銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

投信等の回転売買問題

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金融庁が主要行に立ち入り検査を実施するとの記事が出ていました。

www.bloomberg.co.jp

金融庁が国内の主要な銀行などを対象に、顧客本位の投資商品を提供しているかどうかに焦点を当てた立ち入り検査を実施する方針であるとのことです。

金融庁は銀行の投資運用商品販売姿勢を今まで批判してきました。

今回は銀行の個人・リテール部門の現場で今後想定されるであろう影響についてみていきます。

金融庁の問題意識

少し長いですが2017年4月7日に開催された日本証券アナリスト協会国際セミナーでの森長官の講演録から金融庁の問題意識が把握できます。

この講演は積立NISAに適した投信がほとんどないことを指摘した点で有名ですが、それ以外にも投信販売等運用商品販売に携わる銀行員として参考になります。

以下は講演の抜粋です。

少し長い文書を引用していますが、誤解のないように掲載します。

  • 現実を見ると顧客である消費者の真の利益をかえりみない生産者の論理が横行しています。特に資産運用の世界では、そうした傾向が顕著に見受けられます。
  • では何故、長年にわたりこのような「顧客本位」と言えない商品が作られ、売られてきたのでしょうか?
  • 資産運用の世界に詳しい方々にうかがったところ、ほぼ同じ答えが返ってきました。日本の投信運用会社の多くは販売会社等の系列会社となっています。投信の運用資産額でみると、実に82%が、販売会社系列の投信運用会社により組成・運用されています。系列の投信運用会社は、販売会社のために、売れやすくかつ手数料を稼ぎやすい商品を作っているのではないかと思います。
  • これまでの売れ筋商品の例をみても、ダブルデッカー等のテーマ型で複雑な投信が多く、長期保有に適さないものがほとんどです。こうした投信は、自ずと売買の回転率が高くなり、そのたびに販売手数料が金融機関に入る仕組みになっています。
  • 本年2月の我が国における純資産上位10本の投信をみてみると、これらの販売手数料の平均は3.1%、信託報酬の平均は1.5%となっています。世界的な低金利の中、こうした高いコストを上回るリターンをあげることは容易ではありません。日本の家計金融資産全体の運用による増加分が、過去20年間でプラス19%と、米国のプラス132%と比べてはるかに小さいことは、こうした投信の組成・販売のやり方も一因となっているのではないでしょうか。
  • こうした話をすると、お客様が正しいことを知れば、現在作っている商品が売れなくなり、ビジネスモデルが成り立たなくなると心配される金融機関の方がおられるかもしれません。しかし、皆さん、考えてみてください。正しい金融知識を持った顧客には売りづらい商品を作って一般顧客に売るビジネス、手数料獲得が優先され顧客の利益が軽視される結果、顧客の資産を増やすことが出来ないビジネスは、そもそも社会的に続ける価値があるものですか?こうした商品を組成し、販売している金融機関の経営者は、社員に本当に仕事のやりがいを与えることが出来ているでしょうか?また、こうしたビジネスモデルは、果たして金融機関・金融グループの中長期的な価値向上につながっているのでしょうか?
  • 高い運用力を持つ金融機関、顧客本位が組織に根付いた金融機関が発展し、顧客本位を口で言うだけ具体的な行動つなげられない金融機関が淘汰されていく市場メカニズムが 有効に働くような環境を作っていことが、 我々の責務でありそのため行政として最大限の努力をいくつもりです。

http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20170407/01.pdf

個人のお客様に運用商品を販売してきた経験のある方はこの森長官の講演録をご覧になってどのようにお感じになるでしょうか。

銀行の現状

回転売買を指摘される銀行での運用商品販売状況はどのようになっているのでしょうか。

ここでは銀行業界最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループのIR資料から探ってみます。

<数値>※三菱東京UFJ銀行+三菱UFJ信託銀行+三菱UFJモルガン・スタンレー証券合算数値

①株式投信預かり残高

 2016年3月末時点 4.9兆円

 ↓半期販売額 0.52兆円

 2016年9月末時点 4.5兆円

 ↓半期販売額 0.66兆円

 2017年3月末時点 4.1兆円

②年金・一時払保険預かり残高

 2016年3月末時点 8.2兆円

 ↓半期販売額 0.34兆円

 2016年9月末時点 8.4兆円

 ↓半期販売額 0.39兆円

 2017年3月末時点 8.5兆円

以上の①を鑑みると、例えば、株価が動かず(=時価が変動せず)、解約もなければ、2016年9月末時点 4.5兆円の株式投信預かり残高が新規商品販売により+0.66兆円となっているはずです。ところが、2017年3月末時点の預かり残高は4.1兆円と逆に▲0.4兆円と減少しています。

この要因には、おそらく個人顧客の利益確定売りもあると想定されます。しかしながら、販売額に対して残高の減少が大きいと思われます。当該期間中には株価もそこまでの変動はしていません。

すなわち、この残高が増えない理由は、顧客に投信を乗り換えてもらっているということが想定されるのです。

銀行が商品販売手数料を得るために、顧客に乗り換えを勧めているということです。

これがより如実に見て取れるのが上記の②です。

年金・一時払保険はその商品性(長期での運用)から簡単に確約がなされるものではありません。

ところが、2016年9月末時点の預かり残高8.4兆円は、新規で0.39兆円販売されたのにもかかわらず2017年3月末時点では8.5兆円にしかなっていません。すなわち保険商品でも解約が発生していなければ計算が合いません。

この保険においても顧客の商品乗り換えがあること、そしてその乗り換えをおそらく銀行側が勧めていることが想定されるのです。

銀行員にとっての今後

現在の金融庁の動きをみていると、銀行に対して顧客への回転売買を抑制するように指導をしてくるものと思われます。

具体的には、銀行の業績評価体系を投信等運用商品販売手数料ではなく、預かり残高のような指標に切り替えるように促すということが考えられます。

今後の個人・リテール部門における営業活動はかなりの方針転換となる可能性が高くなってきているのです。

今までのようなお客様にお願いして「数字を作っていた」営業のやり方は通用しなくなるかもしれません。

これまで以上に、顧客重視の姿勢や知識等が銀行員には求められる可能性があります。

銀行員は心して自己研さんに励んでおく必要があるでしょう。