銀行員のための教科書

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金利上昇や年金運用収益の好転が企業に与える影響

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平成29年7月20日の日経新聞記事に「年金費用、増益要因に 今期、割引率の上昇で」の記事が掲載されていました。

今回はこの記事について考察してみます。

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記事の内容

平成29年7月20日の日経新聞記事の内容は、国債利回りが若干上昇したことに伴い、年金債務を計算するために使う割引率が上昇したこと、年金運用成績の好転があることを要因として、東京ガスや日清食品など一部の企業では平成30年3月期に計上する年金費用が軽減される見通しであるという内容です。

割引率の上昇について

たしかに割引率の上昇および運用成績の好調により企業収益にプラスの効果が出ることはあり得ます。

少なくとも年金運用は日経平均株価が2万円を上回るところまで来ている現状では良い結果が出ている可能性が高いでしょう。これは結果として退職給付費用の削減に繋がります。

ただし、割引率の上昇については注意が必要です。割引率は債務の増減が大きくなければ割引率そのものを変更しなくて良いという重要性基準があるためです。重要性基準とは、割引率を変更しても退職給付債務の変動が10%以内に留まる場合は割引率を見直さないことができるという規定です。


割引率の増減が退職給付債務に与える影響について簡単に例を挙げます。

20年後に退職する社員がいるとします(60歳を定年だとすると現在40歳の社員ですので実際とはあまりずれていないでしょう)。

この従業員の退職金は1000万円です。割引率が0.5%の場合、1000万円の現在価値(=退職給付債務)は約905万円です。割引率が上昇して1.0%となると約820万円まで低下します。これが割引率の上昇による退職給付債務の変動例です。

ただし、この例では割引率=金利が0.5%上昇しても退職給付債務の変動は10%以内となっています。すなわち多少の金利上昇があったとしても割引率の重要性基準により割引率を上昇させない企業も多数あると想定されます。

重要性基準は適用が「できる」ものですから、東京ガスの場合は、この基準を適用しないということになるのでしょう。

ポイントとなるのは、昨年までの金利低下局面では退職給付債務が増加するので、重要性基準を適用して割引率の低下を回避してきた企業があるはずです。このような企業は割引率が上昇する局面だけ重要性基準を適用しないとするのは継続性の原則からいって難しいでしょう。

よって、日銀が金利上昇を抑えている現在の環境下では金利上昇幅が少ないため、割引率の上昇による退職給付費用の削減効果が現れる割合は多くないと想定します。

また、仮に退職給付債務が割引率上昇により削減されたとしても、退職給付債務の削減効果は後述する数理計算上の差異により複数年によって処理される方が一般的です。

東京ガスや日清食品は翌年度に一括処理をしているようですが、これは少数派となります。

よって、退職給付費用の削減効果は複数年に渡って分散されますので、単年度あたりの効果は小さくなります。

数理計算上の差異

数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益(想定される運用利回り)と実際運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績値との乖離及び見積数値の変更等により発生した差異をいいます。

数理計算上の差異は、過去勤務費用と同様平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に費用処理する必要があります。最短の処理期間は1年です。

当該記事のように年金の運用が好調な場合は、事前に想定しておく運用収益の見込と実際の運用結果の差額が数理計算上の差異として退職給付費用の削減をもたらします。ただし、上述の通り、この数理計算上の差異は一定期間で処理しますので、運用成績が良かったとしても複数年に渡って費用処理されることになります。

先に述べた割引率の上昇による費用の削減効果も数理計算上の差異の処理が複数年にわたり分散されることが通常です。

まとめ

今回の記事の通り、割引率の上昇や年金運用の好転は退職給付費用すなわち人件費の削減を通じて企業業績の増益要因になります。ただし現段階では上記に述べてきた理由により効果は小さいと想定されます。

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