銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の経営状況と地銀のアパートローンへの取り組みについて

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マイナス金利政策が導入されてから銀行の経営は厳しいと言われています。貸出先がないためアパートローンやカードローン、外債運用に銀行が注力しており、金融庁が問題視するようになってきたとの報道も目立つようになってきました。

では、銀行の現状はどのようなものなのでしょうか。今回は銀行の経営について考察します。

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銀行の決算状況のポイント

以下は少々長いですが(株)帝国データバンク 国内主要 112 行の預金・貸出金等実態調査(2017/6/30発表)から引用します。

2017 年 3 月末の 112 行(大手銀行 7 行、地方銀行 64 行、第二地方銀行 41 行、※信託銀行4行は含まれず)の貸出金は、505 兆 1669 億 8700 万円となり、2016 年 3 月末比で 11兆 5371 億 2400 万円増加(2.3%増)。大手銀行(1.0%増)、地方銀行(3.9%増)、第二地方銀行(3.2%増)の 3 業態すべてで増加した。
業態別の増減の内訳は、大手銀行(増加6行、減少 1 行)、地方銀行(増加 59 行、減少 5 行)、第二地方銀行(増加 33 行、減少 8 行)となり、112 行中 98 行(構成比 87.5%)で増加した。
また、112 行が 2017 年 3 月期(1 年間)に融資先から受け取った貸出金利息は、6 兆 2450 億1300 万円となり、2016 年 3 月期比で 169 億 9800 万円減少(0.3%減)。大手銀行(3.6%増)で増加した一方、地方銀行(4.1%減)、第二地方銀行(5.0%減)で減少した。
業態別の増減の内訳は、大手銀行(増加 4 行、減少 3 行)、地方銀行(増加 4 行、減少 60 行)、第二地方銀行(増加 2 行、減少 39 行)となり、112 行中 102 行(構成比 91.1%)で減少となった。
2017 年 3 月期の 112 行の収支<貸出金利息(収入)-預金利息(支出)の差額=本業利ざや>は、5 兆 5801 億 5200 万円となり、2016 年 3 月期比で 1058 億 9200 万円減少(1.9%減)。大手銀行(0.5%減)、地方銀行(3.0%減)、第二地方銀行(3.9%減)の 3 業態すべてで減少した。
業態別の増減の内訳は、大手銀行(増加 3 行、減少 4 行)、地方銀行(増加 6 行、減少 58 行)、第二地方銀行(増加 5 行、減少 36 行)となり、112 行中 98 行(構成比 87.5%)で減少した。
帝国データバンク 2017/6/30発表 国内主要 112 行の預金・貸出金等実態調査

この調査でみると112行中、98行で貸出が増加してにもかかわらず102行(構成比91.1%)で貸出金利息が減少しています。そして大手銀行は約半数が貸出利息が源生するに留まったのに対して地方銀行・第二地方銀行はいずれも9割以上が貸出利息が減少しています。利鞘をみても大手銀行と比べて地方銀行・第二地方銀行が厳しい状況におかれているのは理解できます。

銀行業態別の状況

次に一般社団法人全国銀行協会の公表資料から2017年3月期の銀行業態別の状況を確認します。

都市銀行

貸付金利息は全体では+3.6%と増加しています。国内では▲10.9%と苦戦するも国際で+25.2%と増加したため、貸付金利息はプラスを確保しました。
貸出金残高(末残)は全店で+0.9%、国内は▲0.7%、国際で+4.6%となっています。

地方銀行

貸付金利息は全体では▲4.0%と減少しています。国内では▲5.0%と都市銀行よりは落ち込み幅が少ない状況です。ただし、国際部門が伸びているとはいえ、都市銀行と比べて海外での貸出が少なすぎるため国内の貸付金利息の落ち込みをカバーするには至っていません。
貸出金残高(末残)は全店で+3.9%、国内は+3.7%、国際で+10.8%となっています。

第二地方銀行

貸付金利息は全体では▲4.9%と減少しています。国内では▲5.1%であり地方銀行と状況は変わりません。

貸出金残高(末残)は全店で+3.2%、国内は+3.1%、国際で+10.5%となっています。

信託銀行

貸付金利息は全体では+5.5%と増加しています。国内では▲10.3%と苦戦するも国際で+36.2%と増加したため、貸付金利息全体では増加となりました。こちらは都市銀行と状況は似たようなものです。
貸出金残高(末残)は全店で+4.6%、国内は+7.4%、国際で▲3.3%となっています。

以上を見てくると特徴的なのは、都市銀行は国内は厳しく海外の貸出が伸びていること、地方銀行は都市銀行よりは国内の貸出残高が相対的に増加していること、信託銀行の国内貸出の伸びが非常に大きいことと海外貸出が減少していることです。

なお、信託銀行の動きは特徴的だと筆者は認識しており、国内の貸出金の伸びは業態柄親密である不動産業に対する増加であり、海外貸出が減少しているのは外貨預金基盤の貧弱な信託銀行では海外貸出が伸ばせないということでしょう。

アパートローンの残高

手元資料によると地方銀行・第二地方銀行のアパートローンの貸出残高は2017年3月末時点で前年比+7.2%増の13.8兆円となっているようです。2010年3月末が8.8兆円ですから増加幅は足元で加速しています。

一方で大手銀行のアパートローン貸出残高は7年間で▲2.4兆円となり現時点で8.6兆円にとどまるようです。

2015年1月からの税制改正で相続税課税対象が拡大し相続税対策のためのアパート建設が拡大しているというのは、上述の状況をみると資金面からもある程度裏付けられます。特に地方でアパート建設が増加していることが想定できます。

地方銀行・第二地方銀行にとっての状況と今後の展開

貸出先の開拓に苦戦する地方銀行・第二地方銀行にとってはアパートローンは数少ない成長分野なのでしょう。また、地元に貢献することを求められる地方銀行・第二地方銀行にとっては海外ネットワークを一気に拡大し海外貸出に注力していくことは、資金面・人材面等から厳しいでしょう。

アパートはたしかに築が浅い物件は競争力があります(当然立地によりますが)。また、サブリースの形で賃料保証をしてくれる建築業者もあり、築年が浅いうちは銀行としても事業収支が一見読みやすい案件となります。

しかしながら全国には820万戸の空き家があり(2013年)、今後はこれが拡大してきます。全国住宅の5戸に1戸程度が空き屋である時代はもう見えてきています。金融庁の懸念もマクロレベルでみれば最もだと言えるでしょう。

地方銀行・第二地方銀行にとっては、アパートローンの案件についてはしっかりと案件の選別を行うこと、そして地元企業の資金需要を創出すること、(可能ならば)なんとかしてベンチャー企業を育成すること等をしていかなければならない時代に入ってきていると言えます。

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