銀行員のための教科書

銀行員を応援するブログを目指します

アパート建築の着工減少の本当の背景は?

f:id:naoto0211:20170822220223j:image
近時は、賃貸アパートの建設やアパートローンの貸出が過熱しているとの記事や、それを金融庁や日銀が問題視しているとの記事を目にすることが多くなりました。
現状は「本当のところどうなのか」について今回考察します。

貸家着工の状況

国土交通省がまとめた6月の住宅着工統計では、貸家の新設住宅着工戸数は35,967戸となり、20ヶ月ぶりに前年を下回りました。

6月単月の着工戸数は前年比▲2.6%、4~6月は前年同期比+0.3%となっており、足元は減速傾向が強まっています。

昨年の後半あたりから金融庁・日銀が、特に地銀のアパートローンの急増問題を取り上げ問題視してきました。日銀はレポートも出しています。

この金融当局からの警告が出され始めてから、実際の建築着工が減少するまでに半年以上かかったのは、メーカーの受注が既に積み上がっていたからでしょう。

とにかく、足元では貸家建築着工は減速しているものと想定されます。

アパートローンの状況

貸家建築着工の増加が続いていたのは、2015年に実施された相続税増税が要因と言われています。この増税は基礎控除が減額されることになり、相続税の対象となる個人が増加しました。そのため相続税対策が必要となり、相続税減額効果が高い「借入による貸家建築」がさかんになりました。

実際にアパートメーカーは好業績をあげていますし、アパートローンも増加してきました。

2016年のアパートローンの実行額は3兆7,860億円と前年比+15%となっていました。

ところが足元では、日経新聞の記事(2017年8月22日付朝刊)によると、2017年4~6月のアパートローンの新規貸出額は前年同期比▲15%の7,171億円となっており、減少率は統計のある2009年以降最も大きいとのことです。

金融庁・日銀の警告が効いてきたということなのでしょう。

貸家建築の増加理由は相続税対策のためだけか?

さきほど貸家着工が増加した理由は、相続税増税が要因であると「言われている」と記載しました。

これは非常に分かりやすい説明ですし、実際に個人向けのアパートローンも増加していました。

ところが、見逃してはならない事実があります。

貸家、いわゆるアパートの建築主は個人の地主さんだと思っている方が多いでしょう。新聞の記事等でもそれしか記載がありません。

ところが、建築着工統計には、平成28年度の新設住宅における建築主別のデータがあります。

これによると平成28年度の民間貸家着工は全体で390,750戸、床面積17,999,937㎡となっています。

この内数として、会社が建築主である民間貸家着工は167,559戸、床面積6,900,714㎡となっています。

つまり、平成28年度に建築着工された民間貸家のうち、戸数ベースでは42.9%、床面積ベースでは38.3%が個人ではなく会社が建築主なのです。

この中には当然、個人の資産管理会社や個人と実質的に変わらない会社も含まれているでしょう。

それでも貸家の4割程度は会社が建築しているのです。

この事実を鑑みると、相続税対策だけが貸家すなわちアパートの増加要因ではないと判断できます。印象論に惑わされてはいけないのです。

では会社が建築主となる貸家の増加要因は何でしょうか。

これには理由を探ることができる有用なデータは見つけられません。

しかし、想定は十分に可能です。

筆者が想定する会社の貸家建築着工の増加理由は、以下の通りです。

  • 金融緩和による金利低下を背景に、本業を支える運用資産としての会社における不動産投資
  • テナント付けを行い収益物件となった段階で外部売却を行う不動産のプロの投資
  • それ以外の不動産投資が好きな企業経営者による会社の資産運用の一環

つまりただ単に個人の増税対策が理由で貸家が建築されているだけではないのです。

金融環境下では低い金利で容易に借入が可能です。運用利回りが多少低くても金利を固定化し、入居者が見込みやすい好立地の貸家物件であれば収益確保は比較的容易です。業者のサブリースを使えば手間もかかりません。

このような会社の貸家投資という要因も貸家すなわちアパートの増加問題を考える際には、忘れてはいけない要因なのです。

今後の想定

貸家については金融庁・日銀が警告を発している以上、個人が建築主の着工件数は弱含んでいくと考えられます。アパートローンという資金がなければ建物は建てられないですし、手元現金を活用できたとしても借入がなければ相続税対策としての効果が薄れるからです。

では、会社による貸家投資はどうでしょうか。
こちらも銀行の不動産業に対する貸出残高は増加しており、金融当局が問題視を始めている以上、貸出増加は見込みづらいでしょう。

また、建築した後の収益不動産としての売却をしようとしても、買主側で銀行借入が難しくなる可能性があります。加えて、不動産マーケットに過熱感がある中では不動産価格が高く利回りが低いため、買主、売主の価格目線の乖離が埋まらず、売買が成立しない可能性も捨てきれません。

そうであれば会社の不動産投資も減少に向かう可能性があります。

全体として見た場合には、運用の行き先がない以上、一定の貸家投資ニーズはあるものの、足元の状況からは減速・減少が続く可能性が高いというのが筆者の見立てです。