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受益者連続型信託は遺産分割協議の対象外となるのか~遺留分に関する疑問点~

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大和ハウス工業グループが信託会社を設立したと発表しました。

この信託会社を設立した目的のひとつに顧客の相続対策があるとしています。

このような信託会社は大東建託、スターツコーポレーション、積水ハウスも設立しており顧客の相続対策ニーズが高いことが伺われます。

これらの企業の子会社である信託会社は遺言の代用として受益者連続型信託を扱っています。

この受益者連続型信託は遺産分割協議の対象とならない、すなわち相続人の遺留分の対象とならないと一部の会社ではホームページに掲載しています。

これが本当だとすれば、この受益者連続型信託を利用すればかなりの影響があるかもしれません。

今回は、この受益者連続型信託が本当に遺産分割協議の対象とならないのかについて考察します。

大和ハウス工業グループのプレスリリース

まずは業務を開始することを発表した大和ハウス工業の信託会社設立に関するプレスリリースを掲載しておきます。

大和ハウスグループの大和リビングマネジメント株式会社(本社:東京都江東区、社長:明石 昌)は、賃貸不動産オーナーさまの資産管理および安心できる承継を実現するため、管理型不動産信託会社を設立し、「ハートワン信託株式会社」として 2017 年 10 月 17 日より事業を開始します。
1.新会社設立の趣旨
お客さまのライフステージに寄り添うベストパートナーを目指し、賃貸不動産オーナーさまの資産管理と承継をサポートする新会社を設立しました。
相続対策ニーズへの対応機能を強化することにより、長期的に安定した取引関係の維持・向上を図るとともに、次世代のお客さまとも円滑な関係構築に努めます。資産管理と承継に関するノウハウの蓄積とサービスの拡充によって、高い顧客満足を得られるよう事業を展開します。
http://www.daiwahouse.com/about/release/group/20171017092110.html

このように不動産の管理と相続対策については他の信託会社でも設立の目的・サービスの効果としていることから、相続対策のためアパート建築を提案・受注するメーカーからすれば非常に顧客ニーズがあるところなのでしょう。

後継ぎ遺贈型の受益者連続型信託

上記信託会社が提供している信託が受益者連続型信託です。
この信託の定義は以下の通りです。

受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たに受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託です。

出典 信託協会

定義のように信託財産(=この場合は収益不動産)が稼ぐ利益を享受する権利を持つ受益者が死亡した場合に、次の受益者が収益を享受できるのですから、これは実質的に遺言と変わりません。
そのため遺言代用信託と呼ばれています。

この信託による受益権の承継は法律上は回数に制限はありません。

ただし、信託期間については、信託法91条により、信託がされたときから30年を経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで、または当該受益権が消滅するまでとされています。

なお、受益者連続型信託のすごいところは、信託設定時において、受益者が現存している必要はありませんので、まだ産まれていない孫や姪甥を受益者として定めておくことも可能というところです。
まだ見ぬ孫に先祖伝来の土地を受け継がせることができるのです。

受益者連続型信託の受益権は「債権」

土地総合研究所が発表しているレポートに受益者連続型信託の法的な解説が掲載されています。分かりやすいので以下引用します。

委託者によって設定された信託目的を長期間固定しつつ、その信託目的に則って信託受益権を複数の受益者に連続して帰属させることができる機能を信託の受益者連続機能と呼ぶ。
これは、二次相続以降の承継先の指定は所有権に対する制約となるのでできないが、債権たる受益権であればそれが可能であることによる。
例えば、夫が生前に信託を設定して、その生存中は自らを自益信託の受益者とし、その死亡後は他益信託に転換させ、先ず妻を、妻の死亡後は長男を連続して受益者とする旨を当初の生前信託で定めておくのである。
出典 土地総合研究2016年秋号
http://www.lij.jp/pub_t/pubt3_24_4.html

このように受益者連続型信託は債権であるからこそ所有権の制約という問題をクリアし、当初の所有者の意思に沿って「次の次に」相続することになる人物へ不動産の収益を受ける権利を渡すことができるのです。

受益者連続型信託は遺産分割協議の対象外なのか

ハウスメーカー系の信託会社である積水ハウス信託のホームページには以下の記載があり、受益者連続型信託は遺産分割協議の対象外である旨が記載されています。

例えば一次相続で配偶者に、二次相続で長男に賃貸住宅を引き継がせたいといった想いがあっても、遺言書では一次相続までしか承継者を指定できません。
このような場合、信託のしくみを利用し、第2受益者を配偶者、第3受益者を承継させたい子供に指定することで、資産に「宛名を付けて」承継させることができ、遺産分割協議を経ずに受益権として、スムーズかつオーナー様の想いに忠実に承継させることが可能です。
出典 積水ハウス信託ホームページ
http://www.sekisuihouse-trust.co.jp/trustcase/inheritance.html#archive01c

