動車運転手等のほかは原則としてこれを業務とみることはできない。」

よって、すべての接待が労働時間=残業と認められないわけではありません。

しかし、認められるのは、ゴルフでいえば「いわゆる背広幹事」(スーツ姿でゴルフ場に行きプレーをせずに円滑な進行のみを担うこと。少々古いでしょうか・・・)、宴席であれば飲食をせずに会場のセッティング、司会、案内、配膳を行う場合等、非常に限定的でしょう。

接待の帰りに事故にあったら労災になるのか

今までみてきたように、通常の接待(ゴルフ、宴席)の場合は、労働時間に該当することはほとんどないでしょう。

ポイントは、接待が業務とほとんど認められないということです。

よって、接待の帰りに事故にあっても、ほとんどの場合、労災にはなりません。

一方、もし万が一にも接待の帰りの事故が労災と認められることはないのでしょうか。これは、接待が業務であるとさえ認められるならば、通勤災害として認められる可能性が高いと想定されます。(宴席後に酔っぱらって関係ない電車の路線に乗ってしまい、そこで事故にあったというようなことがない場合)

では、仮にどのような事象だと接待が労働時間だと認められるでしょうか(上記の会場のセッティング等の場合を除く)。

例えば、ゴルフの目的が会社にとって重要な人物に対する接待であり、ゴルフの最中に商談が予定されていて、特定の従業員が必ず参加しなければ意味がなさず、上司から出席を強制されている事情が認められる場合には、接待ゴルフの時間も労働時間と認定される可能性もあるでしょう。

イメージとしては、トランプ大統領をゴルフ接待して、クラブハウスで日米首脳会談をやるようなもんでしょうか。

なかなか現実的には難しいようです。

筆者の感覚でしかないのですが、この接待が労働時間に該当しないというのは社会通念上、違和感を感じられるような社会になってきたのではないかと感じています。

今後は、接待は労働時間に該当させる必要があるのではないでしょうか。(会社にとっても、行政・立法にとってもです。)