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年金の積立不足が企業の外部格付に与える影響

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前回までに退職給付会計、退職給付債務、退職給付費用について述べてきました。

今回は、企業の退職給付制度に関連し、企業年金の積立不足が企業の外部格付に与える影響についてみていきます。

年金の積立不足とは

単体の退職対照表では退職給付引当金、連結であれば退職給付に係る負債が、いわゆる企業の年金の積立不足といえます。

図としては以下の通りとなり、単体の場合は図でいうところの改正前(平成24年改正)のままです。退職給付債務から年金資産を控除し、未認識項目(数理計算上の債務、過去勤務債務)を更に控除したものが退職給付引当金=年金の積立不足となります。

未認識項目を退職給付債務から控除するのは、この未認識項目が一定の期間内で処理されるためです(現時点で認識しなくても今後処理されてなくなるため)。

連結の場合は、未認識項目も含めて退職給付に係る負債となっています。

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出典 新日本有限責任監査法人ホームページ

企業年金積立不足の状況

少し古い記事ですが2016年8月5日の産経新聞の記事では、2016年3月末時点で上場企業の年金積立不足額は25.6兆円(退職給付債務の総額は93.5兆円、年金資産総額67.9兆円)となっていると掲載されていました。

年金積立比率でいえば73%弱といったところです。

2002年頃には年金の積立比率は30%台半ばしかありませんでしたので、企業の年金積立不足はかなり改善してきたということができますが、一方で未だに積立不足が存在していることも事実です。

ただし、積立不足額が上述の25.6兆円で変わっていないとしても、同じ2016年3月末時点では企業の現預金は109兆円です。積立不足を全部解消してもお釣りがくる水準といえます。

格付会社の考え方

企業の年金積立不足の状況がわかったところで、外部格付を付与する格付会社の年金積立不足にたいする考え方についてみていきましょう。

ムーディーズ

ムーディーズ・ジャパンが2016年12月に発表している資料(事業会社の分析における財務諸表の調整)によると、確定給付年金については、積立不足額および非積立型年金債務(これは日本では退職一時金となっていることがほとんどでしょう)を「債務」として認識しています。また未認識項目は勘案していないとも述べています。

よって、年金の積立不足額=退職給付引当金+未認識項目(上述の数理計算上の差異、過去勤務費用)ということになります。

以上の通り、ムーディーズは、例えば、企業の財務の安定性・安全性を表す自己資本比率を求める際には上記年金積立不足額を債務として計算しているということになります。

以下ムーディーズの公表資料を引用しておきます。

ムーディーズの考え方(出典 ムーディーズ 事業会社の分析における財務諸表の調整)

ムーディーズは、年金債務の契約上および規制上の性質からみて、積立型年金プランについては、未積立額が債務として貸借対照表に反映されるべきと考えている。したがって、数理計算に基づく予測給付債務(PBO)あるいは確定給付制度債務(DBO)が年金基金の資産の公正価格を上回った額を、期末の債務とみなしている。資産は通常、年金基金間で移管できないため、多くの場合、ムーディーズは未積立額のある基金の総未積立額を用いて債務の調整を行う。年金債務の契約としての性格を考えると、年金債務は「準負債」とみなされる。そのため、年金債務を貸借対照表上の負債に分類し、債務が含まれる財務指標の計算にも反映させている。
損益計算書では、過去勤務債務や数理計算上の差異の償却などの、会計処理上の期間配分効果を除去したものが年金費用となるよう調整している。ムーディーズは、「当期の勤務費用+予測給付債務(PBO)の利息費用-年金資産からの収益」を年金費用と考えている。しかし、ムーディーズは「その他の非経常的費用」を EBIT から控除するため、年金資産の運用実績の変動は EBIT に反映しない。キャッシュフロー計算書では、勤務費用を上回る年金信託への拠出は、年金関連債務の返済とみなす。

R&I

R&Iが2009年4月に開示している資料では、退職給付債務は債務の確定性の判断が難しいこと、金融環境の変化・制度の見直しによって債務の額が変わる可能性があることから、通常の借入等有利子負債と同じ扱いにはできないと述べています。

ただし、退職給付債務が(年金積立不足を穴埋めする必要から)有利子負債に置き換わる可能性があり、その金額が無視できないならば積立不足を有利子負債に準じて取り扱う必要もあると記載しています。

併せて、「国内で発生する退職給付債務は確定性が低く、その未積立額のうちオフバランスになっている部分が自己資本を上回っていても、その企業をただちに実質的な債務超過とはみなすことはない。格付評価にあたっても、現行の会計制度で引き当てている以上に積立不足部分をそのままオンバランスするような財務調整は行っていない」としていました。

直近のR&Iの考え方はわかりませんが、会計制度が変遷し企業の年金積立不足を貸借対照表上にオンバランスする流れがある以上、年金の積立不足については格付判断の基礎としているであろうことは想像に難くありません。

年金積立不足の外部格付への影響

以上、外部格付2社の考え方をみてきました。

現在の会計制度も考え合わせると年金の積立不足は格付会社が格付を付与する際に影響を及ぼしていることは間違いないでしょう。

外部格付を改善するのであれば、年金の積立不足を改善することも一つの方策なのです。

上場企業の国内借入ニーズは不動産分野を除けば決して強くない傾向が続いています。

2016年6月11日の日経新聞記事によれば「上場企業の手元資金は2015年度末に109兆円と過去最高を更新。手元資金が有利子負債より多い実質無借金の企業の比率は56%。」となっています。

上場企業は手元現預金が積み上がる一方で、マイナス金利政策導入による低金利環境下、余剰資金の運用に苦労しています。

企業にとっては、年金の積立不足は借入を行っていることと格付上は同義です(実際には会計上もあまり変わりません。ただし、年金の積立不足は営業利益段階で費用計上しているのに対して借入は経常利益段階で費用計上しています)。

格付の側面からだけでも、無借金企業にとって財務内容を今以上に改善するのであれば、年金の積立不足を解消することも一つの選択肢なのです。

銀行側にとっては、系列の信託銀行等をつかって、上場企業の余剰資金を有効に活用し年金の積立不足を埋めにいくという提案は有効かもしれません。

是非検討してみることをお勧めします。