これはちょっと考えてみると驚くべき話なのです。
相続には遺留分というやっかいな問題があり、法定相続人を保護してきたからです。

遺留分とは

遺留分とは何でしょうか。
簡単に言えば、法定相続人に保障されている最低限の相続財産を受けとる権利といえるでしょう。

以下SMBC日興證券のホームページに掲載されている遺留分の解説を引用します。

遺留分とは、民法によって兄弟姉妹(甥・姪)以外の法定相続人に保障された相続財産の最低限度の割合のことをいいます。
本来、自己の財産は生前贈与や遺言によって、原則自由に処分することができますが、この遺留分制度によって被相続人の処分が一定限度で制限されています。ただし、遺留分を侵害する生前贈与や遺贈が無効になるというわけではなく、遺留分の減殺請求によって初めてその効果が覆されます。ここでいう遺留分を有する者は、兄弟姉妹とその代襲者(甥・姪)以外の相続人、すなわち子とその代襲者(直系卑属)、直系尊属および配偶者です。なお、遺留分を侵害された相続人は、侵害した受遺者や受贈者等に対して、遺留分の減殺請求を行うことができます。


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出典 SMBC日興證券ホームページ
http://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/i/J0211.html

受益者連続型信託の効果

相続の際に、迷惑をかけられたり不義理をした子供に遺産を渡したくないと考える親も中にはいるでしょう。

しかし遺言を行ってもこの遺留分については侵害ができませんでした。

財産の一部は本人の自由にはならなかったのです。

ところが前述の信託会社の説明が正しいとすれば、かなりの部分の資産を残したい、渡したい相続人に渡すことができてしまうことになります。

これでは遺留分を定めている法律が実質的に脱法されていることを許容してしまうことになります。

受益者連続型信託が遺産分割協議の対象とならない理由

信託法91条によれば、受益者連続型信託は「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め」がある信託としています。

すなわち受益者連続型信託の受益権は、相続するのではなく、消滅と新たな取得(=発生)を繰り返すだけなのです。そして、受益権は常にすでに死んでしまった委託者(兼当初受益者)から現在の受益者に渡された権利ということなのです。
単なる債権なので遺産分割協議の対象にはならないという解釈になります。

少し長いですがこれを解説しているのが以下の文書です。

信託法 91 条は受益権の移動について「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託」と定め、その効力を認めており、カッコの外書きの原則規定による信託によれば、受益者が死亡することにより受益権が消滅してしまう債権という位置づけの規定と考えると、受益権は相続財産に含まれず、受益権の移転は相続ではないとの解釈が可能となり、従って受益権は推定相続人の遺留分の対象とはならないという主張の根拠になると考えられる。
○この主張を担保するため、信託法 91 条に基づく受益権の消滅の規定により、「受益権は相続によって承継されない」、「受益権は受益者の死亡により消滅し、次順位の受益者が新たに受益権を取得する」との規定を置いておくことが考えられる。(このような考え方には、信託の活用により、遺留分制度が潜脱されることになることから認めるべきではないという学説や、一次の受益権相続には遺留分があるが、二次以降の受益権の相続は遺留分の対象にはならないとの学説もある)。
○いずれにしても、受益権の移転は、法律的には、相続ではなく債権の消滅及び発生になるという意味であり、このままでは、受益権の移転は相続税の課税対象にならないため、相続税法は、生命保険料の扱いなどと同様に、二次受益者の受益権の取得を相続と見做して、相続税を課している。
○他方、91 条カッコ内の「受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めのある信託」の定めによる受益者連続型信託とすれば、二次受益者は、委託者からではなく、直前の一次受益者から受益権を取得したことになり、この受益権の取得は推定相続人の遺留分の対象になると考えられる。
出典 土地総合研究2016年秋号
http://www.lij.jp/pub_t/pubt3_24_4.html

今後の注意点

上記の通り受益者連続型信託は遺産分割協議の対象とならない可能性はありそうです。

しかしながら法的な解釈は確定していないものと思われます。
すなわち、裁判で判決がでなければ最終的には確定しないのです。

筆者としては遺留分を実質的に潜脱可能なこの解釈は成り立つとしても、今後立法等で修正される可能性もあるのではないかと想定しています。もちろん裁判で否定される可能性もあるのです。

銀行員は、このような受益者連続型信託の財産に抵当権を設定する、もしくは受益権に質権を設定することにより貸出を行うことが将来あり得るかもしれません。

その際には、上記の問題があることを認識した上で対応することが望ましいのではないでしょうか。