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機関投資家の株主総会における議決権行使結果の開示

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機関投資家が守るべき行動規範であるスチュワードシップ・コードが2017年5月に改定されたことに伴い生命保険会社、信託銀行が株主総会における議決権行使結果について開示をしています。

今回は、この議決権行使結果の開示について背景・今後の影響を考察します。

スチュワードシップ・コードとは

機関投資家の議決権行使結果の開示は、スチュワードシップ・コードの改定によるものです。

そもそもスチュワードシップ・コードとは何かという点については、以下をご参照下さい。

スチュワード(steward)とは執事、財産管理人の意味を持つ英語。スチュワードシップコードは、金融機関による投資先企業の経営監視などコーポレート・ガバナンス(企業統治)への取り組みが不十分であったことが、リーマン・ショックによる金融危機を深刻化させたとの反省に立ち、英国で2010年に金融機関を中心とした機関投資家のあるべき姿を規定したガイダンス(解釈指針)のこと。
投資先企業の企業価値を向上し、受益者のリターンを最大化する狙いの下、機関投資家は(1)受託者責任の果たし方の方針公表、(2)利益相反の管理に関する方針公表、(3)投資先企業の経営モニタリング、(4)受託者活動強化のタイミングと方法のガイドラインの設定、(5)他の投資家との協働、(6)議決権行使の方針と行使結果の公表、(7)受託者行動と議決権行使活動の定期的報告、を行うべきとする7つの原則で構成されている。
法的拘束力に縛られない自主規制であるが、コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)として、各原則を順守するか、順守しないのであればその理由を説明するよう求めている点が特徴となっている。
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/su/A02233.html
野村證券HPより引用

スチュワードシップ・コードを受け入れた機関投資家数

2016年12月27日現在では以下の機関投資家がスチュワードシップ・コードの受け入れを表明しています。

・ 信託銀行等:7
・ 投信・投資顧問会社等:152
・ 生命保険会社:18
・ 損害保険会社:4
・ 年金基金等:26
・ その他(議決権行使助言会社他):7
http://www.fsa.go.jp/news/27/sonota/20160315-1.html
(金融庁HPより引用)

議決権行使の方針・基準

議決権行使の方針・基準を開示しているほとんどの機関投資家の基準はそこまで大きく変わりません。

基本的には、業績に関するもの、コーポレートガバナンスの体制はどうか、特に取締役が守られ過ぎていないか(退職慰労金や買収防衛策等)等の観点が入っています。

以下、大手機関投資家である三井住友信託銀行の開示している方針の一部を引用します。

なかなか機関投資家の議決権行使方針を確認する機会はないと思いますのでご参照下さい。

特に上場企業を担当している銀行の営業担当者等であれば、相対する企業の取締役がどのような株主(=機関投資家)からの圧力にさらされているかが分かるでしょう。

引用しているのは取締役の選任に関するものです。

三井住友信託銀行の議決権行使方針(抜粋)

<取締役選任>
① 取締役人数が 20 人超の場合、取締役選任に原則反対 【例外規定 1-a】
② 取締役人数の増加が著しく(10 人未満から+50%超、もしくは 10 人以上から+30%
超)、合理的な理由(合併、吸収等)がない場合、取締役選任に原則反対 【同1-b】
③ 社外取締役が不在の場合、取締役選任に反対
④ 社外取締役が 1 人の場合、取締役選任に原則反対 【同 1-c】
⑤ 3 期連続営業赤字の場合、3 年以上在任の取締役選任に原則反対 【同 1-d】
⑥ 3 期連続で業績基準を満たさない場合、3 年以上在任の取締役選任に原則反対【同 1-a、d】
⑦ 3 年連続で株価基準を満たさない場合、3 年以上在任の取締役選任に原則反対【同 1-d】
⑧ 反社会的行為に関与、監督責任等があると判断される取締役選任に反対
⑨ Ⅴ-2. 監査役人数が 8 人超の場合、取締役選任に反対
⑩ Ⅴ-2. 監査役選任議案において、監査役総数が2人以上減員または社外監査役が 2 人以上減員となり、合理的な理由がない場合、取締役選任に原則反対 【同1-b】
⑪ Ⅴ-6. 剰余金処分議案において、反対する条件に該当するものの、剰余金処分議案が付議されていない場合、再任の取締役選任に反対
⑫ Ⅴ-7. 買収防衛策の制度設計において、株主総会の決議によらず買収防衛策を導入・更新した場合、取締役選任に反対
<社外取締役選任>
⑬ 社外としての独立性が担保されていない場合、該当者に反対
⑭ 取締役会または監査等委員会への出席率が 75%未満、または確認できない場合、該当者に原則反対 【同 1-e】

【例外規定 1】
以下に該当する場合は、エンゲージメント等も踏まえた内容精査の上で、上記とは異なる行使判断を行います。
a. 過去の業績推移、現在の事業規模・業務範囲及び内容、今後の事業計画・ビジョン等
から、適正だと判断される場合は、賛成する。
b. 指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社への移行に伴う増加、減員の場合は、
対象外とする。
c. 取締役会に占める社外取締役人数割合が 20%以上である場合は、賛成する。
d. 基準を満たさない要因が、経営者要因でない(天災の発生等)、または将来の企業価
値向上に向けたリストラ損失の計上等によるものと判断される場合は、賛成する。
e. 欠席の理由が止むを得ない事情によるものと判断される場合は、賛成する。
http://www.smtb.jp/business/instrument/voting/construction.html
(三井住友信託銀行HP)

銀行員からみた議決権行使結果開示

以上、如何だったしょうか。

銀行員だと債務者区分を判定する関係や貸出の回収可能性等を把握する関係から業績を分析することは当たり前です。

ただ、今後は担当先の業績や株価が悪いとスチュワードシップ・コードを受け入れている機関投資家が取締役選任に反対してくるのです。

これは株主から選任されて今の地位にいる上場企業の取締役にとってかなりのプレッシャーとなるでしょう。

メガバンクの担当者だと系列の投信会社、信託銀行などが取引先の取締役選任議案に反対票を投じるような事象も発生します。取引先からフィナンシャルグループとしての苦言を呈され、丁寧に系列会社に説明させる必要が出てくるかもしれません。

一方で、取引先の潜在ニーズを先取りし、証券会社等とIR等の機関投資家対策について案件獲得が狙えるかもしれません。

世の中が動くときは大変ではありますがビジネスチャンスでもあります。

銀行にとって出来ることはないか、今一度考えてみるのも一考ではないでしょうか。