銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ドンキホーテの銀行業参入はセブン銀行モデルなのか

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ドンキホーテホールディングスは2017年6月期決算発表(グループ事業説明会)で、大原CEOが「銀行業や金融業は当然視野に入っている」と述べたとの報道がなされています。

大原CEOは「売上金は日々溜まり、集金で回収してもらう。ATMがあるなら、ATMに入れれば良い」と発言したとのことです。

今回は、ドンキホーテの銀行業もしくは金融業参入について考察します。

セブン銀行のビジネスモデル

ドンキホーテの大原CEOがATMについて言及しているため、一見するとドンキホーテの銀行業参入はセブン銀行のビジネスモデルを参考にする可能性が考えられます。

まずは、セブン銀行がどのようなビジネスモデルかを見ていきます。

セブン銀行のデータ(2017年3月期)

経常収益  1,131億円
経常利益   389億円
当期利益   268億円
ATM台数    23,368台
利用件数  796百万件(年間総利用件数)

セブン銀行とは

経常収益のうち、ATMでの受入手数料は1,037億円であり、収益の大半をATM使用による手数料が占めています。

セブン銀行は銀行ではありますが、実態はATM運営会社といえます。

他銀行のキャッシュカードを使って、セブンーイレブンに置いてあるセブン銀行のATMで現金を引き出してもらい、それに対して手数料を徴収するビジネスモデルなのです。

ドンキホーテがセブン銀行と同じビジネスをしたらどうなるか

セブン銀行の2017年3月期参考データ

  • セブン&アイグループ来店者数 2,200万人/日
  • ATM受入手数料単価 133.1円(一件あたり)
  • 平均利用件数 95.5件/日(一台あたり)

ドンキホーテの2017年6月期参考データ

  • 来店者数 91.3万人/日
  • 店舗数 368店

ドンキホーテがATMビジネスを行う場合の試算

<前提>

  • 1店舗あたりのATM台数は5台(セブンーイレブンよりも店舗が広いため)
  • 1台あたりのATMの本体価格は5百万円
  • ATMの耐用年数は5年(5年で償却)
  • セブン銀行並みの利用件数、手数料水準を確保すると想定
  • 当該シミュレーションでは人件費、ATM設置料は勘案せず

<経常収益試算>

1店舗あたりATM5台×368店×受入手数料133円(セブン銀行並み)×100件(1日あたりのセブン銀行同程度)×365日=89億円

<減価償却費>

ATM導入台数1,840台(1店舗あたり5台)×1百万円=18億円

<業務委託費、保守管理費>

ATM一台あたり93万円(セブン銀行の業務委託費+保守管理費 計218億円をATM台数23,368台数で割った数値)×1,840台=17億円

<シミュレーション結果>

経常収益89億円に対して、35億円の費用発生(減価償却費+業務委託料等、人件費・設置費用勘案せず)することから、単純計算では54億円の利益が残る結果となります。
ただし、実際にはこの通りにはいかないでしょう。

理由は簡単です。

セブン銀行はセブンーイレブンという立地の良い店舗内にATMを設置しており、実際に顧客が現金を銀行口座から引き出すニーズがあるのに対して、ドンキホーテでATMから現金を引き出すニーズは非常に限定的だと思われます。

また、セブン銀行は来客数940名に対してATMが1台ある計算(=1日あたり来客数2,200万人/ATM台数23,368台)です。

一方で、上記試算で想定した場合、ドンキホーテでは来客数500名に対してATMが1台ある計算(1日あたり来客数93.2万人/1,840台)となります。

ATM一台あたりの利用件数が半分になった場合は、上記試算では勘案していない人件費等を鑑みるとほとんど利益が残りません。

そして、セブンーイレブンとドンキホーテの店舗の性格が違う以上、セブン銀行同様の利用件数は見込めないでしょう。

ドンキホーテの想定される銀行・金融戦略

以上の筆者想定からいってドンキホーテはセブン銀行のビジネスモデルを目指しても収益は確保できません。

また、セブン銀行は海外からの労働者の母国への送金ニーズ取り込みまで志向しており、グローバルな送金インフラをも目指していますが、ドンキホーテで母国への送金を行う人はいないでしょう。

ドンキホーテは基本的には楽しんでショッピングを行う場所であり、生活必需品等が揃うインフラであるコンビニとは性格が異なるからです。

また、日本は個人の代金支払(小売店等での決済)は現金比率が非常に高いですが(クレディセゾン2017年3月決算資料によると2015年度で49.5%。なお米国は2015年度で15.8%)、今後は電子マネーの普及、フィンテック等の拡大もあり、現金での支払比率は低下してくるでしょう。

よって、これからセブン銀行のビジネスモデルでドンキホーテが銀行業に参入するのは収益確保が非常に難しいといえます。

ドンキホーテの強みを最大限に活かすのであれば、来店客に占める外国人比率の高さ等を活かした外国人向けカード事業等、銀行業以外の分野が良いのではないでしょうか。

筆者としてはドンキホーテの金融戦略について新たな発表がなされるのを注視したいと思います。