銀行員のための教科書

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不動産クラウドファンディングとJ-REITの比較

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フィンテック(Fintech)に続き不動産テックという用語を耳にするようになってきています。

不動産テックには様々な形態が出てきていますが、今回は不動産クラウドファンディングについて特にJ-REITとの比較を行いながら考察します。

不動産クラウドファンディングにかかる足元の動き

不動産クラウドファンディングではケネディクス㈱と㈱野村総合研究所が不動産を対象とした投資型クラウドファンディング事業での協業に向けて基本合意しました。

www.nri.com

両社の目的は、インターネットを通じた不動産個人投資家の募集です。

両社は、今後この仕組みに、他の不動産資産運用会社や不動産デベロッパー会社等が参画し、業界標準となることを目指しています。

これは不動産クラウドファンディングのプラットフォーマーを狙うということです。

また将来は、この事業に「人工知能やビッグデータ分析、ブロックチェーン等を応用し、投資アドバイスをおこなうロボットアドバイザー(ロボアド)などの、不動産テック事業における新たなサービスの提供をおこなう予定」とのことです。

ケネディクスおよび野村総合研究所のような動きは今後も増加していくこと自体は間違いないでしょう。

不動産クラウドファンディングの仕組み

不動産クラウドファンディングの基本的な仕組みは、不動産会社が個人等から資金を募り、その資金で物件を購入し、賃貸収入や売却で得た利益を資金提供者に還元するというものです。

資金提供者から見た場合には、少額からの投資が可能であること、J-REIT等の不動産投資商品よりも想定される利回り等の収益性が高いことから、不動産クラウドファンディングは拡大してきています。

不動産クラウドファンディングとJ-REITとの違い

不動産クラウドファンディングもJ-REITも不動産を購入・運用し、運用益を投資家に分配するスキームです。不動産は一物件あたりの投資額が多額になります。そのため、小口投資家ではなかなか購入できない投資物件を、多数で資金を出し合って購入していくということになるのです。

投資額 

個人投資家から見ると、不動産クラウドファンディングの方が最低投資額が1万円の企業がありますので、投資のハードルは低い状況にあります。といってもJ-REITも数万円程度からの投資が可能ですので大きな差はありません。

リスク分散 

J-REITは投資対象(物件)が分散しています。リスクを分散し、安定的な運用を行っていくことを目的としているためです。

一方で、不動産クラウドファンディングは現時点では個別物件に対しての案件となっていることが大多数です。物件が特定されているため、個別の物件リスク集中しているという点がJ-REITとは異なります。

流動性 

J-REITは東証に上場されているため流動性が確保されています。投資家は、いつでも好きな時に売却し、資金の回収をできるのです。

不動産クラウドファンディングは現時点では流動性はないものが大半です。期限まで資金の償還はなされません。

収益性

J-REITの利回りは3~5%程度です。

一方で、不動産クラウドファンディングの案件は5~15%程度と幅広いラインナップがあり、総じてJ-REITよりは利回りが高くなっています。

不動産クラウドファンディングとは何か

以上見てきたところを踏まえると、不動産クラウドファンディングは、小口の私募ファンドだとも言えます。私募ファンドは機関投資家向けに多数組成されていますが、不動産クラウドファンディングはその個人版といったところです。

不動産クラウドファンディングというと最先端のイメージがありますが、現在の商品自体は、インターネットを使って私募ファンドを小口化しているだけとも言えます。

不動産クラウドファンディングとJ-REITはどちらに投資すべきか

今まで不動産クラウドファンディングとJ-REITの違いについて述べてきました。

では、どちらに投資した方が良いのかと思われる読者もいらっしゃるでしょう。

筆者の考えでは、不動産クラウドファンディングもJ-REITも投資対象(用途、地域、物件の集中・分散等)、投資のやり方(出資か貸出か等)が異なるだけであり、基本的にはどちらにも投資しても良いと考えています。

両者の違いを強いて挙げるならば、J-REITは素人向け、不動産クラウドファンディングはプロ向けだとは思います。

ただし、賃料水準が伸びないため不動産マーケットが天井をつけているように感じられるマーケット環境であり、オフィスやホテルの物件が大量に供給されることが見えている現状では、物件の選別が進みかねないため流動性および安定性のあるJ-REITに投資した方が良いのではないでしょうか。

不動産クラウドファンディング で投資しても良いのは好立地の優良物件で、利回りがかなり確保できる場合ではないかと思います。

不動産クラウドファンディングの留意点 

不動産クラウドファンディングについては、筆者から見れば気になる点もあります。

上述のケネディクス・野村総研の協業のプレスリリースでは「地方創生や都市再生に貢献する可能性を秘めた不動産と、なにかを応援したいという、志のある投資家の資金をマッチングする仕組みを創出することで、個人金融資産の有効活用が進み、不動産市場の活性化につながると期待しています」とのコメントが掲載されています。

これは実質的には誰でも投資したくなるような優良な案件よりは、リスクが高い地方案件、都市の空き家再生案件等へも投資するということでしょう。そして、その投資案件に対して「なにかを応援したいという、志のある投資家の資金をマッチング」すると述べているのです。

「なにかを応援したいという、志のある投資家の資金をマッチング」ということは、「低利回り」や「高リスク」を享受しながらも地方創生・都市再生を応援したい投資家を募るということでしょう。

筆者は地方創生・都市再生は素晴らしいことだと思いますが、あくまでビジネスベースであるべきと考えています。

「なにかを応援」するのであれば「寄付型」もあるわけです。

不動産クラウドファンディング事業自体は、機関投資家・プロ投資家が購入していた不動産商品を個人投資家が購入できる機会を得られるものであり、ぜひとも拡大していって欲しいと思います。一方で、ビジネスベースではない、最初からリスクとリターンが見合っていない案件が濫造されると、今後のマーケット拡大に支障を来します。

他の不動産クラウドファンディング事業者の案件を見ても、利回りは高いもののすぐには判断がつかないような案件が多いと感じます。

機関投資家が出資を、銀行が融資を嫌がるような案件を、個人投資家に購入させるような動きにだけはなって欲しくないと思います。

銀行にとっての不動産クラウドファンディング

今後も不動産クラウドファンディングを行う不動産会社から不動産ファイナンスの案件が持ち込まれることは増えていくでしょう。

ただし、不動産テックや不動産クラウドファンディングといっても不動産ファイナンスの本質は変わりません。とにかく物件の中長期的な収益性はどうか、売却する時に購入者はいるのかに尽きます。

今後は、銀行の不動産融資を、不動産クラウドファンディングで個人投資家から集めた資金で返済する等の話がこれからは出てくるでしょう。銀行員にとっては今まで同様に不動産を見極める知見に加え、新たに不動産会社のネットでの個人投資家の募集力を見極める力が問われるようになるのかもしれません。